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かぶりまくり

「アレックス、図書館で本を譲ってくれてありがとう」


 ふと思い出し、アレックスにお礼を言った。


 図書館で会った際、書架にある同じレシピ本を取ろうとして彼が譲ってくれたのである。


「いや、いいんだ。違うレシピ本を借りて帰ったよ」

「もしかして、あなたがお料理を?」

「ああ。執筆の息抜きにね。あるあるだろう?」

「そうね。とてもよくわかる。ムダに掃除をしたくなったり、片付けをしたくなったり、散歩をしたくなったり」

「わかるわかる。ぼくもそうさ。原稿用紙を前にペンを取ると、きまってあれやこれやと気になり始める。これをやっておかねばとか、あれをやり忘れていたとか」

「場所をかえてみたくなったりもするわ」

「それもあるな。いっそ旅にでたくなる」


 アレックスと視線を合わせたまま、苦笑してしまった。


「二人とも、だからか?だから、いつも締め切りに間に合わないのか?」


 そのとき、アニバルが尋ねてきた。とはいえ、彼はすっかり酔ってしまっている。


 彼は、アルコールにそれほど強くない。それでも、飲む。楽しい飲み方だから問題ないんだけど。ちょっとだけしつこかったり、鬱陶しかったりするくらいかしら。


「あー、そうかな?」

「そうだったかしら?」


 アレックスと視線を合わせたまま、同時にしらばっくれた。


 そう。やらねばならないことをせず、どうでもいいことをしてしまう。


 だから、たいてい締め切りに間に合わない。その度に、アニバルから矢のように催促がくる。ひどいときには、彼自身がやって来てお尻を叩かれる。


 ぜったいにアレックスも同じなはず。


「ところで、きみはどういう小説を書いているんだい?」

「ところで、あなたはどういう小説を書いているの?」


 口を開いたタイミングがまったく同じだった。


 二人の声がかぶってしまった。


 ディナー中もずっと気になっていたこと。


 向こうも気になっていたのね。


 それはそうよね。


「なんだと思う?」

「なんだと思う?」


 またかぶってしまった。


「おいおい、すっかり意気投合しているじゃないか」

「そうですよね。タイミング、バッチリです」


 アニバルとカルラは、無責任に言っている。


「これも小説のストーリーのまんまだな。出会いから再会、そして触れ合い。おたがいに秘密を持ったまま惹かれ合う。その謎めいたところがまたいいんだ」

「こういうのって、恋愛小説に多いんですよね?」

「カルラ、そうだな。一番多いのは恋愛物だ。だが、どんなジャンルだって有効だぞ。ミステリーだってそこから話を膨らませられるし、バイオレンスやハードボイルドだってそうだ。児童小説でだってあるぞ」


 アニバルとカルラは、アレックスとわたしをネタに盛り上がっている。


 だいたい、アニバルがきちんと説明するべきなのよ。


 しかも、彼とわたしの担当編集でしょう?


 二人とものことを、だれよりも知っているんじゃない。


「クミ・オラーノは本名?それともペンネーム?」

「アレックス・オルモスは本名?それともペンネーム?」


 なんてこと。またまたかぶったわ。


 わたしたち、どれだけタイミングが合えばいいの?


「ほら、やっぱり」

「ほら、やはり」


 そして、アニバルとカルラもタイミングがバッチリになってきた。


「本名だよ」

「本名よ」


 はぁぁぁぁぁぁ……。


 キリがなさすぎだわ。


 彼もそう思っているはず。


 思わず、苦笑してしまった。


 彼も美貌に苦笑を浮かべている。


 あらためて彼を見てみた。


 アニバルには悪いけど、二人が同じ人間ひとという種の同じ性別で同じ国に生まれて育ち、すごしているとは到底思えない。


 彼は、それほど美しく感じがいい。


 不意に彼が指を一本、それを自分の口の前に立てた。


 静かに、という合図ね。



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