ディナー
「だとしても、楽しい夢だから」
アレックスとまた視線が合った。
そうね。悪い夢じゃないわ。どちらかと言えば、いい夢かもしれない。
「だとしたら、目が覚める前にディナーにしましょうよ」
「それはいい。覚めるんだったら、食って飲んでからだ」
提案すると、すぐにアニバルがのってきた。
「葡萄酒を持って来ているんだ。初対面の挨拶がわりにね」
アレックスは、馬車でやって来ていた。
一ダースの葡萄酒持参で。
彼はいったい、わたしがどれだけ飲む女流作家だと思っていたのかしら。
というか、アニバルがいらないことを言ったんじゃないでしょうね?
アレックスとアニバルがワインを運びこんでくれた。
ディナーは、ガスパチョにトマトのサラダ、野菜の煮込み、白身魚のクロケッタ、魚介のパエリア、デザートはチェロスとがんばってみた。
もちろん、カルラがメインでだけれども。
今夜ばかりは、わたしもダイエットのことは気にしない。
久しぶりにおおいに食べて飲んだ。
「この子、ちゃんと走れるんだ」
モフモフが足元にまとわりついているのが愛おしすぎる。
先程は、夕陽でよくわからなかった。抱き上げてよくよく見ると、ちゃんと四本の脚があって顔もある。
モフモフ仔狼だわ。
ロボ・ドラドって大げさな名前だけど、たしかに金色の仔狼ではある。
「何を食べるのかしら?やはり、肉?だったら、お昼の残りがあるけれど」
夜は魚介をメインにした。
アラニス帝国は内陸部にあるけれど、海はそう遠くはない。この街は街道の分岐点でもあるので、流通も盛んである。
魚介類の入手も手軽に出来る。それに、そう多くはないけれど、湖で魚も獲れたり釣ったりすることも出来る。
「肉以外でも食べるよ。だけど、どちらかと言えば肉食かな?」
「いらっしゃい。お肉をあげるわ」
「クミ、悪いよ」
「いいのよ、アレックス。彼もお客様だから」
胸元に抱え、台所へ行った。
ランチに出した煮込んだ肉を小さめに切り分けて浅めの皿に移し、床に置いた。
「キュー」
モフモフのお尻のある小さな尻尾をふりふり飛び回っている。
「なにこれ?たまらないわ」
キュンキュンきすぎている。
こんな可愛らしい生き物がいるなんて……。
「さあ、召し上がれ」
空になった鍋に水をはろうと蛇口をひねり、視線を床へと戻した。
「え?も、もう終わったの?」
あきらかにモフモフの小ささには多い量だった。なのに、皿の上に何ものっていないのである。
ソースまで消えている。つまり、ベロリとなめとったかのように皿がきれいになっている。
「す、すごいのね。食べるの、はやいんだ」
それしか言えない。
「クーン」
モフモフが足にまとわりついてきた。
まあ、モフモフでも狼だからこんなものなのかしら?
そう結論付けることにした。
彼を抱き上げ、食堂へ戻った。
食後は、居間に移ってお酒を飲むことにした。
とはいえ、持参してくれた葡萄酒だけれども。
後片付けは、アレックスも手伝ってくれた。手際がいいのに驚きつつ、カルラと三人でささっとすませた。
当然だけど、アニバルは手伝わない。いつものことである。
長椅子にカルラと座り、ローテーブルをはさんだ向こう側にアニバルとアレックスが座っている。
談笑しながら葡萄酒を飲み、チーズをつまむ。
二年以上前、まさかこんな場面を経験することになるとは想像もしていなかった。
作中でのことならいくらでも出来る想像も、自分自身になぞらえると脳裏の片隅にチラリとでも浮かんでこない。
だけど、これは現実なのである。
モフモフは、わたしのお尻の横でモフモフしている。たぶん眠っているのね。




