モフモフーーーーー!
驚いているアニバルに手短に説明をすると、彼は大笑いした。
「なんだって?まるで下手な恋愛小説の冒頭シーンそのまんまじゃないか」
ええ、アニバル。あなたの言う通りよ。
だれだってそう思うわよね。
思わず、苦笑してしまった。
すると、まんま君と視線が合った。
図書館で見た碧眼は、いまは夕陽で真っ赤に染まっている。
「レディ、アレックス・オルモスです。モリーナ王国で生まれ育ちました」
まんま君、いえ、アレックスが手を差し出してきた。
そのとき、何か違和感を覚えた。が、このときには何に対してかはわからなかった。
「クミ・オラーノです。このアラニス帝国の帝国民です」
差し出された手を握り、ブンブンと上下に振る。
夕陽で真っ赤になっているけれど、一瞬だけ彼が驚いた表情になった気がした。
わたしの握力に驚いたのね。
運動や家畜の世話や農作業で、ずいぶんと力が強くなっているから。
「女の割りには力が強い」
って、思ったはず。
「こちらは、クミの尻ぬぐい兼命綱のカルラ・サンターナ嬢だ」
わたしがカルラを紹介するまでに、なぜかアニバルが紹介していた。
「ちょちょちょ、いまのはどういう意味なのよ?」
たしかにそうかもしれないけれど、アニバルにそんなこと言われたくないわ。
「そのまんまの意味さ。だろう、カルラ?」
アニバルがおどけたように同意を求めると、カルラは美しい顔にやわらかい笑みを浮かべた。
「そんなこと、少しだけありますけど……」
「ちょっ……、カルラ、あなたまでなにを言っているの」
「お嬢様、冗談ですよ。わたしは、お嬢様にいろいろ救われています」
「ええ、お二人の様子でわかるような気がします。アレックスです。よろしく」
カルラもアレックスと握手を交わした。
「クーン」
そのとき、アレックスの足許に何かが転がっていることに気がついた。
「ああ、すまない」
彼は屈むとその丸っこいものを両手ですくった。
「キューッ」
「な、なにこれ?」
彼の両掌上に小さなモフモフがのっている。
「やだ。なんてことなの。可愛すぎる」
わたしは、控えめに言ってもモフモフに弱い。毛の生えた動物は、何でも大好きである。
だから、わが家の家畜たちはぜったいに食べたりしない。どれだけ困窮しようと、毛の一本も抜いたりするものですか。
訂正。毛は抜きたい。毛を抜くのは大好き。
毛の生えかわる時期になると、ムダにブラッシングしてしまう。やわらかい毛がゴソッと抜ける感覚は、得も言われぬものがある。しあわせを堪能出来るひとときである。
「こいつは、ロボ・ドラドだよ。すまない。ずいぶんとシャイでね。ぼく以外の人間には懐かない……」
「モフモフちゃん。ロボ・ドラドっていうのね。クールな名前だわ。はじめまして。握手してくれる?」
興奮のあまり、って、わたしが興奮しているってことだけど、とにかく、アレックスが何か言っているけど耳に入ってこない。
彼の掌の上のモフモフに指先をそっと近づけていた。
「クーン」
すると、ロボ・ドラドがわたしの指先にモフモフした小さな体をこすりつけてきた。
「ああ、たまらないわ」
やっぱりモフモフだわ。最高の癒しよ。
正直、美貌のアレックスより魅力的かも。
「へー。ロボが他人に懐くなんて、初めてのことだよ」
「これは驚いた。おれだと、すぐにどこかに隠れてしまうのに」
アレックスとアニバルが感心している。
「こんなところまで小説のまんまじゃないか。主にしか懐かないなんらかの獣が、ヒロインとかヒーローには懐くってやつ。もしかして、おれたち全員夢でも見ているのかもな。小説風の夢を、な」
アニバルは、そう言ってから豪快に笑った。
たしかにそうね。あまりにも小説すぎる。
ハッと気がついたら、長い長い夢を見ていた、とか?




