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北方環東記  作者: 守屋三
9/20

暴走

ROUND 2 FIGHT

 地面に叩きつけられた黒天狗が、血を吐きながら起き上がろうとする。


「がはっ。・・・くそ、楽な仕事だと思ったのにこのざまか」


 しかし、文はそれを許さない。


「ふっ」


 文が黒天狗に横から蹴りを放つ。


 蹴りを食らった黒天狗が転がっていく。

 その先には・・・椛がいた。


「これ以上は厳しいか。ならばこうするしかあるまい」


 黒天狗は椛の背後に回る。


「む、あなた何を」


「全てをぶち壊せ!白狼!」


 黒天狗は椛の背中を叩くように強く手を押し付けると、その手の先から爆発するように赤黒い妖力が椛に流れ込む。

 全ての妖力をつぎ込んだのか、黒天狗はそのまま空気に溶け込むように消えてしまった。


「何!?」

「嘘!?」


 黒天狗の突然の行動とその後の現象に驚く文と透香。


 その次の瞬間、椛の全身から先ほどの赤黒い妖気が溢れ出す。


「う、わおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!」


 突然咆哮する椛の毛は逆立ち、目は血走り赤く光る。

 その瞳は文を捉えると、異様な瞬発力で文に飛び掛かり、大太刀を振る。


「ぐるおおおおおお!」


「む!」


 文はすんでのところで後方に飛び、太刀を避ける。

 その太刀は地面まで突き当たったかと思うと、そのまま石が砕ける。


「力も上がっているのか!?」


 文が神社の敷石が砕かれたことに少し目を見張る。

 博麗神社の床に敷き詰められている石は通常の石とは違い、巫女の霊力が込められ硬度があがっている。そのため、鬼が全力を出すくらいでなければ砕けないようになっているのだ。


 しかし、驚いている余裕も今の椛相手には存在しない。


「があ!」


「!?」


 文が驚いた次の瞬間には、椛の太刀が目の前に迫っている。

 体を反らして、何とか太刀を避ける。

 更に風を使って、椛から距離を離そうと試みる。


 しかし、


「ぐるああ!」


「な!?」


 椛は文に追い付き、更に太刀を振りかざしてきた。

 文は椛のあり得ない速度に扇で太刀を受けるしかなくなった。


「うぐ」


 椛の予想以上の力に文は太刀を受けきれず、吹き飛ばされる。

 そして、文はそのまま地面を転がり、透香の目の前で止まったかと思うと、口から血を吐いた。


「文さん!?」


 透香は咄嗟に椛に向けて御札を放り、一緒に自分の周囲にも御札を放つ。

 拘束と防御の結界。

 強い妖怪ならばすぐ破られてしまうような普通の結界だが、どうやらあの椛には有効なようで、結界の中で苦しむような様子を見せていた。


 少し猶予が出来たため、透香が文の体を見ると背中の傷が開いており、止めどなく血が流れていた。


「傷が・・・」


 先ほどまでの戦闘に加え、異様な様子の椛の攻撃を受けたのだ。

 塞がりかけていた傷も開くというもの。


「まったく、情けない体だ・・・」


 文は力なくも悔しそうにつぶやくが、ここまでやれていたこと自体、凄いことだ。むしろ、感謝したいくらいである。


 しかし、透香にとってあの椛を倒すためには文の力が必要なのも自明である。


 ならば・・・


 透香は袖から1つの御札を出し、それを文の背中の傷に貼り付ける。


「うぐっ。なにを…これは!」


 何かをやられたことに不快感を抱く文であったが、次第に現れる御札の効果に驚いていた。


「これは回復の御札よ。文さんに効くように調整した姉さん謹製の…ね」


「…またあいつに助けられてしまったのか。死んでも貸しを作られるとか、私は破産してしまうぞ」


 これは先代から透香に渡されていた護身用の切り札の中の一枚。文が味方に付く時が必ずあると見越して作られた御札だ。

 御札の効果は治癒効果の向上だけなので、巫女の透香でもこれくらいの大きな傷は止血くらいにしかならない。

 しかし、天狗である文の場合、素の治癒力が高いため、御札が絶大な効果を現す。

 つまり、傷が完全に治ってしまうのだ。


「この借りは倍にして返すわ」


 完治した文はスッと立ち上がり、結界を割ってこちらに向かってくる椛を見据えていた。

 その姿は先ほどまでの不調感はなく、威厳すら出ている。


「がああああああ!!!」


 近づいてきた椛が獣のように咆哮しながら大太刀を上段から振り下ろしてくる。


 文はそれをさっと横に躱す。

 勢いよく振り下ろされた大太刀が先ほどと同様に敷石を砕く。

 砕けた石が透香にも飛んできたため、避けるためにその場を動く。


 その間にも椛の応酬は続いていた。

 文に向けて縦横無尽に振るわれる大太刀。

 少し前までは必死に避けていた文だったが、今は軽く避ける上に追撃する余裕すらあった。


「外部妖力による肉体強化と暴走…理性の減衰といったところか。力は強くても一直線なら避けるのは容易い」


 時折、真空波で傷つけるも、椛はそれをまったく意に介さない。

 まるで野生にいる狼のように、狂暴に強烈に大太刀を振り回しており、その威圧感は並大抵のものではなかった。


 文はならばと一旦距離を離して、風弾を飛ばして遠距離からの攻撃に切り替える。

 撃つたびに場所を移動し、椛をかく乱しようとするが、本能で反応しているのか、異常な速度で対応し、文へと向かっていく。


 しかし、その反応の仕方で文は何かに気付く。


「なるほど、能力は使えなくなったようだ」


 犬走椛は千里先まで見通す程度の能力を持つ。

 逆に千里先まで見通す程度の能力を持つ者が犬走椛の名を持つことになるのだが今は省く。

 何が言いたいかというと、どんな風に動こうと椛は文を見失うことがないのだ。


 だが、先ほどの椛はほんの一瞬だが文を見失う素振りを見せた。

 故に


「これが効く」


 初撃の再現


 文が椛の背後に回りつつ、風を吹かせ突撃をかける。

 だが、椛は初撃より異常に速い速度で背後にいる文に向けて大太刀を振り切る。


 いや、振り切ってしまった。


 椛の背後に文はいない。

 実は椛の背後に回らず、前方上空にいたのである。

(これは動くときに発生する風の動きを利用した攻撃である)

 椛が大太刀を振り切ったのを見て、文は椛の後頭部にかかと落としを食らわせたのであった。


「がっ!?」


 頭に強い衝撃を食らった椛はそのまま倒れ、地面で痙攣しながら動かなくなった。

 文はそれを見て、息をつく。


「獣に近づけば近づくほどフェイントに引っかかりやすくなる。強い力だが、私はごめんだ」


「強い…姉さんに毎度片手間で遊ばれていた天狗とは思えない…」


「その話はしないで!?」

先代巫女の日常風景


文「(先代巫女名)!決闘だ!今日こそお前に勝つ!やー!!(空中から突撃)」


先代巫女「えい」


文「へぶし(地面に顔から突っ込む)」

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