序章幕間 博麗神社 階段
いつもの神社の階段、
何百、いや何千回と上り下りしてきた慣れた階段だ
…そのはずなのだけれど
今はとてつもなく高く、遠いもののように見えた
どんよりとした黒い曇り空
そんな雲に上から押さえ付けられているかのように体は重く、足が上がらない
階段の上を見ることはできず、ただ、足元の一段一段を見ることしか出来ない
歩みはまったく進まず、つられて気分は落ち込んでいくばかり
これは、何かが邪魔している?
それとも天気がわるいせい?
それともこの肌寒さ?
…いや、原因は明確だ
階段を上った先、その先にまた、あの死体があるのではないかと恐れているのだ
あの…惨殺死体が…
…考えるだけで目眩がして吐きそうになる
しかし、進まなければいけないのも事実
情報を集める為の準備をしなければならないのだ
あの男…信用ならない男だが、死体が無くなったのはこの目で確認した
ならば、ないものとして進まねばならないだろう
そう奮起して…
無理矢理でもこう考えなければ進まない心と足を叱咤して、階段を上る
しかし、歩みは早まるどころか遅くなるばかり
まるで、置いてけぼりな今の私の状況を表すかのように…
…
無限かと思われる階段も、足を進めていれば終わりが見える
段々と鳥居が見えてくる。
そして、その先に見えるのは…死体は…
無かった
心のつっかえが取れるように足取りが少し軽くなる
そして、階段を上りきり、一歩を踏み出そうとしたところ、
「愉快なことだな。あれだけなことをしておきながら、仲良しごっこを続けるとは」
そう、背後から女の声が聞こえた
勢いよく振り返る。
だが、背後には誰もいない。
?
周りにも誰もいない…
幻聴だろうか
幻聴にしてははっきり聞こえた気がするが…
それに…
いや、気にしないのが一番である
そう決め、境内へと向かう
向かいつつも、その胸には、先ほどの言葉が杭のように刺さっていた
あんなことをしておきながら
仲良しごっこ
私がしたわけじゃない!
けど、したことになってしまっている
これは罪なのか。
八雲紫という幻想郷にとって一番大事な存在だ。
私が殺したわけではない。
が、死んでしまったのは確か。
なら、その責任は…?
その事実とこれからの幻想郷のこと、考えることが多すぎて頭の中が更にごちゃごちゃしてくる
葛藤、罪悪感、後悔、逃避、絶望
あらゆる悪感情が鎖となり、巫女の心を縛り付けていくかのようであった