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北方環東記  作者: 守屋三
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人里の異常

陰陽師の男を女にした方がいい気がしてきました

この話らへんから短編と構想が大幅に変わったため、齟齬があるかもしれません

 その言葉に全員が顔を向ける。

 そこに立っていたのは少女と妙齢の女性が二人。少女は、紫色の髪をおかっぱにし、黄色の着物に若草色の羽織を来た、10いくかいかないかくらいの姿であり、妙齢の女性は、白金交じりの黒髪に少女と同じ黄色の着物に赤の羽織を来た姿であった。


「これはこれは稗田阿纂さま。わざわざこちらの催しをご視察に?」


 少女の名は稗田阿纂。稗田家の当主であり、透香が妖怪退治のためよく参考にする書物「幻想郷縁起」を編纂する透香にとって大切な人物である。


「あれだけ喧伝していれば誰でも気付きます。

 しかしこれは・・・外の世界の遥か遠方から来たという宗教に関わるものでしたか」


「おお、さすがは阿纂様。よくご存知で」


「いえ、昔、やたらと外の宗教を広めようとした人物がいたので。それも今と同じく騒がしいくらいに」


 阿纂は当時のことを苦く思っているのか、顔を渋くして話した。


「そのような、しかも、このように大きなものがあるというのは、いささか不穏にすぎるのではないでしょうか」


「いえいえ、阿纂様。真逆ですとも。これは悪しきものを清めるために立てたもの。不浄なる気を浄化し、さらに偉大な巫女様を讃えるための象徴なのです!」


「・・・はあ、そのような目的なら人里古来のものがあるはずですし、そうでなくても、3つは立て過ぎではないでしょうか。1つあれば十分のはずです」


「侮ってはいけませんぞ、阿纂様。巫女様が対峙した大妖怪、かなりの妖力を持っていた様子。その影響力ははかり知れませんぞ。これを清めるためには古来のものだけでは不十分!もちろんこの十字架一つだけでも不十分と私は判断いたしました。

ゆえに3個!これだけあれば十分に清めることが出来ましょうぞ!」


 大げさな動作で、指を三本立ててこのようなことを話す男。

 男の無駄な迫力と呆れで阿纂を含めた少女三人は何も言えなくなってしまう。

 彼女たちの様子を見てか、先ほどまで阿纂の後ろで控えていた女性が声を発する。


「失礼ですが、あなたは、ここ最近こちらに入ってきた方でしたか」


***女性の名は金邊亜貴子(仮)。まだ身体的には幼い阿纂を世話役として支える妙齢の女性である。***


「ええ、そうですな。小生、2,3年前ほど前にここに迷い込み、そして定住した身です」


「ならば、このような愚行をしてしまったのは仕方ない・・・・・

 と言うと思いましたか!

 このような人里や博麗の巫女様、いえ、博麗神社自体を軽んじるような蛮行、一切認められません!」


 それまでの静かな佇まいから一転して、烈火の如く怒りをあらわにする金邊。

 彼女は阿纂の世話役を務める以前は人里の顔役のようなこともやったことがあり、また先々代巫女と顔見知りでもあるため、この幻想郷について深く知っている人物である。そのため、こういった祭りや神に関することには人一番うるさく、透香も巫女を始める前後は耳にタコが出来るくらい叱られたという苦い経験があった。


 しかし、男はそんな金邊の怒気に負けず、むしろ、逆らうようにより一層声を強める


「いやいや、そんなことはございません!逆にこれは巫女様を讃えているのですぞ!

 外の神にも偉大な巫女様がいると喧伝するためにこうするのです!」


「これのどこがですか!むしろ喧伝してるのは逆に外の神の方ではないか!」


「なに、これはまだ準備段階。巫女様を喧伝する行いは祭りが始まってから行いますれば・・・」


「ここから更に何かをしようっていうのかい。あたしにはこれ以上やることっていっても燃やすぐらいしか見えないけどね。それこそ不敬が極まれりってもんだ。そんなことをやらせられないよ」


「いえいえ、確かに燃やすこともできますが、それでは元の更に元の意味に戻ってしまいます。私どもが行おうとしているのはもっと良きこと、尊きことであれば」


「そんなことを言って・・・」


 それからお互いに怒鳴るような声で(実際に片方は怒鳴っているが)行われる言葉の応酬。

 透香たち三人はあまりの声量にたまらず耳を抑える。

 このような意味不明な祭りを行わせたくないのは透香も同じだが、これだけ騒いでしまうと目を引いてしまうのもまた困りごとであった。

 事実、周囲の人たちが二人の言い争い声に反応して集まってきて、二人の周りを囲い始めている。


「大体、何で3個なんだい。中途半端な数字だね」


言い争いの中で、金邊は丁寧な口調が崩れ、素の荒い口調が出て来ていた。


「んっふっふー。それを聞いてしまいますかな」


 男は卑しそうにニヤけ顔で笑う。



「なんだい急にニヤけだして。気持ち悪いねえ」


 金邊は顔をしかめ、嫌悪感をあらわにする。


「んん、失礼。いや、言いたいのですけどね。これだけ人が集まっておりますれば…言ってしまっていいものかと小生思いまして」


 男は周囲を表すかのように鷹揚に腕を広げる。


「はあ…そんな大層な理由があんのかい」


「ええ、ええ。ありますとも。それはそれは重大な理由がありまして。

 …言ってしまっていいのですな?」


「ふん、そんなにもったいぶっても騙されないよ。どうせつまらん理由だろ」


「…ほんとに良いのですな?」


 男は心配するような口調で話しているが、その顔はにやけるような、いや、嘲笑うような雰囲気が垣間見えた。


「くどい!」


 そんな様子を見てか。男の再三の確認に苛ついた口調で返す金邊。

 その返答に、男は一転して静かに、しかしよく通る声で語る。


「では、僭越ながら…実はこの人里に3匹ほど危険な妖怪が紛れ込んでことがわかったのです」


 男の言葉に周囲がザワザワと騒ぎ出す。


「ふん、別に妖怪がいるのは不思議じゃないさ。それに何かあったとしてもどうにかするのがあんたら専門家の仕事だろ?

 ・・・いや、まさかそういうことかい」


 金邊の言葉に男は我が意を得たりと手を広げ仰々しい動作で話始める。


「そう!そうなのです!普通の妖怪であれば私どももここまでやることはいたしません。

 しかし此度紛れ込んだ妖怪は相当な大物!そして狡猾!ゆえにこうして大掛かりな仕掛けを用意した次第でございます」


「ふぅん、私のところにはそういった話は聞いてないけどね。一体どこから聞いた話なんだい」


「ふふふ、聞いてないのは当然でしょう。なぜなら!」


 男は金邊に指を指しながら力強く語る。


「金様、あなたに関わりがある疑いがあるからです!」


 その言葉に周囲のざわめきも大きくなる。


「はあ!?何言ってんだい。そんなことするわけ」

「んん、失礼。まだ噂程度の段階でしたな。」


 金邊の言葉を遮るように男は話す。


「しかして、あなたには疑わしい話もいくつかあるのです。例えば、鬼と力比べで渡り合ったとかいう話ですな」


「それは…酒の余興の話じゃないかい。第一、先々代の巫女様が監視に付いていたから」


 当代巫女の透香から二代前の巫女の時代、ではあるが、とある事情により数十年程度の前の話である。

 とはいえ、そんな前の話を持ち出されては、金邊も困惑せざるを得なかった。


「んーまあ、調べた限りそのようですな。ただ如何せん噂が多いのです。全て調べるのに骨が折れましてな。それでつい、口に出てしまったというわけなのです」


「言っていいことと悪いことがあると思うがね。私もそれなりに長いし責任もあるんだ。変な噂程度でここを混乱させるのはやめてもらおうか」


 金邊は以前はその面倒見の良い性格と強靭な肉体から人里の多くの人から頼られる立場に就いており、阿纂が生まれた際も、そんな事情から補佐役を頼まれたという経緯があった。

 また今も他の人たちからよく頼られる存在であり、その責任感は人一倍である。


「それは失礼をば。無実の時は後日しっかり謝罪させていただきます故。

 …しかし、そうでなかった際は」


「そんなもしもの話をされても困るさね。まあそんなに言うならまずはどんな噂か聞かせてもらえないかね。」


「おお、それは大いに助かります。ならば、後ほど御助力頂ければと」


 男は恭しく頭を下げる。

 だが、金邊はそれを鼻で笑う。


「ふん。いや、今すぐにだよ。こういうのは早めに解消するに限る」


「んん、それはご勘弁をば。まだまとめきれてない故、すぐは無理かと」


「それなら一緒にまとめていけばいいさね。いいから行くよ」


 なんとなくはぐらかされる様な雰囲気を感じた金邊は、有無をいわせないよう強引な態度で男の語る場所へと行こうとする。

 しかし、男は慌てた様子で前を塞ぎ、金邊を止める。


「お待ちくだされ、お待ちくだされ。本当にまだ乱雑なのです。今の状態ではとてもお見せできるようなものではありませぬ。急ぎまとめる故、お待ちいただければと」


「うーむ、そんなかい。やけに胡散臭いが…まあ、待ってやらんでもない」

「おお、では

「ただし、今日1日だからね。それ以上は否が応でも入らせてもらうよ」


 相手にペースを掴ませないよう、強引に話を進める金邊。

 その目力は男を圧倒する。


「んんん!まあ、お気持ちは分かります故、仕方ありませぬな。

 では、急ぎましょうぞ。これにて失礼」


 怯んだ男は数人の連れを伴い、足早に去っていった。


 金邊は男の姿が見えなくなったのを確認してから、体の力を抜き、大きくため息をつく。


「はあ…やれやれ。まさかこんなことになるとはねえ。やっかいだよ。

 さあ皆。騒がしくしてしまったのは申し訳ないが、これで終わりだよ。

 自分の持ち場に戻った戻った!」


 金邊は周囲に解散を促し、それに呼応するように周囲の人々も元の場所へと戻っていく。


(阿纂の補佐を初めてから、雰囲気が落ち着いたと思ってたけど、そんなことは無かったわね。昔と変わらないわ)


 金邊の姿を見て、透香はそんなことを思っていた。頼りがいがあると思いつつ、その心に申し訳なさを含んで。


 人がまばらになり、ふうと一息つく金邊に、阿纂が頭を下げながら、話しかける。


「申し訳ありません、金さん。私が不甲斐ないばかりに」


 しかし、謝罪の言葉に首を振り、金邊は語る。


「違います、阿纂様。あの男は異常です。それに取り巻く者たちも何か…異様な雰囲気があります」


 こういう金邊の顔はとても険しかった。


「異常…ですか。確かにこのようなものを建てたり、言動が珍妙であったりしましたが…」


「もちろん、それもありますが…それ以上に嫌な予感があります。何か大変なことを企んでいるような。それと…いえ、これは気の所為でしょう」


 何かを言い淀む金邊に対し、阿纂は首を傾げる。


「何か気になることでもありましたか?今は情報が不足しているので、些細なことであっても構いません。言ってみて下さい」


 阿纂の口調は柔らかくも、しかし、その問いは真面目であった。


(こうなった阿纂は頑固なのよね)


 こう思う透香。阿纂は知識と情報をまとめる者だけに、そこに関わる部分へのこだわりは強い。

 金邊もそれはわかっているため、言い辛そうにしつつも話始める。


「とは言っても、あまり多くは話せないが・・・あいつが言っていた私と鬼の力比べの話、少々気がかりなことがあってね・・・」


「あの男が噂話として出したやつね。私も気になってたんだけど、どこまで本当なの?」


 先々代・先代とは関わりが深いため、透香も興味深く問いかける。


「本当に酒の余興さ。立ち上がって全力の私と座って頬杖を突いたうえで小指1本の鬼。それでも巨岩を相手にしている気分だったがね」


 当時を思い出したのか、苦笑いしながら金邊は話す。


「ふーん、でも、それだけで噂になるかしら?」


「てか、思ったんだけどさ。なんで人里の宴会に鬼がいるんだ?」


 人里に妖怪が紛れ込むのは日常茶飯事であるが、鬼となると話は別である。

 過去の騒動により地上からいなくなった鬼が人里に来ることはないため、現れたとすれば人里に対抗する手段はなく、一大騒動となるのは想像に難くない。


「あっ、確かに!・・・と思ったけど、どうせお母さんの伝手でしょ」


 その疑問に対し、透香は呆れつつもこう話す。

 ちなみにお母さんとは先々代博麗の巫女のことである。


「流石に透香ちゃんはわかるかい。まあ、ちょっとした経緯があるんだが・・・すまないが、先々代に口止めされていてね。これ以上は言えないんだよ」


 申し訳なさそうにしつつ話す金邊。

 しかし、3人は特に気にした風もない。


「まあ、あり得ないことだからな。何かしら特殊な事情があるのは察するよ」


「ええ、あまり詮索するのはやめましょう。金さんもあまり言えないとはいえ、話していただきありがとうございます」


 逆に感謝する阿纂であった。

 その態度に焦ってしまう金邊。


「いやいや、いいんだよ。こんな状況だからね。あまり隠し事は無い方がいい」


 金邊の言葉に透香が頷く。


「そうね。これだけ周りが怪しいもの。私たちも結束を強めたほうがいいわ」


「一致団結ってやつだな!関係を密にしていこうぜ!」


「あんたはそれっぽい言葉を言いたいだけでしょ・・・」


「ふふん、天才の私に出来ないことはない!」


「はいはい」


 理紗は天才であることを誇示したいのか、たまに賢い風の言葉をしゃべりたがる。


(付き合うと長くなるから、軽く受け流すに限るわ)


 若干酷いことを思う透香であった。


 一通り話がまとまったところで、阿纂が締めに入る。


「では、今後は情報を集めつつ、わかったことや怪しいことがあれば共有していきましょう。

あとは金さんの噂話の件も対応していかねばなりませんが・・・」


「それは私に一旦任せてもらえるかい。無い腹を探られるのも嫌だが、そんな噂であんたたちも嫌な気持ちになるのはこちらも不本意だからね。出来る限り私だけでさばいていくよ」


「そうですか・・・金さんだけに負担をかけてしまうのは申し訳ありませんが、」


「ははっ、何言ってんだい!こういう時のための私さね!

 先々代様からもそう言われただろう?」


 調子が戻ったのか、豪快に笑いながら金邊は話す。

 逆に阿纂は申し訳なさそうにしていた。


「まあ、そうなのですが・・・無理はしないでくださいね」


「おうさ。助けが必要ないくらいやらせてもらうよ」


「金さんがそういうと、本当にそうなりそうなのよね・・・」

「まったくだ・・・鬼の話も過少申告してんじゃないかと「余計なことは言わんでよろしい!」

「ヒエッ、ごめんなさい」


 頼りがいがあるが怒らせると怖い、そんな金邊の一面を見つつ、今後の方針も決まった。

 そして、定期的に集めた情報の共有を阿纂の家で行うこととなった。


 3人と別れ、透香は神社へと帰還する

書き始めと終わりの期間がかなり空いてしまったので要約

・人里が謎のお祭り準備中(何故かでかい十字架3個ある)

・新キャラ:霧雨理沙(幼馴染)、稗田阿纂(ロリ当主)、金邊亜貴子(阿纂の補佐・通称:金さん・仮名(使用していい名前か不明のため)

・金さんに疑いの目が向けられる(過去の嘘とも本当とも言えない噂から)。その場は一旦収まるが疑念はそのまま残る

・情報集めと定期的な共有をすることに決め、とりあえず自分の家に帰ることになった(桃花は神社へ)


※稗田阿纂は阿と纂の間に文字があったりなかったりしているが、呼び辛いので阿纂と呼ぶことになっている

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