死体
「・・・」
○%×$☆♭!#▲三代目博麗の巫女である博麗透香はショックのあまり、その場に茫然と立ち尽くしていた。
身体中ありとあらゆる部分が切り刻まれ、顔も原型がわからなくなるほどに潰されている。
だが、血にまみれたり、破けたりしているものの、身に着けているものやわずかに残された身体の部分など、部分部分で紫と判別することができるようになっていた。
まるでわかる人にはわかるように・・・
その事実を直に突きつけるように不気味に残されていたのだ
これを直に突きつけられた透香は、目の前の事実を受け入れることができず、
ただ立ち尽くすことしかできなかった。
透香がその場に立ち尽くして、どのくらい時間が経っただろうか。
長い時間だったかもしれないし、ほんの少しの時間だったかもしれない。
わかるのは、透香には恐ろしく長い時間その場にいたという体感であった。
「きゃあ!?」
悲鳴が聞こえた。
透香が反射的に声がした方に顔を向けると、参拝者であろう数名の人たちが
石段のところにいた。
声を上げた女性はこの死体を見て顔面蒼白となっていた。
他の参拝者たちも声は出さないものの、それぞれ驚愕の表情を見せていた。
この状況を見て、透香の意識が戻ってくる。
理解できない状況であるが、何か話さなければと、透香が口を開きかけたその時、
「いやあ、巫女様には参りましたな!これほど強大な力を持った妖怪を退治するとは!」
参拝者たちの中にいた一人の男が、参拝者の前に歩き出ながら、こんなことを言ったのだ。
「・・・え?」
当然、透香はそのようなことはしていない。
しかし、それに反論する間もなく、その男は話を広げていく。
「というのも、失礼ながら今代の巫女様は歴代の巫女様方と比べると劣って見えましてな」
「妖怪というのも、強力なものが多く、一筋縄では中々いきません。
こいつらに対して、対峙しても問題ないか、ひいてはこの幻想郷をちゃんと保てるのかと我々人間は不安に思っていたのです」
「しかし、目の前でこんな強力な妖怪を退治したさまを見せつけられてしまっては、考えを改めなければいけませんな!」
余談であるが、透香は、歴代の巫女と比べ、力自体はそこまで持っていなかった。
(妖怪退治専門家と自称しているモノ達よりは十分強い力であるが)
透香自身もそのことはわかっており、そこは先代の巫女たちから教えてもらった知識や技術をあの手この手で工夫し、
力の不足を補っていた。
しかし、人里の人たちからすれば、歴代の巫女たちを知っている分、どうしても小手先でどうにかしているように見えてしまう。
故に、今代の巫女はいまいち、というのが人里での彼女の評判だ。
妖怪退治は博麗の巫女の仕事。それは幻想郷が出来た時に定められた事項。
そして、幻想郷が出来てすぐの頃ならともかく、現在は人里には妖怪を退治できるような人は皆無である。
このため、この幻想郷で生かされている人間たちが、透香に対して不安を抱くのは道理であった。
この経緯を顧みて、先ほどの男の発言だ。
この男、口調は胡散臭いが、見た目は妖怪退治然とした格好(陰陽師だろうか)である。
道中の参拝者たちの護衛を担っていたのであろう。
だとすれば、他の参拝者たちに対する影響力は強い。
「お、おお。何かと思ったら巫女様が退治した妖怪の死体だったのか。それも強力な」
「神社に入ろうとしたところを退治なさったんだな」
「巫女様の様子がおかしいと思ったけど、強力な妖怪と対峙したんだもの、お疲れだったのね」
「おらこんなめんこい娘が妖怪と対峙して大丈夫かと思ったんじゃが、しっかりと巫女しとるんだのお」
男の言葉で納得した参拝者たちから重い、懐疑的な雰囲気はなくなり、巫女への称賛した言葉が発せられる。
「え、あの・・・」
その状況が透香を余計に混乱させる。
「しかし、巫女様は今、お困りでないかな」
唐突に男が透香に問いかける。
「あ、え、あ、はい」
突然過ぎる問いに、透香は生返事しか返すことが出来なかった。
「そう!死体の処理!これだけ強大な力を持っていた妖怪なら、その後処理もまた一苦労でしょう。
なに、巫女様もお疲れのようですからな。微力ながら、私も妖怪退治の心得がある故、お手伝いをさせていただきましょう!」
陰陽師風の男は、懐からお札のようなものを出すと、それを死体へと向ける。
そして、
「破!」
と唱えると、突然、紫の死体全身を包むように炎が灯った。
それは、最初は小さいものであったが、時を追うごとにどんどん強くなり、あっという間に透香の身長を超えるくらい大きくなる。
「・・・っ!?」
あがる炎の大きさ、死体が燃える臭い、そして、一番は燃えるとともに放出されていく妖力、
危険を感じた透香は対処しようと動きかけたが
「しっ!」
男は先ほどのお札を死体に投げ入れる。
すると、まるで何かに吸い込まれるように炎と共に死体が包まれていき。
次の瞬間には、まるで何もなかったかのように死体が消えていた。
「!?」
「いやあ、失礼。今の札は制御が難しくてですな。少々術がいき過ぎてしまったようです。
ですが、安心めされよ。投げ入れたことでもう一つの術が発動し、塵一つ残さず消し去りましたので」
どこか胡散臭そうに語る男。
汗を拭う姿に、まるで大きな仕事を終えたかのような怪しい雰囲気を透香は感じていた。
「うむ、では、帰るとしよう」
「はい、そうしましょう」
その後、参拝者たちは簡易的な拝礼を行った後、神社を去っていた。
混乱する透香を置いてけぼりにして・・・