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北方環東記  作者: 守屋三
19/21

山頂からの帰還

 気が付くと透香は山頂を覆う霧の境目の目の間にいた。


「あれ・・・?私なんでこんなところに・・・」


 記憶が朧気ではっきりとしない。


「確か、河童の罠に引っかかって、それで、山頂の方向に飛ばされて、それから・・・」


 ゆっくりと記憶を思い返すも山頂に飛ばされた後の記憶がよく思い出せない。

 この山頂と同様に霧がかかったかのようだ。

 非常にもやもやとする気持ちを抱えながら、透香は目の前の霧に手を伸ばす。

 しかし、


「なにこれ・・・壁?入れない?」


 手を伸ばした先は結界なのか何なのか、壁のようになっており、入れなくなっていた。

 朧げな記憶では飛ばされた時にはこのような壁はなく、そのまま山頂に入っていったような気がしたが・・・と、透香は目の前の壁を触り続ける。


ーーーーー

 それを遠くから見る黒天狗が1匹・・・


「ヒャッハ、呑気な巫女が呑気な事してるぜ。

 ・・・ここで巫女を捕縛し、主に届ければ大手柄だな。fufufu…」


 黒天狗は不敵な笑みを浮かべ、そう呟くと、一気に透香へと飛んで向かっていく。

 透香はそれに気づかず、目の前の壁に夢中になっている。

 楽な仕事だと黒天狗が内心あざ笑う。

ーーーーー


 ここで、黒天狗が透香を殺害しようとしたならば、為す術はなかっただろう。

 しかし、黒天狗は忠実に任務を守り、捕縛しようとしていた。

 ゆえに、透香の反撃が間に合うのだ。


「はっ!!」

「え?」


 透香を抱きかかえようとした黒天狗の顔に御札が貼られる。

 貼られた衝撃で黒天狗は透香をつかみ損ね、空中でひっくり返り、地面に倒れてしまった。


「ぐえ」


「・・・え!?なに!?」


 黒天狗が地面に倒れたのを見て、透香は今起こったこと、自分がしたことに驚いてしまう。

 さらには


「ぐ、ぐああ・・・!」


 黒天狗のお札の貼られた部分から焼けるような音と煙が発生する。

 急な展開に透香は驚き、戸惑っている間に黒天狗の焼けるような音と煙は全身に回り、数十秒もかからないうちに消えてしまった。


「本当に何が起こったの・・・」


 咄嗟に動いた自分の体を確認するも、特に異常はなさそうだ。

 これは山頂での出来事の残滓。

 透香は覚えていないが、歴代の巫女を心身共に知ったことで、今一瞬だけその動きが出来るようになったのだ。今はもう出来なくなってしまったが。


 そして、黒天狗がいた場所を見ると、1枚の御札があった。

 透香の一連の動きの中でいつの間にか取り出し、黒天狗に張り付けたものだ。


「この御札は・・・回復の御札・・・」


 回復といったものの、実際のところは体の自然治癒力を高める程度のものだ。

 なのだが、それであれほどの効果を発揮したことに驚きを禁じ得ない。


「確かに椛の赤黒い妖気を浄化するときに一緒にこの御札も使っていたけど・・・

 それでなんでこんな現象が起きて・・・」


 透香は少し考えるが・・・


「考えても仕方ないわね。今は文たちと合流するのが先決よ」


 今の天狗の山に1人でいるのは危険だと思い直し、透香はどこに向かうべきか考え始める。


「黒天狗に襲われる前くらいまで、なんか強い妖力を感じていたのよね。それも2つ」


 歴代巫女の残滓があった時の記憶が朧げに思い出される。

 強い妖力で、かつ2つとなると、今思い当たるのはちょうど2匹。

 天狗の主である天魔、そして反乱の首謀者たる大天狗だ。

 距離的には大天狗の方が近かった気がすると透香は考える。


「私が行方知らずになったから、文たちは大天狗の方に向かうはず。なら、私も大天狗に向かいつつ、その途中で文たちと合流できるような道順がいいわね」


 といっても、不慣れな天狗の山で正確にその行程を辿れるとは思わない。

 多少ずれても文か椛が見つけてくれるという確信を以て、透香は移動を開始した。

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