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北方環東記  作者: 守屋三
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ごっこ遊びの後

 焦げた料理のように体から黒い煙を上げながら苦笑するケロちゃんは話す。


「ごめんごめん、ちょっとやり過ぎたみたいだね。おかげで最強の巫女が出てきちゃったみたいだ」


 対する透香は、先ほどの激怒が無かったかのように平静だった。いや、目の前のケロちゃんが黒い煙を上げていることをちょっと心配していた。


「あの、大丈夫ですか?なんか急に体が別人のように動いて、やっちゃったみたいですけど」


「大丈夫大丈夫。ちょっと存在が消されかけたけど、許されたからね」


「・・・それは大事では?」


「結果的に消されなかったから万事OKさ!」


 存在が消されかけるという一大事をなんてことないとケロケロと笑うケロちゃんに対し、何とも言えない気持ちになる透香であった。


「まあ、それで、弾幕ごっこについてなんだけど。

 透香ちゃん、能力使ってた?」


「え?いえ、私、能力なんて持っていませんけど・・・」


「ん-、まだ発現前ってことかな?

 でもおかしいなあ。ここは未来も内包するから発現前でも何かしら起こるはずなんだけど・・・

 それであそこまでやり過ぎちゃったわけだし」


「え、私の能力がわからなかったから、あんな理不尽になるまでやったってことですか」


「・・・あ、勘違いしないでね。この空間だと融通が利く程度までは加減してたんだよ。ちょーっとあの巫女の沸点が低かったというか、あ、ごめんなさいごめんなさい。やり過ぎでした謝ります」


 割と軽めの理由による理不尽に、先ほどの巫女が顔を出しかけるが、その巫女に怯えて謝罪するケロちゃんを見て、出てくることはなかった。


「ん-、でも、私の能力なんてあるのかなあ・・・?」


 自他共に認めるほど一般人な透香であるが、紫が巫女として連れてきた理由はわからない。

 紫にその理由を聞いてもただ微笑むだけだったのだ。


「博麗の巫女になるんだ。能力無しなんてことはないよ。過去どれだけ弱い巫女であっても、能力は持っていたことがその証明さ」


 なんとなく体が小さい巫女が、むんと能力を出す様が思い浮かんだ。

 ケロちゃんの言うことは本当のような気がした。


「わかりにくい能力ってのも過去あったし、透香ちゃんのもそういう系統なのかもね。そういった能力って発現していても自覚するのは難しいから、時間がかかるだろうね。」


 そっちを疑っていたけど、私にはわからなかったねと呟き肩をすくめるケロちゃんであった。

 自分に能力があること、発現しているかわからないことに戸惑う透香であった。


「それよりもそっちの今は異変解決の方が大事かな。

 さて、要望を叶えようか。」


 その言葉にハッとする透香。

 予想外の出来事があって忘れていたが、天狗の山の異変の真っ最中である。


「異変について1つ情報を教えてくれるのよね?」


「うん。といっても私が知ることはそう多くない。時空の歪みを見ているだけで、実際に君の世界を見ているわけじゃないからね」


「?」


「詳しいことは難しいから省くとして、ざっくりというと、この不安定な時空が出来たのは、博麗大結界が不安定になったからだね」


「え!?」


 博麗大結界とは、この世界を覆う巨大な結界である。この結界は外の世界とこの世界を分ける境界の役割を持つ。


 外の世界で生きられなくなった妖怪にとってこの結界はなくてはならないものであり、生きるための楔である。


 その結界の管理は、八雲紫とその式神が行っていた。かつては博麗の巫女も行っていたが、技術継承の失敗か外の世界との乖離拡大による結界の高度化の影響かは不明だが、今はほとんど行っていなかった。


 そんな結界が不安定になる。

 思い起こされるのは八雲紫の死体・・・


「いや、不安定になったのは1、2年前だね」


 しかし、透香の思考を見透かしたようにケロちゃんがこう話す。


「それも、どこかに穴が開いたせいでとかじゃなくて、全体的にグニャグニャした感じだね。場所場所で薄くなったり濃くなったりまばらな感じであまり良くないかな」


「何それ・・・」


 結界の穴については多少はわかる。

 見回りした時に偶然見つけたり、いわゆる神隠しにあった人間から聞いて探したりしたこともあった。

 しかし、結界がグニャグニャとはどういうことだろうか・・・

 いや、そういう柔軟性を持った結界があるにはある。

 だけど、博麗大結界は違う。そもそも形を持った結界ではないのだ。

 例えるなら敷地である。ここからは私の家ねという感じで境界を作り、それがこの世界と外の世界を隔てたのだ。範囲はあれど、実体は持たないため、柔軟性など持ちようが無い。

 紫が気まぐれで結界の揺らぎを作ったりすることはあるものの、今はその紫ももう・・・


「うん、確かにあの状態でまだ存在してること自体が不思議に思えるね。もう少し詳しく調べたいところだけど・・・変に触ると壊れそうだし、何が起こるかわからない。だから、これ以上は無理かな。

 ああ、突然消えるとかそういう状態では無いからそこは心配しなくていいよ」


 ケロちゃんは最後の一言とともに軽く笑う。


「いや、そもそもそういう状態になったこと自体がとてつもなく不安なんだけど」


 意味はわからないが、異様な状態であるということは理解した。

 しかし、原因も解決策も今後どうなるかも不明である。悩みが天元突破であった。


「残念ながら私が言えるのはここまで。あとは自分で考えるしかないよ。それじゃあ、送り返そうか」


 そんな透香を置き去りに、ケロちゃんが手を掲げると、周りの霧が濃くなってくる。


「あ、ちょっとまだ私は!」


 聞きたいことがむしろ増えた透香であったが、霧は容赦なく濃くなり、何も見えなくなっていく。


「ああ、時間の方は気にしなくていいよ。最初に言った通り、ここは時空が不安定だからね。

 君がここに飛ばされた直後に戻すなんてことは容易さ」


 濃くなっていく霧のどこかから、ケロちゃんのそんな言葉が聞こえてくる。

 安心させるように言ってくるが気になるのはそこではない。


「それじゃあ、さよならだ」


 しかし、霧は無常にもすべてを包み込む。

 そして、何も見えなくなり、何も聞こえなくなった。


 ーーーーー


 透香が霧に包まれ見えなくなったのを見てケロちゃんがぽつりと呟く。


「・・・時間が経っていようがなかろうが、そこまで影響がないと思うけどね。悪い意味で」


 そのつぶやきは霧の中へと消えていった。


ボス大天狗探しの旅に出るのでしばらくお待ち下さい。

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