河童と遭遇
更に山中を進んで数刻
「この気配・・・河童?なんでこんなところに」
天狗の集落も結構近く、あと数間、そんな場所で河童の気配を茉依が感じ取った。
「河童?天狗以外の妖怪は避難を促していたはずだよね?」
反乱が激しくなる一方で収まる気配がない状況に、天魔が事態の収拾を付けるまで、天狗以外の妖怪は山の外に一時避難するよう、通達を行っていた。
そしてその通達にほとんどの妖怪が従い、山の外に避難しているはずであった。
「まあ、従う義理も道理も無いからな。避難せずに勝手をする奴はいるだろう。
・・・河童は予想外だったがな」
先代巫女打倒のために河童を頼ることがあったため、個人的に友好的だと思っていた文であった。
「あら〜、仲が良いと思っていたのはあなただけみたいね。大変ね」
「・・・ふっ」
自虐なのか喜んでるのかよくわからない笑みを浮かべる文であった。
茉依が先導した先、遠目に川が見える場所に河童が2匹いた。
河童側も何かを探しているかのようで、双眼鏡を目に付け、周囲を見回していた。
「あ、人間!」
しかも、その双眼鏡は改造されたもののようで、見つからないように隠れながら近づいていたものの、見事に透香を見つけられてしまったのであった。
「こんなとこにいるなんて!この山は危ないから避難しないと駄目だよ!!」
カマかけの可能性もあるため、隠れ続けていた透香一行であったが、河童がこう言いながら、明確にこちらに歩いてきているため、姿を現すことにした。
「この距離で隠れていたのに見つけられるとは、中々の発明品のようだな」
「ふふん、我ら特製の熱検知付双眼鏡さ。半径1km先までの動物とかの熱源を見つけることが出来る代物だよ。木や茂みの裏に隠れてたって一発さ」
時代の先を行く河童であった。
「それは凄い技術だが・・・なんでこんなところにいる?」
「んなもの。決まっている。逃げ遅れた同胞や避難の際に忘れた物を探すためだよ。君たち天狗のせいでこっちはてんやわんやさ」
文の問いに対して、河童の一匹が腰に手を当て、怒りを露にする。
もう一匹の河童も、そうだというように腕を組み、頷いている。
「むう・・・それは詫びよう。
だが、それにしても2人だけというのは少なくないか?まあ、やたらと体に道具をつけているようだが・・・」
河童の姿だが、上は、帽子に先ほどの双眼鏡を付け、ポケットがたくさん付いた上着を着て、大きく膨らんだ鞄を背負っている。下は、上に対してズボンと靴だけとシンプルだが、その靴に鳥のような羽根がかかとの部分についていた。
上着の全てのポケットには大小さまざまな道具が入っており、膨らんだ鞄からは手と腕のようなアームが伸びていた。
「そう、これらは我ら河童の技術の結集!そしてそれらを身に着ける私たちは決死隊というわけだね。この山に入る前に仲間たちから託されたのさ。生きて帰ってこいってね」
「あれ?代わりとして山に突入して忘れ物を取ってくるんだから何かよこすのが筋だよねって脅して借りてきたような・・・」
「だまらっしゃい!」
「ひゅい!?」
脅迫じみた行為をばらされそうになり、怒鳴りと共に背中のアームで相方の河童の口を覆っていた。アームが大きすぎて、口どころか顔全体が隠れてしまっているが。
そして、話題を反らすことにしたようだ。全力で
「そ れ よ り も 人間だ!まさかこんなところにいるとは・・・
って、もしかして巫女か?」
人間の正体に気付き、河童は呆気にとられる。
その間に相方の河童にかけていたアームが緩み、抜け出すことに成功していた。
透香は隠すこともないため、正直に話す。
「ええ、そうよ。この山の異変を解決するために来たの。天狗と協力してね」
「それはだめだよ。天狗だよ?この異変の元凶だよ?騙されている可能性もあるんだよ?せめて山の外に逃げようよ」
逆に河童側が焦ったように避難を促す。
人間を盟友と称するだけあり、とても心配しているようだ。
「ええ、わかってるわ。でも、見過ごすことは出来ない。そして天狗の協力も必須よ。もとより逃げる気はないわ」
しかし、異変解決が巫女の生業である以上、透香に逃げるという選択肢はなかった。
「むー、なら無理矢理でも山の外へ出すしか無いなあ。ちょっと強引だけど、実力行使でいかせてもらうよ」
河童もそれを理解したのか、むくれた様子でこう言う同時に、隣の相方が動いた。
「初っ端の猫だまし〜」
相方の河童が筒のようなものを透香たちに向け、その筒の先から光が強く溢れ出した。
「うっ」
「わう」
「ぬっ」
「きゃっ」
透香たちはその光をまともに食らい、目が眩んでしまう。
「あれ、どこいったの?」
光が消え、透香たちの視界が戻ってきたものの、河童たちはどこかへといなくなっていた。
「君たちに私たちの姿は捉えられないよ!」
「光学迷彩だな。周囲の風景と同化して、人の目から見えなくする機械だ」
しかし、いなくなった謎を文が看破する。
河童と親しい文はその機械のことを知っていた。
「あれ!?ばれてる!?」
「そういうことなら私の出番ね。というか、もうわかってるけど、そこ!」
「ぐえ〜」
姿が見えないだけなら、感知能力に優れている茉依の出番である。
茉依がとある方向に拳を突き出すと、拳が何かに当たった音とともにその空間が歪み、そこから河童の一匹が現れた。
茉依の拳がお腹に直撃したようで、手を当て苦しそうにしていた。
「ぐ、ぐふ。いたい・・・でもこれで・・・!」
「ごめん、そっちにもう一匹いった!」
河童の呟きにハッと気がついた茉依が叫ぶ。
「もう遅いよ!」
「!?」
陽動だと気付き、周りを見ようとした透香であったが、その背後から河童が現れ、手に持っていた機械のスイッチを押す。
その機械は先端に厚みのある平たい棒を限界まで湾曲させたものが付いており(外の世界で言うU字型)、その先端が透香に向けられていた。
「きゃあ!?」
スイッチを押すと一瞬で機械は動く。
ぶぅんという駆動音と共に、斥力が働いたかのように透香の体がくの字になって吹き飛ばされた。
「わ、とと・・・」
吹き飛ばされた透香であったが、そういうのは妖怪退治では日常茶飯事である。
上手く体勢を整え、転ばずに着地するのは容易であった。
しかし、
「かかった!」
「え?」
河童の不穏な言葉に反応する間もなく、
「きゃあああ・・・!?」
「あ!?」
「透香さん!?」
透香が勢いよく地面から射出された。
透香が着地した所は丁度バネのようなものが隠されていた場所で、今は人の身長の倍以上の高さにバネが飛び出していた。
「成功だあ!
・・・あれ?」
射出された透香の方を見て呆然とする文たち一同と、作戦成功に喜ぶ河童たち。
だが、透香が飛ばされた方角を見て、首を傾げる。
「あああああ!?間違えたあああ!?」
作戦は成功し、透香は飛ばされた。
山頂へと・・・
「カムバアアアアック!!」
山全体に木霊するかのような河童の叫びが透香に届いたかどうかは今はわからない。