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北方環東記  作者: 守屋三
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文一行の戦い方

 少し遅れて駆け付けた透香であったが、戦闘はもはや文たちだけで済みそうな様子であった。

 椛は一番前で多くの敵を引きつけ、持ち前の力強さによりむしろ押し返す勢いで立ち向かっていた。

 文は持ち前の早さで縦横無尽に飛び、椛が庇いきれない敵に牽制と撹乱を行っていた。

 そして、茉依は椛の死角をカバーしつつ、全体の状況を把握し、2人に指示を出すこともあった。まるで司令塔の様な立ち位置だが、戦い方にも無駄がなく、効率的な立ち回りをしている、という印象なのが茉依という天狗であった。

 そのまま危なげなく全ての敵天狗たちを倒したのであった。

 なお透香の出番は無かったが、本人は御札の節約が出来たと内心喜んでいた模様。


(巫女としてそれでいいのか・・・)

 などと誰かが思ったかどうかは定かではない。



 戦闘後、茉依の戦い方に感じ入るモノがあり、透香は茉依を見つめていた。


「なによじっと見つめて・・・気持ち悪い」


「気を害したならごめんなさい。ちょっと戦い方が他2人と違うから、気になってね。」


 眉をひそめて言う茉依に対し、透香は無遠慮過ぎたと詫びをした。

 茉依は、その言葉を聞き、眉尻を下げてこう言った。


「そういうことならいいけど、別に私は何もないわよ。椛みたいな力も、あいつみたいな速さもどちらもないから、小手先の技術と直感でなんとか戦っているだけ。相手に強引に押し進められたら潰されるわ。さっきみたいにね」


 さっきとは椛に助けられる前のことである。


「だが、その技術が私たちの役に立っている。気配の察知は特にな。今のこの状況、索敵は最重要だ」


 茉依は感知と効率特化とも言える能力とも言える。自分相手周囲すべての状況を把握し、最も良い結果を得るには何かを導き出すのが彼女の戦い方である。索敵はその延長線で、この戦い方を極める過程で高まった感知能力を使って、広い範囲の生物を把握しているのだ。


「それはお前が率先してやりなさいよ」


「ううーん」


 若干頬を染めるのはやめてほしい。


 ちなみに索敵・偵察は椛の千里眼も当然使われるのだが、現在、赤黒い妖気の後遺症か、まともに千里眼が機能しない状態になってしまっている。(本人が言うには虫食い状態のようだ)


「そう、なんだ・・・なんか私よりもずっと高次元の戦い方だね」


「別に、ただひたすら鍛えているだけよ。まあ、状況把握に重きを置いている部分はあるわね」


 取り柄が無いのを効率化で補うという点で、透香は惹かれる部分があった。

 しかし、それ以上に感知能力という相手の動きを事細かに分かってしまうような優れた能力が茉依にあったことと、そもそも天狗の高い身体能力があってこそということも理解してしまい、諦観してしまう透香であった。


「そもそもあんた本当に博麗の巫女?格好はともかく、外見も力もそこらの人間と変わらないように見えるけど?」


 そこに追い打ちをかけるような茉依の言葉である。


「あ・・・」


「確かに茉依がそう思うのも仕方ない。だが、確かに透香は博麗の巫女だ。そして、先々代の弟子でもある」


 茉依のきつい口調に打ちひしがれかけた透香であったが、それに庇うかのように文が発言した。


「うげ、先々代。その弟子、ね。言われてみれば所々そんな感じがしなくもないわ」


(母さん、流石の知名度ね・・・)


 先々代と先代巫女は、強さでは上から数えたほうが早いと言われるほどの強さを持っていた。

 その2人を母、姉と慕い、戦い方を色々と教えてもらっていた透香であったが、その強さの差故に苦しむことも多々あった。


「まあ、見劣りするのは仕方ない。実際そうだからな」


 今の文の言葉がすべてであった。

 舐められるのだ。妖怪からも、そして人からも。

 そして、それに対し、やり返せない自分も。


「だが、博麗の巫女である以上、そこには特筆すべき理由がある。

 それがこの幻想郷を維持する役目を持つ博麗の巫女というものだ。」



 幻想郷、この世界を維持している博麗大結界の管理には博麗の巫女の存在が必要不可欠であった。

 これは博麗大結界が作られた際に決められた理である。

 実際の所、現在は巫女は管理しておらず(というよりその技術が失われたのだが)、八雲紫とその式神が管理を行っている。

 とはいえ、博麗の巫女が不要とはならず、こうして代々、何かしかの人間が巫女を継いでいた。

 その基準は不明だが、いつだか透香を誘拐した紫が言った言葉、


「巫女候補として攫ってきた理由?それは、幻想郷に今必要なモノをもたらしてくれると思ったからよ」


 があったためだ。

 それはとても重要なことなのだろうと、透香には思えた。

 今となってはその理由を詳しく聞くことが出来なくなってしまったが・・・



「ふぅん、そうなの」


 なおも怪訝な顔を向ける茉依であったが、


「そうです!私も透香さんには手当とか浄化とか色々良くしてもらいました!

 それだけでも普通の人間より数段凄いです!」


「お、おう・・・」


 隣にいた椛が尻尾を振りながら強く言う迫力に、若干圧されていた。

 椛は、洗脳中や気絶中の記憶はないものの、透香に治療してもらったという感覚は(霊力の残り香?のようなものが)あったようで、目覚めてからの透香への評価は高かった。

 むしろ懐く勢いと言ってもいいかもしれない。この状況じゃなければそんな可能性もあっただろう。


「はあ・・・つまり、私が感じた通りの強さじゃないってことね。

 巫女が後方支援係ってのも片腹だから、今後に期待しておくわ」


 茉依は溜め息をついて、透香の評価を保留に変更した。

 しかし、その期待が重荷に感じてしまう透香であった。

 期待に応えるためには技術の研鑽、積み重ねが必要だが、それをする時間は今はない。

 時間が経てば経つほど、事態は悪い方向へと進んでしまう。

 今は出来る手を使って、異変を解決するしかなかった。


 一行は天狗の住処へ向け、山中を進んでいく。

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