8
三人目にやってきたのは、昨晩見回りをしたという男子生徒だった。
「び、美術部のロビン・ブレアム……二年生です」
礼儀正しく椅子に座っている彼が、ものすごく普通に見える。
間違いなく先の二人が濃すぎたせいだろう。
と、思わず彼を見つめているとぱちりと視線が合って、すぐにあちらから逸らされる。
おっと、見すぎた……?
悪いことをしただろうか、と心配になっている私を他所に、ユーリはてきぱきと話を進めていた。
「昨晩の様子を聞かせてもらえる?」
「あ、はい。ええと……いつも通り、東側から見回りを始めて、何事もなく二階に」
一人目――エリックから聞いた話の通りだ。
「ドアも窓も鍵がかかっていました」
これも話の通り。
変わったところは無いか……半ばあきらめかけたその時。
「衣裳部屋にある姿見に人影が映っていたんです」
新しい手がかり……!
「人影? どんな感じ?」
同じく食いついたユーリがやや前のめり気味に尋ねる。
「え、ええと……」
ロビンは気圧されたように身を引くと、眉間にしわを寄せた。
「ううん……一瞬だったのでしっかりと覚えては……小さな子供、みたいでした」
そこまで口にして、今度は不安げに息を吐く。
「他のみんなは口をそろえて『見てない』って言うし……僕、おかしくなっちゃったんですかね……」
まあ、そうなるよね。……見えたらマズい奴かな、って私も思ったもん。
同情していると、ユーリが動いた。
その綺麗な顔に聖母のような笑みを浮かべ彼の名を呼ぶ。
「ロビン」
「…………は、はいっ?」
不意打ちの攻撃にロビンは一瞬フリーズしていたが、すぐに調子を取り戻したようだ。
これに耐えるとはなかなかやるな、彼。
ユーリの形の良い唇が紡いだ言葉は――
「安心して。私も見えるわ、大丈夫」
……………………うん。
「……なんにも安心できないでしょうがっ!」
見えちゃまずいモノが見える人間が増えただけだよ!
ロビンも乾いた笑いを浮かべている。ほらぁ!
「どうすんのよ、この空気!」
「お化けとか心霊現象の類じゃないから! ……ほら、あるでしょ? 世の中の大半の人は見えないけど、私には見えるモノ」
「なにそれ、謎かけみたい」
「別に捻ってないわよ」
あとは自分で考えろ、とユーリはそっぽを向いてしまった。
うーん……。
…………。
……………………まさか。
「あの、ロビン。一つ聞きたいんだけど」
「はい、なんですか?」
「あなたって……見える人なの? 妖精?」
「……妖精使いの人ほどではないですが、ぼんやりと、たまに」
ユーリの方を見る。
「ね、言ったでしょ。心霊現象じゃない、って」
彼女はパチン、とウィンクを決めてみせた。