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「演劇部二年のパトリシアさんです。エリック先輩の翌日の見回り当番でした」
ソニアに連れられ入って来たのは、鮮やかな金髪をぐるんぐるんの縦ロールにした女子生徒だった。
彼女はスカートの裾を持ち上げ礼をすると、私たちのすすめた椅子へと腰を下ろした。
所作から見るに、上流階級の出身のようだ。
「ではさっそく……衣裳部屋について聞きたいのだけれど」
机を挟んで向かいに座ったユーリが切り出す。
パトリシアは真剣な顔で口を開いた。
「……やっぱり、会長には王道のプリンセスドレスかしら」
ん?
「ううん、このスタイルの良さ……活かさないことは神、いえ妖精王への冒涜っ……! マーメイドもアリねっ……!」
んんん?
「うーん、私はプリンセス派かしら。あ、でもたまにはタイトなのもいいかも。色は? ダーク系とかどう?」
「こらそこ、乗らない!」
こちらが話を広げたら収集がつかなくなるでしょうが!
どうやらパトリシアも一癖ある人物らしい。何でこんな人ばっかり……!
「はぁーい」
ユーリは唇を尖らせて言うと、
「じゃ、本題に入りましょうか」
パトリシアの方に向き直った。
「衣裳部屋のことだけど……窓には鍵がかかっていたそうね?」
「ええ、間違いないですわ。他の部員にも確認してもらいましたから」
「扉の方は?」
「普段から施錠していますわ。鍵は演劇部の部室にあるキーケースの中と、守衛室に一本ずつ」
毎晩の見回りの際は守衛室の鍵を持ち出すという話だった。
「その日に演劇部で鍵を持ち出した形跡は?」
「……無かったはずですわ。部で付けている記録簿を確認されますか?」
ぜひと頼むと、パトリシアはすぐに部室から記録簿を持ってきてくれた。
当日の、いやここ一週間近くの記録は真っ白だ。
「……もう一つ」
ユーリが切り出す。
「衣裳部屋の中から無くなった物はなかった?」
「ええ……何も。ただ荒らされていただけですわ」
答えたものの、パトリシア自身も腑に落ちない、といった様子だ。
たしかに。あれだけ荒らされていて、何も盗まれていないのはちょっと変かも。
では、犯人の目的は?
いたずら? それともやっぱり……超常現象?
頭をひねる私の横で、ユーリもまた何やら腕を組んで考え込んでいた。
「ところで……」
パトリシアの声にそろって視線を向ける。
「な、何か思い出したことでも……!?」
期待を込めて問い返してみれば、彼女はうっとしとした表情で言った。
「先ほどのドレスの件ですが、か、会長がよろしければ採寸に伺いますわよ……!」
……あー、その話はまた別口でお願いします。