6
ソニアに案内され、一階の東側最奥の部屋に通された。
どこの部も使用していないらしく、長机と椅子のセットが数個置かれているだけの殺風景な部屋だった。
「さっそく一人目を呼びますね」
ソニアは廊下に向かって、「お願いします」と声をかけた。ややあって、姿を現したのは長いマントを制服の上から羽織った男子生徒だった。
「えっと、奇術部の三年生。エリック先輩です」
「この学校に奇術部なんてあったんだ」
「今年できたのよね?」
ついこぼすと、ユーリが視線で向かいに座る男子生徒に問いを投げかける。
エリックは長めに伸ばした前髪をかき上げつつ、
「そうとも。世紀の大マジシャンたるこのボクが輝ける舞台が無いというのだからね。作るしかないではないか!」
高らかにそう言った。
うん、なんていうか……その。
「濃いわね」
ぼそり、と私にしか聞こえない声でユーリがつぶやく。なお、表情はいつもの微笑みを崩していない。さすがだ。
私たちの醸し出す微妙な空気に気づいているのかいないのか、彼の演説は続く。
「さあ、生徒会長殿も、その付き人Aも」
誰が付き人Aだ。間違ってはないけども。
「お近づきの印に一つお見せしよう」
そう言うと彼は大仰な仕草でマントの内側から、ロウソクを取り出した。
……まさか。
「ボクが一年を費やして完成させた、摩訶不思議な火のマジック――」
火――。
小さく体が震えたのを自覚した。
目をそらせばいいのに、縫い止められたように彼の手から視線が離れない。
ひりついた喉の奥が、何か音を発するより前に、ユーリが片手をすっと上げた。
「気持ちは嬉しいけど、ここは火気厳禁よ。それに、今はあなたの話が聞きたいの」
男子生徒は、若干肩を落としつつ、粛々とロウソクを片付け始めた。
……はぁ、助かった。
ユーリの手がするりと背を撫でていく。いたわるような優しい手つきだった。
「あなたが最初に衣裳部屋が荒らされている現場を目撃したのよね。それは間違いない?」
「ああ、ちょうど一週間前だ」
「時間は?」
「二十二時……三十分くらいだったかな」
「その日の見回りで変わったことは無かった?」
「……いや。いつもと通りだったと思うぞ」
あの衣装部屋以外は、とエリックは付け足した。
時間も聞いた話と一致している。
「どんな順路で見回りを?」
ユーリが尋ねると、エリックは、
「順路はあらかじめ決められている」
と言い、空中に見取り図を描いて説明をはじめた。
「まず一階。東側の廊下から順番に部屋を見ていく。そのまま奥の階段を上って、二階を確認する。そして上った方とは反対側の階段を使って一階西側の廊下に出る」
「衣裳部屋はどこ?」
「一階西側の一番奥だな。階段を下りてすぐ目に入る」
あとは概ねソニアの話した通り。
衣裳部屋の惨状を見た彼は、急いで他の生徒を呼びに行った。
「あの摩訶不思議な現象、すぐにでも誰かと共有せねばならないと……僕のハートが叫んでいたからね!」
あ、そういう理由なのね……。
最後までテンションの高かったエリックを見送った私たちは、一旦情報を整理することにした。
「階段が二つで、見回りの順路を把握しているとしたら……外から忍び込んだっていう線もなくはないよね?」
尋ねると、ユーリは首を横に振った
「……話を聞いていると夜はかなり静かなようだし、こっそり忍び込んだとしても物音が響きそうだわ。それに、数分の間に部屋を派手に荒らして、見つからずに逃亡するのって、難しいと思うわよ」
うーん、そっか……。
「……まあ、次の子の話を聞いてみましょう」
ちょうどユーリが言ったタイミングで、ノックの音が響いた。