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「部屋の中がめちゃくちゃになっていたそうです。衣装かけや荷物が倒れて、ぐちゃぐちゃで……まるで嵐が通り過ぎた後のように」
「一応聞くけど、窓は開いていなかったのよね?」
ユーリの問いかけに、当然ソニアはうなずいた。
「たまたまクラブハウスの近くにいた私と、部活帰りの生徒数人で中を確認しましたけど、窓はぴったり閉じていました。鍵までかかってましたよ」
話はそれだけでは終わらない。
その日を境に、毎晩同じことが起きるようになったという。
「昨日もおとといも、同じように衣裳部屋だけが荒らされていました。他の部室や物置は何ともなかったのに」
うーん、それは結構……いや、かなり奇妙かも。
ソニアはお願いします、と頭を下げた。
「生徒会で調べてみてもらえませんか! ユーリ会長なら、きっと何かわかるんじゃないかって思うんです!」
ソニアの拳は強く握りしめられていた。それだけこの件を解決したいと必死なのだろう。
でも――
「さすがのユーリでも、そんな超常現象の解決は難しいんじゃないかな……?」
ユーリが何か言うより早く、告げた。
できるだけ穏便に事が運ぶように。
「いくら妖精姫で妖精使いって言っても、専門外なことってあるし。……それに、夜遅くまでユーリを出歩かせるわけにはいかないよ」
止めないわけにはいかない。ユーリの付き人、そして友人として。
余計なリスクを彼女に冒させることは、私にはできない。
しかしソニアは引き下がらなかった。
「みんな怖がって、部活に集中できなくて……文化部も夏の大会を控えている部もあります。このままじゃ支障が……」
う……。
沈んだ表情に心が痛む。でもこちらも譲るわけにはいかないのだ。ぐっとこらえ、心を鬼にして口を開く。
「と、とりあえず学園側に報告して、国の機関とかに調査してもらった方が確実だと思うよ。……うん、絶対そっちの方がいい」
間違ったことは言っていない。
大人に報告して、しかるべき手段を取ってもらう。これこそ、学生らしい行動選択ではないだろうか。
ソニアもこれ以上の言葉を重ねられそうには無かった。
彼女には申し訳ないが、ここはゴリ押しさせてもら――
「あら、別にいいわよ。調査しましょう!」
「なんで空気を読んでくれないの!」
ここ数分の私の努力を返せ。
「いいんですか!?」
一瞬で顔を輝かせたソニアに、ユーリはいつも通りの優雅な微笑みで応える。
私はその肩を掴むと、ぐっと顔を寄せた。
ソニアの方を横目で窺いつつ、小声で抗議する。
「ちょっとユーリ! なんのつもり?」
「夜の学校で超常現象よ? そんなの絶対面白いじゃない」
「いや面白いとか面白くないとかの話ではなくて、『夜』はマズいでしょ!」
身の安全は何に変えても守るつもりだけども……!
言いたいことは山ほどあるが、この場には他人が居る。
うぅ、口に出せないってもどかしい……!
そんな私の苦悩を知ってか知らずか、ユーリは嫌味なほどに華麗なウィンクをこちらに飛ばしてみせた。
「日付が変わる前に片付けるわ。ギリギリになっちゃったら……ごめんね、ノエル」
ああ……また私は彼女に勝てない。