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妖精姫は深夜に眠る  作者: 波久音子
1.クラブハウスの侵入者
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「部屋の中がめちゃくちゃになっていたそうです。衣装かけや荷物が倒れて、ぐちゃぐちゃで……まるで嵐が通り過ぎた後のように」


「一応聞くけど、窓は開いていなかったのよね?」


 ユーリの問いかけに、当然ソニアはうなずいた。


「たまたまクラブハウスの近くにいた私と、部活帰りの生徒数人で中を確認しましたけど、窓はぴったり閉じていました。鍵までかかってましたよ」


 話はそれだけでは終わらない。

 その日を境に、毎晩同じことが起きるようになったという。


「昨日もおとといも、同じように衣裳部屋だけが荒らされていました。他の部室や物置は何ともなかったのに」


 うーん、それは結構……いや、かなり奇妙かも。


 ソニアはお願いします、と頭を下げた。


「生徒会で調べてみてもらえませんか! ユーリ会長なら、きっと何かわかるんじゃないかって思うんです!」


 ソニアの拳は強く握りしめられていた。それだけこの件を解決したいと必死なのだろう。

 でも――


「さすがのユーリでも、そんな超常現象の解決は難しいんじゃないかな……?」


 ユーリが何か言うより早く、告げた。

 できるだけ穏便に事が運ぶように。


「いくら妖精姫で妖精使いって言っても、専門外なことってあるし。……それに、夜遅くまでユーリを出歩かせるわけにはいかないよ」


 止めないわけにはいかない。ユーリの付き人、そして友人として。

 余計なリスクを彼女に冒させることは、私にはできない。


しかしソニアは引き下がらなかった。


「みんな怖がって、部活に集中できなくて……文化部も夏の大会を控えている部もあります。このままじゃ支障が……」


 う……。

 沈んだ表情に心が痛む。でもこちらも譲るわけにはいかないのだ。ぐっとこらえ、心を鬼にして口を開く。


「と、とりあえず学園側に報告して、国の機関とかに調査してもらった方が確実だと思うよ。……うん、絶対そっちの方がいい」


 間違ったことは言っていない。


 大人に報告して、しかるべき手段を取ってもらう。これこそ、学生らしい行動選択ではないだろうか。


 ソニアもこれ以上の言葉を重ねられそうには無かった。


 彼女には申し訳ないが、ここはゴリ押しさせてもら――


「あら、別にいいわよ。調査しましょう!」


「なんで空気を読んでくれないの!」


 ここ数分の私の努力を返せ。


「いいんですか!?」


 一瞬で顔を輝かせたソニアに、ユーリはいつも通りの優雅な微笑みで応える。

 私はその肩を掴むと、ぐっと顔を寄せた。

 ソニアの方を横目で窺いつつ、小声で抗議する。


「ちょっとユーリ! なんのつもり?」

「夜の学校で超常現象よ? そんなの絶対面白いじゃない」

「いや面白いとか面白くないとかの話ではなくて、『夜』はマズいでしょ!」


 身の安全は何に変えても守るつもりだけども……!


 言いたいことは山ほどあるが、この場には他人(ソニア)が居る。

 うぅ、口に出せないってもどかしい……!


 そんな私の苦悩を知ってか知らずか、ユーリは嫌味なほどに華麗なウィンクをこちらに飛ばしてみせた。


「日付が変わる前に片付けるわ。ギリギリになっちゃったら……ごめんね、ノエル」


 ああ……また私は彼女に勝てない。

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