表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精姫は深夜に眠る  作者: 波久音子
4.Who are you?
40/45

6

 頭が真っ白なまま、寮の自室に戻った。

 横から話しかけてくれるいつもの姿が無い。


 ノエルは別室に捕えられていた。


 最後の望みであった守衛室の鍵についても、持ち出しは確認できず……機関は彼女が盃を盗んだ犯人だと断定した。

 今頃取り調べを受けているのだろう。


 ……私はこれっぽっちも信じていない。

 あのノエルが犯人だなんて!


 明朝には彼女は機関の詰所に移送されるだろう。

 そうなってしまえば、妖精姫の私とはいえ手は出せない。


 それまでになんとか、彼女の無実を証明しないと。


『何やら妙なことになったな』


 一人きりの部屋に、第三者の声が割り込む。振り向くと、いつの間にか背後に妖精王がいた。


『妖精姫のお手並み拝見といったところか』

「面白がらないでくださいよ」


 思わず睨んでしまったが、妖精王は気にする風もない。

 その余裕のある態度が今は少し癇に障る。


『やはりお主はあの娘が盃を持ち出したとは思っていないのだな』

「当然です。あの子のことは昔から見てきた……だから分かります。彼女のような強くて、まっすぐな人に盗みなんてできるわけがない」




 ノエルと出会ったのは六歳のころだった。


 妖精が見えるというだけで特別視されていた『僕』は、生来の引っ込み思案な性格も相まって、独りぼっちで過ごすことが多かった。


 時々、友達になりたいと近づいてくる子供もいたが、だいたいはネメシア家の家名にあやかろうと、親に差し向けられただけ。


 嫌気がさしていた。そんな人間に囲まれていることに。

 自分を利用しようという大人の打算にもうんざりだった。


 そうして引っ込み事案に、ひねくれ者のオプションが加わった僕を、両親もさすがに見かねたのだろう。


 ネメシア家に仕える使用人夫妻。その幼い娘を付き人として僕にあてがったのだ。


 またか。


 そんな気持ちは、すぐに吹き飛ばされた。

 冷めた目をした僕に、彼女は開口一番言ったのだ。


『あなた、つまんなそうな人ね!』

『そんな顔してると、誰も友達になりたがらないわよ!』


 ……そんなこと言われたのは初めてだし、これから友達になろうっていうのに、意味が分からない。


 ただ、彼女は他の子とは違う。――僕に媚びを売るとか、そんなことは考えていない。


 妖精使いでも、ネメシア家の跡取りでもない。

 ただ一人の「ユーリ・ネメシア」と向き合ってくれる人だ。


 ……そう確信した。



 不正も悪事も嫌いな人だった。


 今まで何度も、僕を陥れようとする人たちが目の前に現れたけど、彼女はその度に持ち前の運動能力でコテンパンにしてしまった。


 ギフトを手にした僕が、ちょっとした無茶や無謀をしても、本気で怒って、心配してくれる……そんな優しい人だった。


 この体がおかしくなっても、変わらず接してくれた――。



『それを直接本人に聞かせてやれば、喜ぶだろうにな』


 妖精王が笑いながら言った。

 本当にそうならいいんだけどね……。


「言ったって、『本気で言ってる?』って真顔で返されるのがオチですよ」


 ああいう人は、自分がどれだけすごいか自覚が無いものだ。

 付け足すと、


『……違いない』


 と妖精王が苦笑した。

 そして、


『手を』


 そう促される。

 疑問を抱きつつも、言われた通りに手を差し出す。


 すると、手のひらの上に小さな光球が浮かんで――吸い込まれるように消えた。

 じんわりと指の先へと温かいものが伝わっていく。


「妖精王の、祝福……?」


 祝福とは、通常求めなければ得られないものだ。


「なんでこのタイミングで」


 ダメもとで尋ねてみたら、存外妖精王はあっさりと真意を明かしてくれた。


『お主とあの娘を巻き込んでしまった詫びだ』

「詫び……」

『あれは一応我の力を分け与えた器だ。もはやかつての威光は失われてるとはいえ……この事態は予想外だったものでな』


 ……意外だ。まさか管理不足を詫びられるとは。

 大火事の日以来じゃないか?


 思わずまじまじと見ていると、


『なんだ、要らぬのであれば返してもらうぞ』


 やや不機嫌そうな声で妖精王が言った。


「いやいや……ありがたくいただきます。ちょうどこれから、無茶しようと思っていたところなので」

『すでにお主の力だ。好きに使え……人の生をさらに短くしない程度にな』


 妖精王はそう言い残すと、来た時のように静かに姿を消した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ