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妖精姫は深夜に眠る  作者: 波久音子
1.クラブハウスの侵入者
4/45

3


 事の発端は一週間前にさかのぼる。


 アスター学園の敷地の隅の隅の方に、クラブハウスという建物がある。


 学園の創立初期に作られたため築年数は軽く百年程度。十年ほど前に起きた首都全体を巻き込んだ大火事も無傷で乗り越えた、歴史の深い建物だ。


 ただ、あとから大きな校舎が隣に建てられたせいで環境は最悪。

 昼夜問わず中は雨の日のように薄暗く、良く言えば風情ある――ハッキリ言ってボロボロの見た目のせいで、新入生からは『お化け屋敷』と噂される始末。


 じめじめしていて虫も出やすいし、正直どうかと思うんですけど……。



「ストップ、ソニア。一旦落ち着こう」


 つい割り込むと、ソニアはきょとんとした表情でこちらを見返してきた。

 このままじゃ、本題に入る前に放課後が終わってしまいそうだ。


「クラブハウスへの不満はよく分かったけど、それはまた今度ね」


 ユーリが苦笑しつつ言うと、ソニアはバツが悪そうな顔になった。


「あ、つい。あそこ、ちょっと苦手で」

「そんなにひどいの?」


 私は部活に入っていないからあまり立ち寄ったことがない。

 文化部の部室がいくつかあるとは聞いているけど、ここまでの言われようだと逆に興味が湧いてきた。


 ソニアは、


「なんて言ったらいいのか……」


 と眉間にしわを寄せ考え込んでしまった。


「ユーリ、行ったことある?」

「いえ、全然。存在はさすがに知っているけど」


 とこちらは勝手に話していると、適切な言葉が見つかったらしい。


「時代遅れ……? っていうか。ぽつんとそこだけ取り残されちゃっている感じが、さみしくって」


 私だけかもしれないですけど、とソニアは笑った。


「まあ、何か要望があれば生徒会室に持ってきてちょうだい。できるだけ改善できるように取り計らうから」


 ユーリは生徒会長らしいことを言って、話題をまとめると、


「で、続きをお願い」


 と話の先を促した。

 うなずいたソニアは一口紅茶を飲んで、口を開いた。


「最初にそれが起きたのは一週間前でした――」




 クラブハウスは文化部の生徒たちによって自主的に運営・管理されている。

 毎晩の施錠や見回りも、各部が持ち回りで行っていた。


 一週間前、その日はある男子生徒が見回りの当番だった。


 二十二時、男子生徒はクラブハウスのマスターキーと明灯球(この国ではよく使われる明り取りの妖精道具だ)を正門の守衛室から借りると見回りを開始した。


 廊下の灯りも、各部屋の灯りも既に消されていた。

 明灯球の放つ、淡い小さな光のみが彼の行く道を照らしていた。

 生徒は誰もいないように思えた。


 クラブハウスはしんと静まり返っている。自分の足が、古くなった木の床を軋ませる音が大きく響いていた。


 そう。誰もいないはずだった。


 はずだった、のだ。



 大きく、激しい物音が男子生徒の耳をつんざいた。


 なにかがとてつもなく大きなものが倒れたような、何かが暴れているような。そんな風に彼は思ったという。


 その音はしばらくの間続いて、やがてぴたりと収まった。


 もしかして何かがいる……!? これじゃあ、本当に『お化け屋敷』のようじゃないか!


 すぐさま彼は音の方向へと駆けだした。

 恐怖と期待が入り混じり、妙な高揚感が彼を満たしていた。


 たどり着いたのは、演劇部の衣裳部屋。ドアの鍵は閉まっていた。


 男子生徒はマスターキーを使い、部屋の中へと足を踏み入れる。


 すると――

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