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妖精姫は深夜に眠る  作者: 波久音子
4.Who are you?
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4

「ちょっと休憩。ノエルこそ、何してるの?」

「ソニアに頼まれて、喧嘩の仲裁」

「……こんな日まで困った生徒がいるのね」


 そうだね、とノエルは苦笑いを浮かべ、


「ホストが会場空けたらまずいんじゃないの?」


 私に手を差し伸べた。


「今戻ろうと思ってたのよ」


 その手を取ると、ひんやりと冷たかった。

 この夏の時期に珍しい。どこに行ってたのかしら……。


 そのまま連れ立って廊下を進む。


「ソニアは?」

「もう少し外の空気を吸いたいから、って散歩に出ていった」


 だから一人で戻ろうとしていたところ、とノエルは付け足した。


 ワルツの音色がだんだんと近くなる。


 妖精王の言葉が頭を過ぎり、気づけば――


「ノエル、私と踊ってみない?」


 そう問いかけていた。


「え?」


 ノエルはきょとんとした表情をしていた。


「ほ、ほら、あなた結局誰とも踊っていないみたいだから……少しはダンスも楽しみたいかと思ってね」


 完全に予想外、という彼女の顔を見ていると急に気恥ずかしさがこみ上げてきた。

 どうせ誘うなら、もっとスマートに誘いたかった……!


「気遣ってくれたの? ありがと」


 ノエルは苦笑いを浮かべた。次いで――


「でも私、男側踊れないよ?」


 そんなことを言った。


「え?」


「え?」


 思わず声を漏らすと、彼女も同じように声をあげた。


 きょとんとしている様子からして、冗談というわけじゃなさそうだけど。


「……何言ってるのよ。私がそっちを踊るに決まっているでしょ」


 口に出してから、不機嫌が声音に乗ってやしないか、と懸念が頭の中を過ぎった。


 それは的中してしまっていたようで――


「え、あ、そう、だっけ……あはは……」


 ノエルは戸惑ったように言い募ると、


「と、とりあえず会場戻らないと。あんまり席外しちゃまずいんでしょ?」


 そう言って早足で先を歩いていってしまった。


 ああ、何やってるの私……。


 

 会場に戻ると、すぐさまダンス。

 黙々と作業のように踊り続けているうちに、お披露目の時間がやってきた。


 相変わらず壁際にいるノエルに目配せをすると、彼女は小さくうなずいて出ていった。


 音楽が鳴りやみ、ダンスタイムは終わり。

 ダンスで疲れた体をドリンクや料理で癒す人々の間を抜けて、私はホールの中央に躍り出た。


「さて、みなさま。ダンスは楽しんでいただけたでしょうか。次はいよいよ、今夜のメインイベント――」


 前もって考えておいた口上を述べると、わっと歓声が上がった。

 さすが伝説級の妖精道具……期待がものすごいわね。


「まもなく盃は、王城にて眠りにつきます。一生に一度お目にかかれるか、かかれないか……この貴重な機会、ぜひ楽しんで行ってくださいませ」


 一礼。と、同時に会場の扉が開き、ノエルが入ってきた。

 ビロードの幕に覆われたケースをかかえ、緊張気味にこちらへと向かってくる。


 割と肝の据わっている子だけど、こういう時はやっぱり緊張するのね。

 と、ぎこちない動きの彼女を見て思わずくすり、と笑いが漏れてしまった。


 ぎくしゃくとしながらも、ノエルはしっかりと用意された台座の上にケースを置く。


「お疲れ様、ありがと」


 ぽんと、背中に軽く触れて囁くと、ノエルはそそくさと隅の方へと逃げてしまった。


 んー……? 緊張して疲れちゃったのかしら。

 まあ、いいわ。


 今はとにかく、このイベントを無事に終わらせないと。

 私は幕をつかむと、一気に取り去った。

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