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「ちょっと休憩。ノエルこそ、何してるの?」
「ソニアに頼まれて、喧嘩の仲裁」
「……こんな日まで困った生徒がいるのね」
そうだね、とノエルは苦笑いを浮かべ、
「ホストが会場空けたらまずいんじゃないの?」
私に手を差し伸べた。
「今戻ろうと思ってたのよ」
その手を取ると、ひんやりと冷たかった。
この夏の時期に珍しい。どこに行ってたのかしら……。
そのまま連れ立って廊下を進む。
「ソニアは?」
「もう少し外の空気を吸いたいから、って散歩に出ていった」
だから一人で戻ろうとしていたところ、とノエルは付け足した。
ワルツの音色がだんだんと近くなる。
妖精王の言葉が頭を過ぎり、気づけば――
「ノエル、私と踊ってみない?」
そう問いかけていた。
「え?」
ノエルはきょとんとした表情をしていた。
「ほ、ほら、あなた結局誰とも踊っていないみたいだから……少しはダンスも楽しみたいかと思ってね」
完全に予想外、という彼女の顔を見ていると急に気恥ずかしさがこみ上げてきた。
どうせ誘うなら、もっとスマートに誘いたかった……!
「気遣ってくれたの? ありがと」
ノエルは苦笑いを浮かべた。次いで――
「でも私、男側踊れないよ?」
そんなことを言った。
「え?」
「え?」
思わず声を漏らすと、彼女も同じように声をあげた。
きょとんとしている様子からして、冗談というわけじゃなさそうだけど。
「……何言ってるのよ。私がそっちを踊るに決まっているでしょ」
口に出してから、不機嫌が声音に乗ってやしないか、と懸念が頭の中を過ぎった。
それは的中してしまっていたようで――
「え、あ、そう、だっけ……あはは……」
ノエルは戸惑ったように言い募ると、
「と、とりあえず会場戻らないと。あんまり席外しちゃまずいんでしょ?」
そう言って早足で先を歩いていってしまった。
ああ、何やってるの私……。
会場に戻ると、すぐさまダンス。
黙々と作業のように踊り続けているうちに、お披露目の時間がやってきた。
相変わらず壁際にいるノエルに目配せをすると、彼女は小さくうなずいて出ていった。
音楽が鳴りやみ、ダンスタイムは終わり。
ダンスで疲れた体をドリンクや料理で癒す人々の間を抜けて、私はホールの中央に躍り出た。
「さて、みなさま。ダンスは楽しんでいただけたでしょうか。次はいよいよ、今夜のメインイベント――」
前もって考えておいた口上を述べると、わっと歓声が上がった。
さすが伝説級の妖精道具……期待がものすごいわね。
「まもなく盃は、王城にて眠りにつきます。一生に一度お目にかかれるか、かかれないか……この貴重な機会、ぜひ楽しんで行ってくださいませ」
一礼。と、同時に会場の扉が開き、ノエルが入ってきた。
ビロードの幕に覆われたケースをかかえ、緊張気味にこちらへと向かってくる。
割と肝の据わっている子だけど、こういう時はやっぱり緊張するのね。
と、ぎこちない動きの彼女を見て思わずくすり、と笑いが漏れてしまった。
ぎくしゃくとしながらも、ノエルはしっかりと用意された台座の上にケースを置く。
「お疲れ様、ありがと」
ぽんと、背中に軽く触れて囁くと、ノエルはそそくさと隅の方へと逃げてしまった。
んー……? 緊張して疲れちゃったのかしら。
まあ、いいわ。
今はとにかく、このイベントを無事に終わらせないと。
私は幕をつかむと、一気に取り去った。




