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妖精姫は深夜に眠る  作者: 波久音子
4.Who are you?
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1

 今日の校内はいつもと少し違う雰囲気。

 にぎやかで、みんなどこかそわそわしていて。

 廊下を駆けていく生徒にも、今日ばかりはマナーの先生も目を瞑る。


 そう。今晩は待ちに待ったダンスパーティーだ!


 

 パーティーは学外からもお客さんを招いて開かれる。学園としても一大イベントだ。


 自然、生徒会長であるユーリの仕事も増える。

 パーティー会場の準備に、スピーチ、賓客のお相手エトセトラエトセトラ。


 特に今年は、ユーリの準備にもますます気合が入っているようだった。

 彼女はさっきから、パーティー会場である講堂を右へ左へと動き回っている。


「会長、ステージ見るのもう三回目ですよ。なにかあるんですか?」


 講堂の隅でカトラリーのチェックをしていると、横からソニアが声をかけてきた。

 この後輩ともなにかと顔を合わせる機会が多い。

 今日はパーティー会場の最終チェックを手伝いにきてくれていた。


「今年のダンスパーティーはちょっと特別なんだよね」

「特別?」


 今度は椅子のチェックに移ったユーリを視界の隅にして、話を続ける。


「宝物庫の伝説級の妖精道具。あれを披露するんだって……名前は『光芒の盃』」

「たしか学園が学問所だった頃に収蔵された、すごく貴重な物ですよね」

「らしいね。で、ユーリはそのお披露目の段取りを学園側から任されたの」


 一見普段通りを装っているが、長年の付き合いの私にはわかる。

 ユーリは今、割と緊張している。


 普段から人前に立つことも多いし、行事の類には慣れているけど、自分が主催者側――しかも、重大な任務を与えられる機会は、私たちの年齢ではそう多くない。


 だから、気を紛らわせようと、あんなに念入りにチェックをやっているのだ。

 まあ、可哀想だし後輩には秘密にしておいてあげよう。


「私だったらプレッシャーで卒倒しちゃうかも……」


 ソニアが同情するようにつぶやく。


「でも何で今年はそんなことを? 何かありましたっけ」

「来月、王国の機関に引き渡すことになるから最後に、ってことらしい。機関の所有になっちゃったら、そう簡単に見られなくなるからね」

「王城の宝物庫とか一生見に行く機会無いですもんねぇ……でもユーリ会長、完全にとばっちりじゃないですか」

「それに付き合った私もね」


 まったく大人の無茶ぶりにも困ったものである。


「しかも私もユーリに重役押し付けられたし」

「重役?」

「宝物庫から会場まで盃を搬入する係」

「うわあ……」


 お疲れ様です、とソニアは私にポケットから取り出したキャンディをくれた。


 せっかくなので、と口に放り込む。甘酸っぱい……レモン味だ。

 ソニアも同じようにキャンディを放り込むと、


「光芒の盃といえば、逸話がありますよね」


 コロコロと口の中で転がしながら、そんなことを言いだした。


「逸話? どんな?」

「光芒の盃は妖精王の力を秘めているっていう話です」


 おお、それはなんだかすごそうだ。


「どんな効果があるの? 妖精王は光の妖精だから――注いだ水が七色に光るとか?」

「そんな微妙な感じじゃないですよ!」


 微妙かなぁ、水が光る盃。面白いと思わない?


「もっと凄いことです! なんと、どんな願いでも一つだけ叶えてくれるんです!」


 予想よりもだいぶ壮大な話だった。

 もし本当だったら凄い話だ。でも――そんな大きな力、無条件で使えるわけがない。


 妖精姫・ユーリですら、ギフトを使えばぶっ倒れる始末。

 タダより怖い物はない、という言葉もある。


「なにか対価が必要なんじゃないの?」

「さすが先輩。その通りです!」


 オーバーリアクション気味な返答。

ソニアはいつの間にか瞳をキラキラと輝かせていた。


 なんだこのテンション……。もしかして、彼女はその手の話が好きなタイプだったりするのだろうか。


「盃を乙女の生き血で満たし、妖精王に捧げる――それが願いを叶える対価だと言われてます」

「物騒!」


 だいぶ妖精のイメージからかけ離れている話だった。

 いや、でも最近起きてる出来事を鑑みると、あながち的外れでもないのか……?


「そう伝えられているだけで、本当かどうかは分からないわよ」


 いつの間に椅子のチェックを終えたのか、ユーリがこちらにやって来た。


「あ、なんだ。事実じゃないんだ」

「事実かもしれないけどね」

「どっち……」


 さあ、とユーリは肩をすくめた。

 そしてパン、と手を鳴らす。


「さあ、パーティーまで時間が無いわよ。残りの準備も頑張りましょう」


 それを合図に、私とソニアも自分の作業へと戻ったのだった。

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