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今日の校内はいつもと少し違う雰囲気。
にぎやかで、みんなどこかそわそわしていて。
廊下を駆けていく生徒にも、今日ばかりはマナーの先生も目を瞑る。
そう。今晩は待ちに待ったダンスパーティーだ!
パーティーは学外からもお客さんを招いて開かれる。学園としても一大イベントだ。
自然、生徒会長であるユーリの仕事も増える。
パーティー会場の準備に、スピーチ、賓客のお相手エトセトラエトセトラ。
特に今年は、ユーリの準備にもますます気合が入っているようだった。
彼女はさっきから、パーティー会場である講堂を右へ左へと動き回っている。
「会長、ステージ見るのもう三回目ですよ。なにかあるんですか?」
講堂の隅でカトラリーのチェックをしていると、横からソニアが声をかけてきた。
この後輩ともなにかと顔を合わせる機会が多い。
今日はパーティー会場の最終チェックを手伝いにきてくれていた。
「今年のダンスパーティーはちょっと特別なんだよね」
「特別?」
今度は椅子のチェックに移ったユーリを視界の隅にして、話を続ける。
「宝物庫の伝説級の妖精道具。あれを披露するんだって……名前は『光芒の盃』」
「たしか学園が学問所だった頃に収蔵された、すごく貴重な物ですよね」
「らしいね。で、ユーリはそのお披露目の段取りを学園側から任されたの」
一見普段通りを装っているが、長年の付き合いの私にはわかる。
ユーリは今、割と緊張している。
普段から人前に立つことも多いし、行事の類には慣れているけど、自分が主催者側――しかも、重大な任務を与えられる機会は、私たちの年齢ではそう多くない。
だから、気を紛らわせようと、あんなに念入りにチェックをやっているのだ。
まあ、可哀想だし後輩には秘密にしておいてあげよう。
「私だったらプレッシャーで卒倒しちゃうかも……」
ソニアが同情するようにつぶやく。
「でも何で今年はそんなことを? 何かありましたっけ」
「来月、王国の機関に引き渡すことになるから最後に、ってことらしい。機関の所有になっちゃったら、そう簡単に見られなくなるからね」
「王城の宝物庫とか一生見に行く機会無いですもんねぇ……でもユーリ会長、完全にとばっちりじゃないですか」
「それに付き合った私もね」
まったく大人の無茶ぶりにも困ったものである。
「しかも私もユーリに重役押し付けられたし」
「重役?」
「宝物庫から会場まで盃を搬入する係」
「うわあ……」
お疲れ様です、とソニアは私にポケットから取り出したキャンディをくれた。
せっかくなので、と口に放り込む。甘酸っぱい……レモン味だ。
ソニアも同じようにキャンディを放り込むと、
「光芒の盃といえば、逸話がありますよね」
コロコロと口の中で転がしながら、そんなことを言いだした。
「逸話? どんな?」
「光芒の盃は妖精王の力を秘めているっていう話です」
おお、それはなんだかすごそうだ。
「どんな効果があるの? 妖精王は光の妖精だから――注いだ水が七色に光るとか?」
「そんな微妙な感じじゃないですよ!」
微妙かなぁ、水が光る盃。面白いと思わない?
「もっと凄いことです! なんと、どんな願いでも一つだけ叶えてくれるんです!」
予想よりもだいぶ壮大な話だった。
もし本当だったら凄い話だ。でも――そんな大きな力、無条件で使えるわけがない。
妖精姫・ユーリですら、ギフトを使えばぶっ倒れる始末。
タダより怖い物はない、という言葉もある。
「なにか対価が必要なんじゃないの?」
「さすが先輩。その通りです!」
オーバーリアクション気味な返答。
ソニアはいつの間にか瞳をキラキラと輝かせていた。
なんだこのテンション……。もしかして、彼女はその手の話が好きなタイプだったりするのだろうか。
「盃を乙女の生き血で満たし、妖精王に捧げる――それが願いを叶える対価だと言われてます」
「物騒!」
だいぶ妖精のイメージからかけ離れている話だった。
いや、でも最近起きてる出来事を鑑みると、あながち的外れでもないのか……?
「そう伝えられているだけで、本当かどうかは分からないわよ」
いつの間に椅子のチェックを終えたのか、ユーリがこちらにやって来た。
「あ、なんだ。事実じゃないんだ」
「事実かもしれないけどね」
「どっち……」
さあ、とユーリは肩をすくめた。
そしてパン、と手を鳴らす。
「さあ、パーティーまで時間が無いわよ。残りの準備も頑張りましょう」
それを合図に、私とソニアも自分の作業へと戻ったのだった。




