6
ロビンの叫び声、と同時に私の頬をひゅん、となにかが掠めていった。
かしゃん、と軽い音を鳴らし床に落ちたのは髪飾り。
その生々しい花びらから、ぐんぐんと蔦が伸びていた。
ただ伸びているだけならいい。
問題は……こいつが襲い掛かってくるってことだ!
「ロビン、下がって!」
呆然としている彼を後ろへ突き飛ばしつつ、しなる蔦から身を避ける。
明らかに私たちを認識して、狙っている。
部屋の壁にかかっていた掃除用の箒を手に取った。
「うりゃぁっ!」
ぶん、と振り回すと蔦はひるんで距離を取った。
よし、これは使える。
もう一回箒を振りまわすと、今度は蔦にクリーンヒット。
びたん、と鈍い音を立てて床に打ち付けられた。
よし、今のうち。
「ロビン、ユーリを呼んできて!」
私たちの言葉は妖精に届かない。彼らの訴えも聞こえない。
この事態、なんとかできるのは妖精使いしかいないのだ。
「で、でもノエルさんは」
「私は何とかしのいでるから!」
ダメージから回復した蔦が再びこちらを狙う。すかさず、身をひねり、避け際に一撃。
また鈍い音がした。
「……分かりました!」
ロビンはやや迷っていたようだった。けど、結局私が蔦を払った道を通って、部屋の出口へと向かった。
のだが――。
「うわっ!」
「ロビン!」
彼の体を強い衝撃が襲い、顔から倒れ込む。
しまった、別の蔦が……!
気がついた時には遅い。
ロビンを襲った蔦はもう一度彼へと矛先を向けていた。
「ロビンっ!」
彼に手を伸ばす、が、間に合わない! 私は私で、もう一方の蔦の猛攻を避けられなかった。
まずい、やられ――
「リライト!」
凛とした声は、この混乱した室内でもよく響く。頭の片隅の冷静な部分が、まるで他人事のように思っていた。
先ほどまでロビンが居た場所には壁ができていた。
その足元には蔦。壁に弾かれ、打ち付けられたのだろう。
こんなことできる人間は一人しかいない。
「ユーリ!?」
壁の向こうに叫ぶと、
「ロビンは大丈夫よ。目立った怪我はしていないわ……そっちはどう?」
張りの無い声で返事があった。ああ、また無茶な能力の使い方を……!
「一本なら平気!」
早く大人しくさせて、ユーリと合流しないと。
「ちょっと道を、っ、開けてちょうだい……っ!」
箒をフルスイング。しっかり蔦に命中した。
まだ床で震えているが、これ以上襲ってくる気配はない。
「ユーリ!」
私が駆け寄ると同時に、砂が風でさらわれていくかのように、さらさらと目の前の壁が崩れた。
青白い顔のユーリが姿を現す。
「あんたはまた……!」
今にも倒れそうな体を支えると、ユーリは小さく「ありがと」とつぶやいた。
「怪我はない? ノエル」
「おかげさまでね。……ものすごくいいタイミングだったじゃない」
じろり、と睨むと、ユーリはイタズラを見つかったときの子供のように笑った。
「もうバレた?」
「いくらユーリでも、さすがに今回の行動は横暴が過ぎると思って。ロビンの話を聞いて確信した……最初から餌にするつもりだったんだよね!?」
「まあ、全部が全部ウソではないんだけど……」
えっ?
「その通りよ。最初からその髪飾り、怪しいと思ってたの」
ユーリは身をかがめ、足元に落ちている蔦にそっと手のひらで触れた。
「私たちはあなたを傷つけない。どうか落ち着いて……花の妖精・フローラ」
その名を呼ぶと、蔦がしゅるしゅるとその身を縮め始めた。あの白百合の髪飾りに吸い込まれていくかのように。
ふわり、と鼻孔を甘い花の香りがくすぐった。
神経を研ぎ澄ますと、温かい気配を感じる。……そこにいるんだ、妖精が。
「あ、待って……」
ユーリが虚空に向かって手を伸ばす。
と同時に、気配も消えてしまった。
「行っちゃたわ……また後で話を聞かないと」
ユーリが息を吐く。
えっと、なんかあっという間に色々進んじゃったんだけど……。
「この髪飾りは妖精道具だった、ってこと?」
「ええ。花の妖精・フローラの力で、成長速度を遅くしていたんじゃないかしら」
ユーリは髪飾りを拾い上げると、ロビンに手渡した。
「さっきみたいなことはもう起きないわ。安心してプレゼントして」
あ、でも後で詳しい話は聞かせてちょうだい。
それだけ言うと、ユーリは戸口へと向かっていく。
「……ちょ、ちょっと待ってユーリ」
慌てて引き留めると、くるりと彼女は振り返った。
「なあに? パーティまで時間が無いんだから、早く二人で話してちょうだい」
「いや、それなんだけど……断ったから。ロビンも納得済み」
うんうん、と横でロビンが首を振る。
「……そうなの?」
そう口にした時のユーリの表情を私はおそらく一生忘れないだろう。
なんたって、彼女は――迷子がお母さんを見つけた時のような顔をしていたのだから!




