表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精姫は深夜に眠る  作者: 波久音子
3.白い百合の髪飾り
32/45

6

 ロビンの叫び声、と同時に私の頬をひゅん、となにかが掠めていった。


 かしゃん、と軽い音を鳴らし床に落ちたのは髪飾り。

 その生々しい花びらから、ぐんぐんと蔦が伸びていた。


 ただ伸びているだけならいい。


 問題は……こいつが襲い掛かってくるってことだ!


「ロビン、下がって!」


 呆然としている彼を後ろへ突き飛ばしつつ、しなる蔦から身を避ける。

 明らかに私たちを認識して、狙っている。


 部屋の壁にかかっていた掃除用の箒を手に取った。


「うりゃぁっ!」


 ぶん、と振り回すと蔦はひるんで距離を取った。

 よし、これは使える。


 もう一回箒を振りまわすと、今度は蔦にクリーンヒット。


 びたん、と鈍い音を立てて床に打ち付けられた。

 よし、今のうち。


「ロビン、ユーリを呼んできて!」


 私たちの言葉は妖精に届かない。彼らの訴えも聞こえない。

 この事態、なんとかできるのは妖精使いしかいないのだ。


「で、でもノエルさんは」

「私は何とかしのいでるから!」


 ダメージから回復した蔦が再びこちらを狙う。すかさず、身をひねり、避け際に一撃。

 また鈍い音がした。


「……分かりました!」


 ロビンはやや迷っていたようだった。けど、結局私が蔦を払った道を通って、部屋の出口へと向かった。


 のだが――。


「うわっ!」

「ロビン!」


 彼の体を強い衝撃が襲い、顔から倒れ込む。

 しまった、別の蔦が……!


 気がついた時には遅い。

 ロビンを襲った蔦はもう一度彼へと矛先を向けていた。


「ロビンっ!」


 彼に手を伸ばす、が、間に合わない! 私は私で、もう一方の蔦の猛攻を避けられなかった。

 まずい、やられ――


「リライト!」


 凛とした声は、この混乱した室内でもよく響く。頭の片隅の冷静な部分が、まるで他人事のように思っていた。


 先ほどまでロビンが居た場所には壁ができていた。


 その足元には蔦。壁に弾かれ、打ち付けられたのだろう。

 こんなことできる人間は一人しかいない。


「ユーリ!?」


 壁の向こうに叫ぶと、


「ロビンは大丈夫よ。目立った怪我はしていないわ……そっちはどう?」


 張りの無い声で返事があった。ああ、また無茶な能力の使い方を……!


「一本なら平気!」


 早く大人しくさせて、ユーリと合流しないと。


「ちょっと道を、っ、開けてちょうだい……っ!」


 箒をフルスイング。しっかり蔦に命中した。

 まだ床で震えているが、これ以上襲ってくる気配はない。


「ユーリ!」


 私が駆け寄ると同時に、砂が風でさらわれていくかのように、さらさらと目の前の壁が崩れた。


 青白い顔のユーリが姿を現す。


「あんたはまた……!」


 今にも倒れそうな体を支えると、ユーリは小さく「ありがと」とつぶやいた。


「怪我はない? ノエル」

「おかげさまでね。……ものすごくいいタイミングだったじゃない」


 じろり、と睨むと、ユーリはイタズラを見つかったときの子供のように笑った。


「もうバレた?」


「いくらユーリでも、さすがに今回の行動は横暴が過ぎると思って。ロビンの話を聞いて確信した……最初から餌にするつもりだったんだよね!?」


「まあ、全部が全部ウソではないんだけど……」


 えっ?


「その通りよ。最初からその髪飾り、怪しいと思ってたの」


 ユーリは身をかがめ、足元に落ちている蔦にそっと手のひらで触れた。


「私たちはあなたを傷つけない。どうか落ち着いて……花の妖精・フローラ」


 その名を呼ぶと、蔦がしゅるしゅるとその身を縮め始めた。あの白百合の髪飾りに吸い込まれていくかのように。


 ふわり、と鼻孔を甘い花の香りがくすぐった。

 神経を研ぎ澄ますと、温かい気配を感じる。……そこにいるんだ、妖精が。


「あ、待って……」


 ユーリが虚空に向かって手を伸ばす。

 と同時に、気配も消えてしまった。


「行っちゃたわ……また後で話を聞かないと」


 ユーリが息を吐く。

 えっと、なんかあっという間に色々進んじゃったんだけど……。


「この髪飾りは妖精道具だった、ってこと?」

「ええ。花の妖精・フローラの力で、成長速度を遅くしていたんじゃないかしら」


 ユーリは髪飾りを拾い上げると、ロビンに手渡した。


「さっきみたいなことはもう起きないわ。安心してプレゼントして」


 あ、でも後で詳しい話は聞かせてちょうだい。


 それだけ言うと、ユーリは戸口へと向かっていく。


「……ちょ、ちょっと待ってユーリ」


 慌てて引き留めると、くるりと彼女は振り返った。


「なあに? パーティまで時間が無いんだから、早く二人で話してちょうだい」

「いや、それなんだけど……断ったから。ロビンも納得済み」


 うんうん、と横でロビンが首を振る。


「……そうなの?」


 そう口にした時のユーリの表情を私はおそらく一生忘れないだろう。


 なんたって、彼女は――迷子がお母さんを見つけた時のような顔をしていたのだから!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ