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ドアの叩かれる音が三回鳴ったのは、その時だった。
「来客の予定なんてあったかしら?」
頭の中のスケジュール帳をパラパラ。今日の予定は全くの空白だ。
「まあ、いいわ。入れてあげて」
「はいはい……『ペーネ』、来客を迎えて」
パタンと音を立て、ドアが開かれる。
まず目に入ったのは、豊かな黒髪をきっちりと結んだお下げ。
女子生徒はスカートの前で組んだ指を落ち着かない様子でもじもじとさせていた。
あまり見覚えがない顔、少なくとも同学年の生徒ではなさそうだ。
私が促すと、彼女はいかにも「緊張してます!」という、ぎくしゃくとした動きで扉をくぐった。
さて、大丈夫だろうか。
私の心配をよそに、彼女はユーリの前までたどり着いてしまった。
「ようこそ、生徒会室へ。なにかご用かしら?」
ユーリが微笑み、声をかける。
不意打ちの美女スマイルを食らった彼女は林檎のように頬を赤くした。
「え、えっと、あの……」
ぱくぱくと口は動いているものの、音になっていない。
あー、やっぱり駄目だったか。
きっと彼女の脳内は今、大パニック中だろう。
そこに追い打ちをかけるように、
「どうしたの? 具合でも悪い?」
とユーリは彼女の顔をのぞきこむ。
あー、これはいけない。供給過多。彼女、息してない。
「はい、ユーリは離れる。あなたも、こっちに座って。とりあえず一旦落ち着きましょう」
まったく、妖精姫の付き人も楽じゃない。
私が二人の前に紅茶を出す頃には、女子生徒とユーリは少しばかり打ち解けていた。
女子生徒――ソニアは二年生。私たちの一つ下だ。
特定のクラブや委員会には属していないが友人は多く、たまに手伝いなどで顔を出している。……といったような話が、お茶の準備中に聞こえてきた。
「それで、今日はどんな用件かしら? 勉強の悩み、進路の悩み、恋の悩み……なんでも聞くわよ」
いや、安請け合いしすぎでしょ。本当に恋愛相談とか来ちゃったらどうするつもりなのか、この人は。
「ノエル~、何か言いたいことでもあるのかしら~?」
「イイエナンデモアリマセン」
さっさと本題をどうぞ。
「れ、恋愛とかそういうのでもなくて、あの、本当に、なんというか……変な相談、なんですけど」
「変な……相談?」
思わずユーリと顔を見合わせる。
「えっと、クラブハウスで……ちょっと不思議なことが起きていて……あの、本当に変な話なので!」
ソニアはそう早口で前置きをすると、その『不思議なこと』について話し始めた。