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ロビンの提案で、私たちは食堂に移動した。
紅茶とマフィンのセットを二人分注文して、隅の方のテーブルを囲む。
マフィンは日替わりで味が変わる食堂の人気メニュー。今日はチョコレート味だった。
一口かじってみると、とろりとチョコレートソースが口の中に流れ出た。……美味しい。思わず息を吐く。自分で思っていたよりもずっと、私は疲れていたらしい。
「それで、ユーリが渡したヒントってどういうものだったの?」
紅茶で口の中をリセットすると、さっそくロビンに尋ねた。
彼は私に見えるように、二枚のカードを机の上に広げた。
「まず、一枚目が……」
『学徒の住まう家に赴き、【土】と【風火】の交わる箇所の手紙を見よ』
「そして、こっちが二枚目です」
『妖精王が最初に現れ、まばゆい光をもって混沌を支配した。
光に導かれ、
一番目の土が混沌に国土を創造した。
二番目の水が渇いた大地を満たした。
三番目の風が混沌を吹き飛ばした。
最後に火が凍てついた空気を温めた。』
「二枚目は見覚えがある文章だね」
「『創国の物語』ですね」
ラナン王国の起源を綴った書物、『創国の物語』。
二枚目のカードに書かれているのはその冒頭の一節だ。
幼年学校の授業でも習うし、王国教会の説法でもよく聞く話だから、この国の人ならほとんどが知っているだろう。
「妖精王が自らの光の力を使って、この世を支配した。その光に導かれて、土の妖精が国土を作り、水の妖精が海や川、湖を作った……つまり、この国は妖精の力で成り立っているって話よね、ざっくりいえば」
「はい。僕は妖精は見えないですけど、そんな力を持っているなんてすごいですよね、妖精王は」
ロビンの言葉に私もうなずく。
私はともかく、ユーリは妖精王に会ったことがあるらしい。
でも、いつも詳細を教えてくれない。いったいどんな妖精なんだろうか。
「で、なんで創国の物語? ここに書かれているってことは、暗号に関係あるのかなぁ」
ロビンはうーん、と小さく唸り声をあげて腕を組む。
やがて、あ、と手を打った。
「もしかして、一枚目が会長の示した隠し場所で、二枚目がヒントなのでは?」
ロビンはブレザーの胸ポケットからペンを取りだすと、文字に印をつけた。
「この『学徒の住まう家』というのが、場所ですよね」
「学徒……学生のこと、だよね?」
「はい。それに会長は『学園内の誰でも立ち入れる場所』って言っていました。それがルールですから、会長が違えることはないはずですよね」
「そうだね、『ゲームのルール違反なんてナンセンスだわ』とか言いそう」
学園内の誰でも入れる、『学徒の住まう家』……思い当たるのは一か所しかない。
ロビンも同じ考えに至ったらしい。私が視線を向けると、力強くうなずいた。
「学生寮ですね、たぶん。……でも、次の部分は」
言葉が途切れる。
続くのは『【土】と【風火】の交わる箇所の手紙を見よ』という一文だ。
「手紙を見よ、はまだいいとして……交わる箇所っていうのが良く分からない……」
なんなら性質的に水と火は交じり合えそうにないのだが。
もう少し意味の分かる内容にしなさいよ、ユーリ。
なんて文句を内心言いつつ、
「とりあえず、学生寮……行ってみる?」
私の出した提案にロビンもうなずいた。




