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夕食はトロトロに煮込まれたビーフシチューだった。
しっかりと食べ、万全の態勢を整えてベッドに入る。
椅子に座っていてもいいんだけど、眠りについて起きられなくなった時のことを考えると、ベッドの方が都合がいい。
そう考えての判断だったのだが……。
「狭い!」
壁に体がぎゅうぎゅうと押し付けられている。首都の満員電車に乗っているかのような心地だ。
断じてベッドが小さいわけではない。至って普通のシングルサイズ。
原因は――
「仕方ないでしょ。近くにいた方が安全だし」
ユーリだ。
私のベッドにどういうわけかユーリが入り込んでいる。
私も細い方ではあるのだが、さすがに無理があるでしょ……! (ユーリは言わずもがな、だ)
「寝ちゃえば一緒よ」
私の文句はあっさりと返されてしまった。なんて雑な。
「ほら、手貸して」
未だに良い位置が見つからず、もぞもぞ動いている私にユーリがそう声をかける。
「……? はい」
よく分からないまま、彼女の方に手を伸ばすと、力を込めてきゅっと握られた。
こんな時なのに、「手すべすべだな……」とか思ってしまった。
「勘は鋭いとはいえ、ノエルは妖精使いじゃないでしょう。……絶対に手を離さないで。私は妖精王に愛された『妖精姫』。妖精があなたを害為すというのなら、この力をもってしてあなたを守るから」
……。
…………えっと。
「…………それ、私のセリフでは……?」
付き人ですし。護衛も兼ねてますし。
「いいの! たまには私にもカッコつけさせてよね!」
「あ、うん……?」
いまいちわからないけど、ユーリが私を心配してくれていることは伝わってきた。
「ありがと」
一度ベッドから抜け出た背中にそうつぶやく。返事はなかった。
「……火、入れるわよ」
共用のテーブルに置かれたキャンドルに光が灯る。
私の隣に戻ってきたユーリが身を落ち着けた頃。
甘い、花の香りがこちらまで漂ってきた。
「いい香り……」
うっとりとユーリがつぶやく。
そうだね。
と返そうとした唇が重たい。
体から力が抜けていく。自分の意志とは関係なく。
「妖精、いつ出てくるのかしら……」
ユーリがまたつぶやいた。
その声も何枚も幕を重ねた向こうから聞こえてくるようで……。
視界がぼやけて、霞んで。黒くなって。
…………………………。




