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私とユーリが通うアスター学園は、知恵の妖精であるミスティの開いた学問所が前身となっている。
その歴史は長く、辿れば妖精王と四人の臣下たちが国を創った千年以上前にまでさかのぼる。
「だからこの宝物庫には、昔の貴重な資料や妖精道具がたくさん保管されてるの」
ユーリの解説に相づちをうちながら、棚の上にあった箱を下ろす。
蓋をあけると、年代物の妖精道具がごろごろと入っていた。
ユーリは一つ一つ、慎重な手つきで検分していくと、ノートに何やら書き込んだ。
「毎月のことだけど、所蔵品の点検も骨が折れるわね」
時刻は放課後。
今日は月に一度の宝物庫の点検日。
私とユーリは授業を終えるとすぐに、宝物庫へとやってきていた。
「これ、本当に生徒会の仕事なの……? 先生とかがやった方がいいんじゃ……」
また梯子をのぼり、棚の上に手を伸ばす。
「今の先生方には妖精使いはいないから。私なら意思疎通も問題ないし、適材適所ってやつね……あ、この箱は終わったわよ」
ユーリが箱のふたを閉じたのを見て、私は横からひょいと手を伸ばす。
「今下ろしたのが最後の一個。これは戻すね」
また梯子をのぼる。そろそろ腕が限界だ……。
「大丈夫? 私も戻すの手伝うわよ」
「いや、それはいい」
だってその細腕じゃあねぇ……。
中身が男とはいえ、今のユーリは私よりも小柄で、スプーンより重い物は持てなさそうな令嬢だ。
そんなのに重労働させている現場を誰かに見られたら……苛めてるとでも誤解されてしまう。
「……想像力豊かね」
「……人の頭の中を覗かないでくれます?」
私、なんにも口に出してないのに!
黙々と全ての箱を元ある位置に戻した頃には、放課後もだいぶ時間が経っていた。
「はぁ、疲れた……」
うーん、と腕を伸ばすとパキパキと肩が鳴る。
この程度では筋肉痛にならないとは思うが……今日はちゃんとお風呂でほぐしておこう。
「ご苦労様。生徒会室に戻ったら紅茶を淹れてあげるわ」
「やった。ユーリの紅茶、久しぶり」
私に淹れ方を教えたとあって、ユーリの腕は確かだ。これは思わず期待してしまう。
そんな会話を挟みながら宝物庫の出口に向かう。
扉の手前でユーリが足を止めた。
「あ、これも点検しておかないとね」
視線の先は扉の上――吊り下げられた銀色のベルを向いていた。
手のひらほどの大きさのそれは、ユーリに気づくとちりん、と涼やかな音を鳴らした。
「ごきげんよう、門番さん」
再びベルが鳴る。
これは『銀の門番』という名の妖精道具。
侵入者があると、けたたましい音を鳴らし、宝物庫の管理者――現在はユーリだ――に知らせてくれるらしい。
……実際に発動しているところは見たことないんだけどね、当然。
ユーリはそのまま門番と言葉を交わしはじめた。
当然私にはユーリの声しか聞こえない。
会話の内容はよくわからなかった。
……うーん、暇。
「先出てていい?」
「ええ、すぐ行くわ」
了承を得て、先に建物の外に出た。




