13.5
◇
壁を一枚隔てたシャワールームから、水の流れる音が聞こえはじめた。
「はぁぁぁぁ~~~」
制服のスカート姿のまま、ベッドに倒れ込む。
いつものこととはいえ、気を抜くと良からぬ想像をしてしまいそうだ。
何回か頭を枕に押し付け……いくらか冷静になれた。
「ああ……もう、僕ってホント……何言ってるのよ……じゃなくて、何言ってるんだ……」
つい気恥ずかしくて、あんなからかうようなことを言ってしまった。彼女が困るだけなのに……。
いや、でもふと目が覚めたら好きな子の背中に負ぶわれてるって……情けないやら、恥ずかしいやらで頭がパニックになるのも無理ないよね!?
「昔から逞しかったなぁ……ノエル」
そして、昔から鈍かった。
……僕がどれだけ好きで、大切に思っているか、全然気づく気配もない。
せめて僕が正真正銘の「男」だったら、まだ脈があったのだろうか。
「はぁぁぁぁ……」
再び息を吐く。今度のは長く重たい。
『……何をしているのだ、お前は』
荘厳さをまとった男の声が、やや呆れのニュアンスを含んで語り掛けてきた。
ベッドから顔をあげる。
視界の隅に、うすぼんやりとした光が漂っていた。
「……どうも、妖精王。ちょっと将来に対しての不安に鬱々としていたところです」
馬鹿正直に言ってみると、光の主――妖精王はくく、と笑った。
『何を今さら。お前の未来は十年前のあの日に決まったようなものであろう』
「それを後悔しているわけでは無いですよ。……それで、なにかご用でしょうか? 貴方様がこんな時間に出てくるのは珍しい」
シャワーの音はまだ続いている。もう少し時間の猶予はありそうだ。
『先ほど気になる気配を感じてな……何が起きた』
すっかりお見通しか……。
妖精王相手に隠し事もできない。
エリアルの件を素直に話すと、
『……やはりか』
と、妖精王は纏う気配を固くした。
「何かご存知のことが?」
『……エリアルを見て、お前は思ったのだな? まるで別の存在になったようだ、と』
「はい。穏やかな性質だと聞いていましたから」
『そうだ。エリアルは温厚な種。あのように暴走するに至るには……何か厄介なものが関わっているとみていいだろう』
「厄介な……?」
それは、一体――
聞くより早く、答えが返って来た。
『妖精の持つ本来の性質を歪める力』
「呪い……のようなものでしょうか?」
『……今はそういう理解で構わぬ。確信は持てんがな』
妖精王はユーリ、と僕の名を呼んだ。
『我との盟約、忘れてはおらぬな?』
「……もちろん。貴方様が願いを叶えてくれる限り、僕はあなたの目となり、耳となり……手足となる」
妖精王の『観察者』――その称号にかけて。
膝をつき、首を垂れると、妖精王の気配が少し和らいだ。
『この件について、お前に調査を任せる。……では』
数拍ののちに、光は宙に霧散した。
と同時に、ガチャ、とシャワールームのドアが開く音がした。
「ユーリ、シャワー……って、まだ着替えてなかったの!?」
驚いた声が飛んでくる。
僕はというと、ホカホカと体から湯気を漂わせるノエルをしっかりと見てしまい――再び枕に突っ伏した。
自分で決めたこととはいえ、どうも耐えられそうになかった。




