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妖精姫は深夜に眠る  作者: 波久音子
1.クラブハウスの侵入者
15/45

13.5

 壁を一枚隔てたシャワールームから、水の流れる音が聞こえはじめた。


「はぁぁぁぁ~~~」


 制服のスカート姿のまま、ベッドに倒れ込む。

 いつものこととはいえ、気を抜くと良からぬ想像をしてしまいそうだ。


 何回か頭を枕に押し付け……いくらか冷静になれた。


「ああ……もう、僕ってホント……何言ってるのよ……じゃなくて、何言ってるんだ……」


 つい気恥ずかしくて、あんなからかうようなことを言ってしまった。彼女が困るだけなのに……。


 いや、でもふと目が覚めたら好きな子の背中に負ぶわれてるって……情けないやら、恥ずかしいやらで頭がパニックになるのも無理ないよね!?


「昔から逞しかったなぁ……ノエル」


 そして、昔から鈍かった。


 ……僕がどれだけ好きで、大切に思っているか、全然気づく気配もない。


 せめて僕が正真正銘の「男」だったら、まだ脈があったのだろうか。


「はぁぁぁぁ……」


 再び息を吐く。今度のは長く重たい。



『……何をしているのだ、お前は』


 荘厳さをまとった男の声が、やや呆れのニュアンスを含んで語り掛けてきた。

 ベッドから顔をあげる。


 視界の隅に、うすぼんやりとした光が漂っていた。


「……どうも、妖精王。ちょっと将来に対しての不安に鬱々としていたところです」


 馬鹿正直に言ってみると、光の主――妖精王はくく、と笑った。


『何を今さら。お前の未来は十年前のあの日に決まったようなものであろう』

「それを後悔しているわけでは無いですよ。……それで、なにかご用でしょうか? 貴方様がこんな時間に出てくるのは珍しい」


 シャワーの音はまだ続いている。もう少し時間の猶予はありそうだ。


『先ほど気になる気配を感じてな……何が起きた』


 すっかりお見通しか……。


 妖精王相手に隠し事もできない。

 エリアルの件を素直に話すと、


『……やはりか』


 と、妖精王は纏う気配を固くした。


「何かご存知のことが?」

『……エリアルを見て、お前は思ったのだな? まるで別の存在になったようだ、と』

「はい。穏やかな性質だと聞いていましたから」


『そうだ。エリアルは温厚な種。あのように暴走するに至るには……何か厄介なものが関わっているとみていいだろう』

「厄介な……?」


 それは、一体――


 聞くより早く、答えが返って来た。


『妖精の持つ本来の性質を歪める力』


「呪い……のようなものでしょうか?」

『……今はそういう理解で構わぬ。確信は持てんがな』


 妖精王はユーリ、と僕の名を呼んだ。


『我との盟約、忘れてはおらぬな?』

「……もちろん。貴方様が願いを叶えてくれる限り、僕はあなたの目となり、耳となり……手足となる」


 妖精王の『観察者』――その称号にかけて。


 膝をつき、首を垂れると、妖精王の気配が少し和らいだ。


『この件について、お前に調査を任せる。……では』


 数拍ののちに、光は宙に霧散した。

 と同時に、ガチャ、とシャワールームのドアが開く音がした。


「ユーリ、シャワー……って、まだ着替えてなかったの!?」


 驚いた声が飛んでくる。


 僕はというと、ホカホカと体から湯気を漂わせるノエルをしっかりと見てしまい――再び枕に突っ伏した。


 自分で決めたこととはいえ、どうも耐えられそうになかった。

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