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妖精姫は深夜に眠る  作者: 波久音子
1.クラブハウスの侵入者
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11


 暴走したエリアルは、ユーリが開けたドアをくぐりぬけ、衣裳部屋から廊下へと飛び出していった。


 窓ガラスが揺れ、壁に貼られたポスターがバサバサと音を立てる。


「それじゃ、時間稼ぎはよろしくね。ノエル」


 私はそんな言葉に見送られ、廊下に駆けだした。


 ――エリアルの背中を追って。


 ここで再度言うが、私には妖精が見えない。

 ではどうやって追うのかというと……勘だ。


 もう少し正確に言えば、妖精の放つ独特な気配。それを感じ取るのだ。

 十数年ほど前から私の勘は異常発達を遂げ、こんな芸当をできるようになってしまった。


 とはいえ、簡単なことではない。

 集中力は必要だし、全力疾走で耐久レースだし……!


 ユーリ、早く……!

 心の中で必死に叫びつつ、無心で足を動かす。


 一階、入り口の掲示板付近に差し掛かると、エリアルの気配がぐん、と遠く離れた。


 逃げる速度をあげた彼の向かう方向は……玄関のドア!

 外に出られたらとてもじゃないけど追える気がしない。


「行かせない……!」


 足に力を込め、ドアの前に滑り込む。

 エリアルの風圧に体が押しつぶされそうになったが、なんとか耐えた。


 エリアルはUターンすると、ふたたび廊下の奥へと逃げていった。嵐の威力も速度も少しも衰えてはいなかった。


「ユーリ早く!」


 今度は口に出して叫んだ。このままだと私が死ぬ。


 「あと三分!」


 衣装部屋の方から返事が飛んでくる。


 三分、かぁ……。

 持つかな。いや、やるしかない。


 一度息を吐くと、再び廊下を駆けだす。


 エリアルは階段へと消えていった。私は走ってきた勢いのまま、手すりに足をかけ――強く蹴った。


 宙に身が躍る。


 反対側の壁に片足をつけ、反動を押し殺し……二階の廊下に着地。


 マナーの先生にでも見られたら卒倒ものの光景だ。運動部には喜ばれそうだけど。


 空飛ぶ妖精を相手にするには、このくらい許してほしい! ということで先生ごめん!

 心の中で謝りつつ、先行くエリアルを追う。


 時折、窓の方へ突進していくのを妨害しながら、二階の廊下を短距離走のごとく駆け抜けた。

 階段は全飛ばしで再び一階廊下へ。


 通りすがりにちらりと衣裳部屋を覗くと、一瞬だけユーリの背中が見えた。

 集中しているようで、こちらを見向きもしない。


 まだかかるかな……これは。


 息を吐いて、速度を上げる。


 ラップ2突入……!



 

 ……とこんな調子で三回ほど繰り返した頃。


「できた!」


 ユーリの声が聞こえた。


 ああ、このセリフを待ってました!


 最後の力を振り絞り、足を動かす速度を上げた。

 反発する磁石のように、気配が一気に遠ざかっていく。


 二階へと上がり、西側の階段へ――狙い通りの方向へ、エリアルは逃げていく。


 これでラスト……!


 階段を一気に飛び降り、衣裳部屋の前に差し掛かった。


 その瞬間――


「リライト!」



 私の目の前に壁が現れた。音もなく、突然に。

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