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暴走したエリアルは、ユーリが開けたドアをくぐりぬけ、衣裳部屋から廊下へと飛び出していった。
窓ガラスが揺れ、壁に貼られたポスターがバサバサと音を立てる。
「それじゃ、時間稼ぎはよろしくね。ノエル」
私はそんな言葉に見送られ、廊下に駆けだした。
――エリアルの背中を追って。
ここで再度言うが、私には妖精が見えない。
ではどうやって追うのかというと……勘だ。
もう少し正確に言えば、妖精の放つ独特な気配。それを感じ取るのだ。
十数年ほど前から私の勘は異常発達を遂げ、こんな芸当をできるようになってしまった。
とはいえ、簡単なことではない。
集中力は必要だし、全力疾走で耐久レースだし……!
ユーリ、早く……!
心の中で必死に叫びつつ、無心で足を動かす。
一階、入り口の掲示板付近に差し掛かると、エリアルの気配がぐん、と遠く離れた。
逃げる速度をあげた彼の向かう方向は……玄関のドア!
外に出られたらとてもじゃないけど追える気がしない。
「行かせない……!」
足に力を込め、ドアの前に滑り込む。
エリアルの風圧に体が押しつぶされそうになったが、なんとか耐えた。
エリアルはUターンすると、ふたたび廊下の奥へと逃げていった。嵐の威力も速度も少しも衰えてはいなかった。
「ユーリ早く!」
今度は口に出して叫んだ。このままだと私が死ぬ。
「あと三分!」
衣装部屋の方から返事が飛んでくる。
三分、かぁ……。
持つかな。いや、やるしかない。
一度息を吐くと、再び廊下を駆けだす。
エリアルは階段へと消えていった。私は走ってきた勢いのまま、手すりに足をかけ――強く蹴った。
宙に身が躍る。
反対側の壁に片足をつけ、反動を押し殺し……二階の廊下に着地。
マナーの先生にでも見られたら卒倒ものの光景だ。運動部には喜ばれそうだけど。
空飛ぶ妖精を相手にするには、このくらい許してほしい! ということで先生ごめん!
心の中で謝りつつ、先行くエリアルを追う。
時折、窓の方へ突進していくのを妨害しながら、二階の廊下を短距離走のごとく駆け抜けた。
階段は全飛ばしで再び一階廊下へ。
通りすがりにちらりと衣裳部屋を覗くと、一瞬だけユーリの背中が見えた。
集中しているようで、こちらを見向きもしない。
まだかかるかな……これは。
息を吐いて、速度を上げる。
ラップ2突入……!
……とこんな調子で三回ほど繰り返した頃。
「できた!」
ユーリの声が聞こえた。
ああ、このセリフを待ってました!
最後の力を振り絞り、足を動かす速度を上げた。
反発する磁石のように、気配が一気に遠ざかっていく。
二階へと上がり、西側の階段へ――狙い通りの方向へ、エリアルは逃げていく。
これでラスト……!
階段を一気に飛び降り、衣裳部屋の前に差し掛かった。
その瞬間――
「リライト!」
私の目の前に壁が現れた。音もなく、突然に。




