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妖精姫は深夜に眠る  作者: 波久音子
1.クラブハウスの侵入者
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 月の見えない晩だった。


 疲れ切った体に鞭を打って、私は学園の中庭を駆けていた。


 背中には年頃の男性らしい、ずっしりとした重みがある。時折、寝息が首元をくすぐっていった。


 まったく、こっちの気もしらないで……!


 荒い呼吸音と、できるだけ忍ばせた足音。すっかり灯りが消えた校舎の間に響くのはそれだけだ。


 ようやくの思いで寮にたどり着くと、さらに足音を忍ばせ廊下を進む。


「『コール』」


 囁くと、目の前のドアの中からカタカタと小さな音が鳴った。


 あああっ、響く! いつもなら気にならないんだけど、この状況だとちょっとうるさい!


 誰もこないで! 気づかないで!


 ……そんな願いもむなしく。


「『イルミア』! そこで何をしている!」


 鋭い声と共に、まばゆい光が容赦なく私たちを照らし出す。


「ご、ごきげんよう。寮長先生……ちょっとまぶしいので、『明灯球』を下げてもらえると……」


 笑みが引きつらないように最大限の注意を払って挨拶をすると、中年の寮長先生は、


「お前は……ノエル・ローゼンだったか」


 私の名前を思い出したようだった。

 『デルミア』の合言葉とともに、手元に携えたランタンの灯りが弱まる。

 ようやくまともに目を開けられる……。


「このような時間に何を……ん、その背中のは……?」


 あああっ、やっぱ気づきますよね!


「ええっと、ユ……じゃなくて、彼はそのー……ちょっと生徒会の手伝いを頼んだんですが! 頑張りすぎて疲れちゃったみたいで……部屋まで送るところでした!」


「……ローゼン、見かけによらず力があるのだな」

「あ、はは……」


 乾いた笑いで先生の指摘を受け流す。こう見えて力持ちなのだ、私は。

 ひょろっこい男一人、背負って走るくらいワケない。


「だが、男子部屋に一人で行くのは感心せんな。私が代わろう」


 一難去ってまた一難。先生の申し出は至極当然で、普通の生徒であれば素直にお願いしていたことだろう。


 だが、私たちは普通じゃない。


「い、いえ、先生のお手を煩わせるわけには!」


 と、タイミングよくベルの音と共にドアが開く。

 すぐさま私は中に滑り込んだ。


「で、では先生、おやすみなさい!」


 引き留められる前にドアを閉める。


「『レイズ』、最上階まで!」


 カタカタという音と、ふわりと足元から浮遊する感覚が体を包み込む。

 体の奥底から、大きなため息が漏れ出た。


「せめてあんたが女ならなぁ……」


 せんなき私のつぶやきは誰にも届かず、夜の闇に消えていく。


 ああ、神様。偉大なる妖精王様……。

どうしてあなたは、彼に、彼女にこんな呪いを与えたのでしょうか……!

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