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ジュリエット、殿下に食べさせて差し上げて

 戦闘開始から数えて3分ほどで、黒竜オセローは降伏した。


 降伏の印として人間形態に戻らせたら全裸だったので、魔道士のローブを借りて、しょんもりと草地に正座している。

 再生能力の高い竜だけあって身体の熱傷はすぐに回復したが、長くうねる黒髪はところどころ焦げたままだ。


 魔道士達は「黒竜、わりと粘ったな」「今日の技の名前はどうしよう?」とジュスティーヌの戦闘記録を残すための審議に入っている。

 ジュスティーヌと黒竜の戦いを見ているだけで、なにもしないと思っていたら、どうも彼らは移動要員兼記録係だったらしい。


 それはさておき、アルフォンスは自分はつがいではないと、どうにかこうにかオセローに納得させた。


「番やないて、王子さんがはよはっきり言うてくれたら、姫さんに逆らうことなどやりゃあせんかったのに……」


 どういうわけだか、喋り方が変わって妙に訛っているオセローは、ぷすぷす不満顔だ。


「いやだから、びっくりした時の『はいいいいい!?』↑↑↑は、承諾の『はい』→とは違う意味なんですよ!」


 ジュリエットが説明するが、「そんなんワシ知らんもん」とオセローは拗ねている。


「ところでなにか、いい匂いがするんだが」


 くんくんとアルフォンスは鼻をうごめかした。


「あ、姫様のご指示で、シェパーズパイ作って来たんです」


 あとお茶も、とジュリエットは胸元の包みをジュスティーヌに差し出した。

 だがジュスティーヌは、自分用ではないと首を横に振る。


「ジュリエット、殿下に食べさせて差し上げて」


「「えええ??」」


 アルフォンスとジュリエットの声が揃った。


 アルフォンスの婚約者はジュスティーヌである。

 それなりに親しくはあるが、恋人でもなんでもないジュリエットが、なぜジュスティーヌを差し置いてアルフォンスに「あーん」しなければならないのか。


「……殿下は、怖い目に遭われたのだもの。

 美味しいものでも召し上がって、少し休憩されないと」


 そこまではわかる、とアルフォンスとジュリエットは頷いた。


「シェパーズパイ、庶民が食べる物だからって公爵家の料理人は作ってくれないけれど、本当に美味しいと思うの。

 それに、ジュリエットに食べさせてもらうと、自分で食べる時よりも美味しいし」


 ジュスティーヌは下を向いてもそもそっと言う。

 うっすら赤くなっているようだ。


 ジュスティーヌはジュスティーヌなりに、アルフォンスをいたわりたいと最善を尽くした結果もしれないが、どうしてそうなるのだ。


 確かに以前、ジュスティーヌにシェパーズパイを作ったことはある。

 その時も、美食に慣れているはずのジュスティーヌが、美味しい美味しいとやたら大興奮していたが……


 あれか?

 小さな子供が、好きな子に自分の好物を食べさせたがるヤツか?

 ジュリエットも子供の頃、そんなことをした覚えはある。

 せいぜい6、7歳くらいまでだった気はするが。


 アルフォンスの方を見ると、そっちはそっちでもじもじもじもじしながら謎のジェスチャーをしている。

 よく見ると、手旗信号だ。

 傍から見れば完全に挙動不審な王太子の動きをつなげると、「ジ」「ュ」「ス」「テ」「ィ」「ー「ヌ」「に」「食」「べ」「さ」「せ」「て」「ほ」「し」「い」となんとか読み取れた。


 ジュリエットはため息をついた。


「んー……

 姫様がアル様に食べさせてあげる方がいいんじゃないですか?

 ほら、せっかく眺めもいいですし」


 遠くには、年中溶けぬ雪を戴いた壮麗な山々が連なり、眼下には色とりどりの花が咲き乱れる高原。

 高原はなだらかに下り、豊かな森になりのどかな平野となって、ゆったりと流れる河の煌めきも見える。


 ピクニックなら最高だ。


 少し離れたところに、ベンチ代わりにできそうな岩がある。

 ジュリエットは、二人を引っ張っていった。


「え、でも。

 わたくし、そういうことが苦手で……」


 ジュスティーヌが、急にもだもだし始める。


「なに言ってるですか姫様。

 私にはよくお返しの『あーん』してくれるじゃないですか。

 アル様にだってできますよ!

 さっさとしないと冷めちゃいますよ?」


 ジュリエットは無理やり2人を座らせると、まだ温かいシェパーズパイをジュスティーヌの膝の上に置き、一本しかないスプーンもジュスティーヌにもたせた。


 緊張で、ふるふると震える手でジュスティーヌがシェパーズパイをすくったその時──


 空に、超巨大な美しい女人の姿が浮かび上がった。

 毎朝、皆が礼拝している像にそっくりだ。


「「「「「「女神フローラ!?」」」」」」


 それどころではないジュスティーヌ以外全員ぶったまげる中、女神はおごそかに唇を開いた。



──ジュスティーヌ・シャラントン、【クエスト:救出】7回達成を確認……


──【ユニークスキル:囚われし姫君を救う勇者】を認定します……


──この【スキル】を持つのは、世界にたった一人だけ……


──【スキル】の宿命に従うのです……従うのです……



 スキル認定を告げるだけ告げて、そのまま女神の姿は空に溶けてゆく。


 一同、無の表情になった。

 大陸中を飛び回ってスキル認定をしているのだろうから忙しいのはわかるが、せっかく出てくるのなら、女神なんだしもうちょっとありがたい事も言ってほしい。


 でも、とジュリエットは首を傾げる。


「今日が1回分として……

 もしかして、このあいだ私が助けていただいた時もカウントされてたんですかね??

 姫様、他に5回も誰かを救出されたことがあったんですか?」


 いくらつよつよジュスティーヌといえど、うら若き公爵令嬢の身で、そんなに悪漢とか竜とかから姫君を救出することがあるんだろうか。

 アルフォンスが、めっちゃ視線を泳がせた。


「あー……

 7歳の時、俺がハーピーにさらわれて、ジュスティーヌが助けてくれたんだ。

 9歳の時はアラクネ。

 10歳の時はなんだったっけ……ああ、ウンディーネだ。

 一昨年はドリアード、去年はセイレーンだな」


 指折り数えながら答える。

 それらすべて、ジュスティーヌが救出したということらしい。

 数があっている。


「殿下がハーピーに攫われた時は、ファイアボールを習ったばかりで、とにかくめちゃくちゃに打っていたら、【スキル:ファイアボール最強説】がついてしまったのよね。

 おかげで他の魔法が覚えられなくなって……」


 ジュスティーヌは懐かしげな目になる。


「アル様、通算6回もさらわれてるんです!?

 ていうか、ほぼほぼアル様で、後は私だし、一度も姫君助けてなくないですか!?

 ていうかていうか、【スキル】って一芸極めた人が一生で一回、貰えるかどうかなのに姫様もう2つ目!?

 ていうかていうかていうか、さっきの凄い怖い魔法、ファイアボールって言っていいんですか!?」


 ツッコミどころが多すぎて、ジュリエットは眼を白黒させた。

 だが今はそれどころではない。


「なにがなんだかよくわかんないけど、とにかく冷める前に食べちゃってください!!」


 ダメ押しすると、2人きり感を少しでも出すべく、ジュリエットは魔道士やオセローのところへささっと戻った。


 そっと振り返ると、ねぎらいのつもりなのか、アルフォンスがジュスティーヌにシェパーズパイを食べさせているところだった。

 姉2人に虐げられつつ、妹2人を可愛がりながら育ったアルフォンスは、なかなか世話好きなのだ。

 見ていると、お互いに食べさせあいながら、2人とも幸せそうに微笑んでいる。


 ジュリエットはほっとした。


「えらいおいしそうに食べよるけど、ワシの分はないん?」


 おとなしく正座したままのオセローが、ちらっとジュリエットを見上げた。

 浅黒い肌にやや垂れ目がちな眼、整った鼻筋と、黙っていれば迫力満点、色気ダダ漏れな美形なのに、ずうずうしくも甘えたかましてくる表情はあどけない。

 それでいて一人称はワシ。


「今日は準備してなかったから……

 でも、よい子にしてたら、また今度作ってあげる」


 属性がとっちらかっとると思いつつ、ジュリエットは約束してしまった。


「ほんま?

 絶対絶対よい子にするけん!

 約束じゃけえね!」


 テンションを上げたオセローは、にょろっとしっぽを出すと、嬉しそうにぱたぱたさせる。


 なんだこれ。


 見た目は美形悪役なのに、挙動は方言けもショタ。

 わけがわからないが、わからないなりにかわゆい。

 ジュリエットは思わず笑顔になると、わしゃわしゃっとオセローの頭を撫でまくった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 その後──


 ジュスティーヌは無事アルフォンスと結婚したが、王太子妃となっても、スキルの宿命に従って、隙あらばさらわれてしまうアルフォンスや姫君達を幾度も救出した。

 次第に「さらわれると、えらく強い美女が救出に来て、大変しょっぱい思いをする羽目になる」と姫君方の間で評判になり、美形悪役にさらってもらいやすいようにわざと不用意な行動をする姫君は激減した。


 せっかく美形悪役にさらわれても、ジュスティーヌが速攻ボコってしまい、姫君は丁重に実家に連れ戻されてしまう。

 救出してくれる勇者がイケメンであるなら、褒美として勇者に降嫁するという展開もアリだが、勇者はたいていの姫君以上に美しい女性なのだ。

 おかげで、この世界の王室・皇室・貴族達、そしてガードの緩い姫君を見ると脊髄反射でさらってしまう竜や高位魔族達には平穏がもたらされた。


 ジュリエットは、結局、四方八方に癖が強いオセローにほだされてしまい番となった。

 色々あって、オセローは番と寿命を分かち合うスキルを獲得し、数世紀の時を経た今も、ダンフォース山脈で2人?は仲良く暮らしている。


ご高覧いただき、ありがとうございました!

この作品は秋月忍様(https://mypage.syosetu.com/411932/)の、「アンドロメダ型企画」参加作品です。

企画詳細は↓

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/411932/blogkey/2946421/


以下、自作紹介など…

「ピンク髪ツインテヒロインなのに攻略対象が振り向いてくれません」

https://ncode.syosetu.com/n2517gv/

ピンク髪の男爵家の養女が、悪役令嬢志望のお姉様方の依頼で、婚約をぶっこわそうとしていたら、なんでか帝国の闇深案件に巻き込まれる話。

 4月なかばには完結予定です。


「王太子アルフォンスが雑な扱いを受ける短編とか中編」シリーズ

https://ncode.syosetu.com/s2814g/

アルフォンス、ジュスティーヌ、ジュリエットがちょっとずつズレた世界線で活躍?する短編・中編シリーズです。

気がつけば本作で7作目。

ジュスティーヌが暗殺ループ地獄から血反吐吐きながら這い出す「347回生きた公爵令嬢」以外は、基本、ハピエンラブコメです。


お気が向かれましたら、ぜひご覧ください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回のアルフォンス君は攫われ体質(笑) 素晴らしいラブコメを堪能させていただきました(∩´∀`)∩ まあ、やっぱりアルフォンス君が最高です( *´艸`)
[一言]  アンドロメダ型企画から来ました。  完結お疲れ様でした。  最初から最後まで楽しく読ませていただきました。  どういう「組み合わせ」になるのか、ハラハラさせられたところもありましたが、皆…
[一言] 完結おめでとうございます。 なんだかんだでハッピーエンドな結末に思わずにっこり。 勇者が美女過ぎるお陰で、全体の防犯意識が上がるなんて楽しいですね。確かにピー○姫といい、物語のお姫さまはナ…
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