ジュスティーヌッ 今日という今日は、許さんぞッ
とある王国の王立学院。
よく晴れて爽やかな風が吹き抜ける昼休み、王族から貴族、裕福な平民などの生徒が行き交う中庭で、怒声が響いた。
「ジュスティーヌッ
今日という今日は、許さんぞッ」
金髪碧眼、「(顔だけは)王国の至宝」とも呼ばれる王太子アルフォンスが眼を怒らせて、ベンチに腰掛けた銀髪紫眼の玲瓏たる美少女、ジュスティーヌ・シャラントン公爵令嬢をびしっと指す。
「なんですかアル様!
人を指差したらいけないって、教わりませんでした?」
ジュスティーヌの隣にぴったりくっついている、ピンクブロンドのあざと可愛いジュリエット・フォルトレス男爵令嬢が、素早く言い返した。
ジュスティーヌは、もきゅもきゅと鮭のピカタを食べている。
表情が乏しいために「氷の公爵令嬢」とあだ名されている彼女だが、目元がわずかにほころんでいるので、どうやらご満悦のようだ。
「うるさいッ
よくも2人で毎日いちゃいちゃいちゃいちゃと!
ジュスティーヌは俺の婚約者なのにいいいい!
ていうか、ジュリエットの弁当は俺も喰いたいのにいいい!」
ジュリエットの膝の上には大きな弁当箱。
ひき肉を入れた具だくさんのオムレツやら、人参の甘煮やらジュスティーヌの好物ばかりで埋められている。
男爵家の庶子で、ほんの2年前まで定食屋の娘として暮らしていたジュリエットの作る料理は、ぶっちゃけ学院の学食より旨い。
以前は、アルフォンスの分も作ってきていたのだが──
ジュリエットは「姫様、あーん」と今度はクミンで風味をつけた肉団子をジュスティーヌに食べさせておいて、アルフォンスにキレた。
「んなこと言って、カタリナ様の奸計に引っかかって、姫様を悪者扱いしたの、アル様じゃないですか!
なんで私がアル様にお弁当食べさせなきゃいけないんです?」
正論をぶつけられて、「駄犬系貴公子」とも影で言われているアルフォンスは、しおしおになった。
「おおお俺もカタリナに騙された被害者なのに……」
学院に入学してすぐ、アルフォンスに目をかけられるようになったジュリエットは、何者かの手によって嫌がらせを受けていた。
アルフォンスは親しい侍従候補達に諮り、自分の婚約者であるジュスティーヌが嫉妬して行っているのだろうと睨んだ。
最初はジュスティーヌに注意をするに留まっていたが、心当たりがないと受け流すジュスティーヌにじれて、多くの生徒の前で婚約破棄を匂わせて脅しつけるようなことまでしていたのだ。
だが、ジュスティーヌの名を騙った手紙で呼び出されたジュリエットが、深さ5メートルはある枯井戸に突き落とされてしまった時──
行方不明になっていたジュリエットを学院中を駆け回って発見したはいいが、梯子をかけるには深すぎるし、縄を垂らすにも相当な長さが必要であるしと、人を呼ぶのも忘れてアルフォンスは、ただあわあわおろおろしていた。
そこにジュスティーヌが現れ、迷わず自分の手と足だけを使って枯井戸の底に降り、息も絶え絶えのジュリエットを背負うと見事枯井戸を登り切ったのである。
いかにも淑やかな、細身のジュスティーヌではあるが、シャラントン公爵家に代々伝わる謎の体術で鍛えているらしい。
合わせて、ジュスティーヌは身の潔白を証明し、アルフォンスの婚約者候補の一人であった侯爵令嬢カタリナがほぼほぼ黒幕であろうと告げたのだ。
アルフォンスが改めて調査を入れたところ、やはりカタリナとその取り巻きが、ジュリエットに嫌がらせをし、あたかもジュスティーヌがしているように偽装していたことがわかった。
目的はもちろん、ジュリエットの排除とジュスティーヌの断罪、そして自分が王太子妃、ひいては王妃の座に上がることである。
カタリナは取り巻きごと無事「いなくなった」。
そして、アルフォンスの株も無事大暴落した。
その日以来、ジュリエットはジュスティーヌにべったり。
以前はアルフォンスやぽんこつ侍従候補共の分まで作ってきた弁当も、ジュスティーヌと自分の分しか作ってこない。
よよよと泣き崩れたアルフォンスを、生徒達が「今日も殿下は平常運転だな」と生温かい眼でチラ見して通り過ぎていく。
見かねた侍従候補のノアルスイユが、「殿下、あまり見苦しいことをされると、さらに好感度が下がりますよ」と声をかけ、アルフォンスが「うるさい!これ以上、下がりようがあるか!」と逆ギレしたその時──
む、とジュスティーヌが天を見上げた。
つられて、ジュリエットもアルフォンスも他の者も見上げる。
まばゆい太陽、その中心に黒点が現れ、みるみるうちに大きくなってくる。
ジュスティーヌが動いた。
弁当にさっと蓋をすると、ジュリエットを横抱きにしてベンチから飛び退く。
竜だ。
黒竜が空から舞い降りてくる。




