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3話 デートですね

王宮の騎士団長であるローレンスは婚約期間中も忙しく、本来の時系列では逢瀬もあまり重ねないままに三ヶ月の婚約期間の後結婚となった。

しかし今回死んだ後に十六歳まで時が遡ったせいか、なんと未来には本来なかった観劇デートに誘われてしまった。

手紙が贈られてきてから五日後、約束の日程にセルヴィアはレースのドレスをまとった。ふわりと繊細に広がるレースはため息が出るほどに美しく、それ以上の装飾がないにも関わらず華やかに見えた。翠色の宝石が付いたネックレスに、レースの手袋、桃色の口紅と頬紅。更に金色の髪を緩く巻けば、ハンナがまた妖精か天使のような透明感だと褒めたたえてくれた。


「贈ってくださったドレスがすてきなだけよ」

あまりの賞賛に少し照れながらも、セルヴィアもついつい浮かれてしまう。こんな素敵な経験は初めてで、その相手が未来の不仲の夫だなんて戸惑いながらも心揺れてしまう。今度こそ仲良くできるのではないかしら、と。

しかし期待を裏切るように、迎えに来たローレンスの表情はあいかわらず凍りついたように無表情で、眼光はこの前以上に鋭くセルヴィアを睨んでいる。庭園で不機嫌にさせた事をまだ怒っているのだろうかと、馬車の中で向かい合って座りながら縮こまる。

「貴方は、」

「は、はい」

「いえ、今日はわざわざご苦労でした」

「はい?」

「婚約者といえど無遠慮に誘ったのにわざわざ来てくださりご苦労様でしたと述べています」

「まぁ」

なんとも事務的な口調はロマンチックには程遠い。期待してときめいていたのは自分だけだったのだと、セルヴィアは少し悲しくなりながらも、やっぱりと納得した。未来は変わらないのだ。ローレンスはセルヴィアに興味などなく、義務感で誘っただけなのだろう。


演劇は歴史的に有名な一族の繁栄と衰退を背景に描きながらも、メインは貴族の娘と王子との切ない恋愛物語だった。王子との結婚を控えながらも、冷たくも美しい怪物に誘惑される貴族の娘の葛藤が楽曲とダンスで表現され、物語は華々しくも物悲しく、時に不気味に綴られる。

セルヴィアはなぜだか冷たい怪物に感情移入してしまった。感情の薄い無表情の怪物がふいに見せた悲しい顔が、目に焼き付いてしまったのだ。


「すてきな物語でしたね。ローレンス様がお誘いくださったおかげで本日はとても楽しめました。ありがとうございます」

「いえ」

「でもローレンス様には恋愛物語は退屈ではありませんでしたか?私に合わせてくださったのでは……」

「いや、この演目は音楽がすばらしいし、当時の歴史的変遷がよく分かる。観る価値はあります」

「まぁ、ならよかった」

とてもすてきな物語だったから、感動を分かち合えるのは嬉しいものだ。セルヴィアが微笑むと、ローレンスの眉間にシワがよった。また不快にしてしまったのだろうかと、楽しかった気持ちが一瞬で萎んでしまった。

帰り道、ローレンスは馬車に乗る際手を出してエスコートしてくれた。渋々なのか、あいかわらず眼光は鋭い。

「あの、今回は本当にありがとうございました。結婚式の準備に関して手伝えることがあれば私が公爵家に伺いますので、その時は仰ってください」

「結婚式ですか。ドレスの採寸やデザイン選びは必要ですが、そちらはデザイナーを貴方の家に送りましょう。それ以外は私の母が取り仕切るでしょうから必要ないと思います」

「そうですか…」

気まずくなって馬車の小窓から外を見た。劇場の近くは店も多く栄えている。人通りも多い。その時ガタンと、石でも踏んだのか馬車が勢いよく揺れた。窓をぼんやり見つめていたセルヴィアは反応が遅れてしまった。

「きゃあっ」

勢いよく倒れかかったところをローレンスの手が支える。顔を上げればまたローレンスの顔が目の前にあった。ローレンスの膝に乗り上げる形になっていたのだ。

「あ、申し訳ありません。痛くはありませんか?」

「な、貴方はまた!」

「え?」

「なぜ私ばかり!」

「も、申し訳ありません」

ローレンスはセルヴィアから目を逸らすように横を向くと、大きなため息をついた。

「いえ、声を荒あげてすみません。これは事故です」

「でも重いでしょう。今どきますね。あっ!」

「どうしました?」

「その、私のネックレスがローレンス様のボタンに引っかかってしまって。身動きが取れません」

「はぁ?貴方は本当に……勘弁してください」

「申し訳ありません!今すぐ取りますね」

「いえ、ネックレスが壊れては大変です。私が取ります」

ローレンスの手が胸元のボタンに引っかかったネックレスに伸びる。慎重に触れる手つきを眺めていると不思議な心地になってくる。この人はやはり優しいのだと思うのだ。

ところが、また馬車が揺れた。あっと思ったが今回は壁に手をついてなんとかローレンスに倒れかかるのは耐えた。ホッとした表情でローレンスを見上げると、またおかしな顔をしていた。何かを耐えるような、悔しがるような真っ赤な顔に潤んだ目。

「あら、どこかぶつかってしまいました?痛かったですか?」

「む、胸が……」

「へ?あらぁ」

ネックレスを触っていたローレンスの手に、馬車の揺れで倒れかかってきたセルヴィアの胸元が当たりそのまま挟み込まれたようだ。小柄なのに胸元は豊かなうえに、ドレスの胸元が開いたデザインだったのが災いしたようだ。

「えへへ」

笑ってごまかしてみれば、更に真っ赤な顔でローレンスは叫んだ。

「いいから、胸を退けてください!!」



ラッキースケベに悩まされるローレンス!

読んで頂きありがとうございましたm(*_ _)m

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