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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

先輩とわたし

 高校は女子が多い学校だった。

 男子生徒が少ないためか、変に言い寄られることも多かった。

 部活と勉強に集中したかったわたしは、クラスメイトを仮の彼女にして、

 めんどうなイベントを避けていた。



 映画のような恋愛にまったく共感ができず

 彼女にキスをしようとすら思えなかった。



 高校を卒業し、大学へ進学すると、わたしのほうから別れを告げた。

 彼女は泣いていたが、わたしは何も感情が動かなかった。




 大学は理系だったためか男の人が多く、彼らの熱気とその匂いにわたしは肩をすくませて小さくなっていた。

 キョロキョロしているわたしに

 上級生の先輩が話しかけてくれた。


 少し日に焼けてて、筋肉質、低めで落ち着いた声が素敵な人だった。

 彼が近くによるとレモンのいい香りがして、わたしの緊張は自然と無くなっていた。



 先輩はわたしのことを初めてみたときに

「うさぎみたいで可愛い」と思ったらしい。

 ここでは彼のことをうさぎ先輩と呼ぶことにする。


 うさぎ先輩とはすぐに親密になった。




 はじめて会ったのに、わたしたちはお互いを確かめるように何度も何度もキスをした。

 そして、気がつくと先輩のにんじんを求めていた。

 今まで恋愛というものがわからなかったが、これはすばらしいものだと、心の底から思った。


 それからのわたしは変わった。

 今まで料理に興味がなかったのに自分で作るようになった。先輩が食べたときに見せる笑顔が好きだった。

 ハンバーグが好きなところも子供っぽくて可愛かった。


 オシャレにも気を使うようになった。

 学校では少し浮いてたけどかわいい服を着て、メイクもバレないようにしていった。先輩と同じ香水も買った。


 あと、ネイルも簡単にだけど塗った。わたしは白が好きで、先輩も好きだって言ってくれた。少しの符合がほんとうにうれしかった。


 それから、髪も伸ばした。毎朝ていねいにアイロンがけをして整えた。同じ学部の男の子に言い寄られたけど、わたしは先輩以外目に入らなかった。



 わたしたちは小さな幸せを積み重ねた。

 うさぎ先輩は年上だけど、その差など関係なく対等に接してくれた。それがすごく心地よくて、わたしたちずっと幸せに暮らせるんだろうなって思っていた。






 4月になり、わたしが2回生になったころ、

 先輩から別れてほしいと告げられた。

 他に好きなひとができたらしい。



 わたしは頭に血がのぼり、「ソイツをつれて来い」と命令した。

 先輩はおどろいていたが、意外にもすなおに従った。


 それは新入生で、うさぎのように怯えていた。

 黒い服に、ショートカット。かわいくない。

 わたしとは正反対のタイプに見えた。


 新入生を睨みつけると、足を震わせ今にも逃げ出しそうだった。わたしはどんなに怖い顔をしていたんだろう…。見かねた先輩は彼の肩をやさしく抱いた。


 その光景を見て直感した。もう二人は「肌を重ねたんだろうな」と。

 わたしはとにかく悲しかった。先輩を寝取られたことじゃない。先輩のこころが既にこちらを向いてないとわかったから。



 わたしはその場から逃げるように立ち去った。



 当時、一橋大学でショッキングな事件があったことも重なり、




 潤っていた

 わたしの

 アイデンティティは

 あっけなく

 瓦解した。






 泣きながら家に帰ると、

 わたしは目についたものを手当たりしだいに捨てた。



 携帯傘、テレビのリモコン、ペンケース、

 包丁、化粧水、あの香水。



 涙も枯れ果てた。



 わたしは、はじめて自分で髪を切った。

 この一年で手先が器用になっていたから、特に違和感なくきれた。美容院代が浮いた。



 服もお金をかけなくていいと気づいた。

 ユニクロでそれなりに見えればいい。綺麗な店員にいらだちを隠せなかったので、以降はネットを利用することにした。


 ネイルは黒にした。見ていると落ち着くから。



 今だから言えるけど、わたしは酒やタバコに溺れる人をバカにしていた。

 ドラッグと変わらないそれらに手を出す理由がわからなかった。

 でも、そのときにやっと気づいた。バカだから吸うんじゃない。バカになりたいから始めて、そしてそのまま依存することを。







 わたしはタバコに手を出した。

 味なんて覚えていない。


 スマホを取りボイスメモを起動した。






「こんな汚い人参をしゃぶるくらいなら、

 一人で強く生きていく」





 俺は誓った。

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