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5F:僕の神様

音の暴力というものは、こういうのを指すんじゃないだろうか。そんな風に、僕は思う。


同時に腹を一発、ぶん殴られた気がした。


従姉を無理に誘ってやって来たライブハウスは轟音だらけだ。マイクの意味がないほどの大音声、シールドとアンプを通して意図的に歪んだ快音。何の捻りもないドラムが、電子装飾を嘲笑うようにスティックで曲の号音を鳴らす。


不規則に動くライトは彼等の全身を真っ赤に染め、湧き出す汗の軌道を追う。機材に包まれながら一段高いだけのステージで、武器を手にして笑うその姿はまるで神様だ。


ステージ上でボーカルの女が笑う。彼女がマイクで下手を煽れば、そこにいたベースが一気に音の熱量を上げソロ演奏。長身の体をこれでもかというほど使って演奏する姿は、嫌が応にも場慣れを感じざるを得ない。


それに負けじと音を降らすのは上手にいた小柄な女性と真っ赤なストラトキャスターだ。長身の彼を必要以上に煽るように正確なピッキングで高音域を掻き鳴らす。正確なタッチはリズムも音程も狂いがなく、音の粒さえ恐ろしいほど整っている。


鮮やかな煽りを呆然と見守るしかない最中、件のストラトキャスターと目が合った。顔を上げれば、その先の武神とも目が合うのは必然だ。


武神はライトにもギターにも負けない、真っ赤な髪が乱れるのも構わず演奏を続けていた。口元に毛束が張り付いた時、人工的な赤が差した真っ黒な瞳が僕と合った気がした。


彼女は髪を気に止めず、流れ落ちる汗すら好きなようにさせ、身も心も演奏に委ねた様で不敵に笑む。


それは、荒々しくも堂々とした神の振る舞い。


先より強い力でもう一発、と腹が物理的に殴られたように痛み始める。不規則な力強さと心音に負けない激しいリズム。


腹を押さえていれば隣の従姉が心配そうな声をあげる。大丈夫かと聞かれた気がしたが、そんなの答える余裕がない。聞き返す気持ちも、勿論ない。


五感が全部神に盗まれる。思考さえもっていかれる前、もはや本能に近い言葉で絞り出したのは


「……孕みそう」


「えっ、おめでとう?」

僕の神様は、この人だ。

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