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ちゃんと言って

 なぁ、神様。

 俺の日頃の行いって、そんなに悪かったのか!?



 ここは駅前の喫茶店。

 何故か待ち合わせの時間通りに来たはずの俺は、加奈子に手を掴まれてここへ引きずり込まれた。

 ただ今の状況。

 よくわからないけど、何だか怒っているらしい加奈子の目の前に俺。

 俯きながら上目遣いで様子を伺う以外に何が出来るっていうんだろう。


「あ、あのさ…」

「なに?」


 声はいつもと変わらない。

 だけどなんていうのか、纏っている空気がいつもと違う。

 アイスミルクティーを啜っている彼女。

 俺の目の前にあるコーラは氷が溶けて、グラスの上に層が出来ている。


「あ、あの、俺、何かした…っけ?」

「した記憶がないならしてないんじゃない?」


 あぁ、これは絶対なんかしたんだ!!

 な、何したんだ!? いったい何やらかしたんだ、俺ッ!?


「ねぇ、一樹。今日、何の日か知ってる?」

「へ!?」


 何の日?

 今日って何かあったっけ?

 頭を捻るけど、そんなに記憶力がいい方じゃない俺の頭は答えを導き出してくれない。


「まぁ、いいや。じゃあさ」

「お、おう」

「餃子、好き?」


「……は?」


 身構えるような気持ちで待ち受けていた言葉は、とても前置きなしで来るとは思わなかったもの。


「だから、餃子は好きかって聞いてるんだけど」

「あ、うん、好き…だけど」

「じゃあ、ピザは好き?」

「す、好きだけど…?」

「好きか嫌いかって聞いてるんだから、疑問系で答えないでよね」

「お、おう…」


 なんだ!? なんなんだ!? 最初の質問といったい何の脈略があるんだ、この質問は!?

 それでも答えないと加奈子の機嫌は直りそうにないから、とにかく答えることにする。

 この際、視線が泳いでいるのはスルーしてくれ、と願いながら。


「ラーメンは?」

「す、好きだけど」


「お寿司は?」

「好き、だな」


「一樹のお兄さんが作ってくれた料理は?」

「美味いから好き」


「焼き魚」

「好きだけど」


「焼肉」

「もちろん好きに決まってる」


「じゃあ、私は?」

「そりゃ好……ッ!?」


 驚いて目の前の加奈子へと視線を戻すと、少しだけニヤリと笑っている彼女と目が合った。


「私、は?」

「そ…んなこと、こんな人前でなんか言えるわけねぇじゃん!」


 自分の頬が熱くなってきていることは無視だ、無視!!

 つか、なんでこんなトコで、こんな人が見てる前でそんなこと言わそうとすんだよ!!

 そういうの、俺が苦手だって知ってるはずだろ!?


「言えないんだ? その程度なんだ?」


 俺から視線を外して加奈子が小さく溜息を吐く。


「そ、そんなこと…ねぇ、けど…」


 なんだか加奈子がちょっと悲しそうな表情になった気がして、思わずどもりながらそう応えてしまった。


「じゃあ言って。私のことは? 好き? 嫌い?」

「そのっ…、す、…き、に決まってんじゃん…」


 段々声が小さくなる。

 もう勘弁してくれ! なんでこんなことになってんだよ!!


「ちゃんと言って」


 少し拗ねたように加奈子がさらに問い詰めてくる。

 くそっ、もうやけだ! こうなったら、さっさと言って終わらしてやるからな!!


「好きだ! 好きに決まってんだろ!!」


 必要以上に大きくなってしまった声に自分でビックリして、言い終わったあと恥ずかしくて思わず俯いた。


「合格。私の誕生日忘れてた罰はこれで許してあげる」


 クスクス笑いながら返ってきた言葉にバッと顔を上げると、笑顔で俺を見ている加奈子と目が合った。



 ああ、神様。

 やっぱ俺って日頃の行いどころか、そうとう頭がバカらしい。

 大好きな彼女の誕生日を忘れてたなんて。


 でもこんな風にしてそれを思い出させてくれた加奈子を、今日これから喜ばせてやりたいから、だから天気だけは晴れのままにしておいて下さい。

 えーと、何度目になるかわかんねーけど、一生のお願い!!

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