迷わないで ~2
「誠吾?」
「なぁ、もし今の質問と同じ状況になったら、清乃チャンならどうする?」
「そんなの、ある訳ないじゃない」
「もしも、の話だとしてさ」
どうしたんだろう? なんだか誠吾がいつもと違う。
いつもだったらこんな話、笑って済ませてしまうのに。直ぐに流してしまうのに。
今日に限ってどうしたというんだろう?
「どうしたの、誠吾? なんか変じゃない?」
「いいから、もし、んなことがあったらどうする?」
あまりにそれにこだわるから首を傾げながら誠吾を見ると、彼の瞳が妙に真剣味を帯びていた。
いったいこの質問に何を感じてしまったというんだろう。
でもそんな真摯な色を漂わせた瞳で見られてしまっては、誤魔化したり冗談で流してしまうと可哀想な気がして、頭の中で絶対にありえないであろう状況を思い浮かべる。
うーん、うーん、イケメン10人…、イケメン10人……。
あ、いけない。全員が誠吾になっちゃった。これじゃ意味がないから…。
そう思った瞬間、ふと気付く。
その次の瞬間、誠吾が先に口を開いた。
「迷わず俺を選ぶよな?」
その言葉に、誠吾が何を思っていたのかを知る。
ああ、そういうことだったの。
きっともしもそんな状況が起こったとして、もしかしたらさっきのタレントのように、私が彼以外をも選んでしまうんじゃないかと、自分が大勢の中の一人に埋もれてしまうんじゃないかと、そんな不安が浮かんでしまったのだろう。
ホント、ありえない。
イケメン10人を全部誠吾に変換してしまった私なのに。
そんなことで心配してしまう誠吾がいるだなんて。
きっと迷うことなく誠吾を選ぶだろう私に自分が気付いた瞬間、それを確認する彼。
なんておかしな、そしてステキな組み合わせなんだろう、私達。
そう思ってくすくす笑い出した私に、誠吾は少しムッとしたように近付いてきた。
「なんで笑ってんだよ」
「だって、やっぱりありえないよ」
「例えばの話だろ?」
「そうなんだけどね。私の頭の中、誠吾だらけだったから」
「は?」
「イケメン10人全員が誠吾だったの。だから誠吾以外選べない状況なのに、誠吾が自分を迷わず選ぶよなって言うから」
「んだよ、そういうことは早く言えっつの」
「それにね」
「あ?」
「よく考えたら、イケメン10人の中に当たり前のように自分がいる、って誠吾は思ってるんだと思ったらおかしくて」
「んなの、当たり前っしょ? この誠吾さんがイケメンの中に入ってない訳ないっつーの!」
ニヤリと誠吾が笑う。同時に私もまた笑い出す。
だって、自分がイケメンに入っているのが当たり前だと思っている彼氏に、イケメンの中に彼氏が当たり前のように入っていると思っている彼女だなんて。
なんてバカップルなんだろう。恥ずかしいにも程がある。
少しして、くすくす笑いが止まらなくなっている私の手が、ふと温かい温もりに包まれた。
ビックリして視線を隣へ向けると、
「たまにはイイっしょ? こうやって俺らの関係アピールすんのも」
そう照れたように笑う誠吾がいた。
「うん、そだね」
どうせバカップルなんだもん、たまにはそんなのもいいかもね。
もしかすると誠吾が私の苦手な人達に私を遭遇させたのは、こうして私との関係を見せびらかしたかったのかもしれない。
そんなことをふと今 思った。
たわいない会話とたわいないはずの手の温もり。
こうして隣にいるのが当たり前で、その当たり前に幸せを感じられているのは、きっと相手が誠吾だからだ。
私達はバカップルだから、たぶんそんな想いを伝えたら「当たり前っしょ?」って言われるんだろうけど。
でもだからこそ、誠吾には伝えようと思う。
「ね、誠吾がさっきの質問の状況になったら、私を選んでくれる?」
「んなの、当たり前っしょ? 清乃チャン以外選ぶ気もねぇな」
「ふふ、幸せだね、私達」
「そりゃ当然だな。清乃チャンの隣には俺がいて、俺の隣には清乃チャンがいるんだから」
やっぱり私達、バカップルだよ。
だけど、こんな幸せなら、それもまたいっか。