恋をしようよ、Yeah!Yeah!
突然という言葉は。
きっとたぶん、今この瞬間の為にあると思う。
「キス、しようっ!!」
それはこの数週間考え続けて行き着いた結論で、そして最大限の勇気を持って発した言葉だった。
そしてその言葉に直撃された当の本人である各務は、しばし無言で呆然とした後、
「………はい?」
と小首を傾げて返事を返してくれた。
「いや、だからキス…」
「ええ、それは聞きました」
「だったら…!」
「明里、いきなりどうしたんですか? 何か悪いものでも食べました?」
「なんでよ!」
「明里がいきなりそんなことを言うからですよ」
「私は…っ!!」
「明里がそんなことを言い出すなんて、朝比奈にでも何か吹き込まれたんですか?」
挙句の果てには溜息混じりにここにいない悪友の名前まで出してそんなことを言い出す始末だ。
「なによ、もー!」
あまりのことに大声でそう叫ぶと、その場にへたりと座り込む。
「せっかくの勇気しょぼしょぼなんすけどー…」
「あ、すいません。でもそう言われても納得出来ないまま、はい、そうですか、という訳にはいかないでしょう? ことがことなんですし。明里、ちゃんと説明してくれませんか?」
各務がやんわりと注意をしながらそう私に促す。
けど、でも、そんなの説明できる訳がない。
だって、各務にどうやったら印象深い告白が出来るかというのを考えに考えて、そして行き着いた答えがこれだったなんて、そんなこと。
改めて聞かれて答えるなんて、恥ずかしいにも程がある。
っていうか、そんなこと死んでも出来ない。恥ずかしすぎる!
「…言えません」
視線をつーっと逸らしてそう呟いたら、各務が苦笑しながら促すように私の名前を呼んだ。
「明里」
「言えるわけないじゃん、各務に振り向いて欲しくて、どうやったら印象深い告白が出来るか悩んだ挙句がこれだったなんて、そんな恥ずかしいこと言えませんーっ!!」
「…そうでしたか。それは、すみませんでした」
各務に謝られてハッと気付く。
うあっ、何喋ってんの、私ーーーーッッ!!!
「そんな風に考えてくれて、その答えがあれだったんですね」
「…うっ、…あ、……いや、その……っ!」
「ええ、とても印象深い告白でした」
「や…、…えとっ…」
「かなりビックリはしましたけど、あれが嘘じゃないなら本当に嬉しいです」
「……っ!!」
にっこりと微笑まれて言葉を失う。
ウソ、今、嬉しいって言ったけど、それって、それって…!?
「だけど明里、告白としてなら、もう少しストレートな方が伝わりやすいですよ」
「……は?」
「例えば」
「…た、例えば…?」
にっこり笑顔のまま、更に瞳を細めて穏やかに笑った各務の右手が私の頭をするりと撫でる。
「そう、例えば、こんな風に」
そして私の頭を軽く固定するような位置で止められたその手とは反対側にある耳に、そっと顔を近づけた彼がゆっくりと囁く。
「僕も明里が好きですよ。…だから、キス、してもいいですよね?」
「……………ッッッ!!!」
あまりの声に、心臓を鷲掴みにされて呼吸が止まった気がした。
その次の瞬間。
「うあーーーっっっ!! ダメだー、耐えられなーーーいッッッ!!!」
バッと各務から逃げるように身体を離すと、自分でもわかるぐらい真っ赤になっているだろう顔を隠すようにしてその場から逃げ出した。
…つもりが、咄嗟に掴まれた右腕を勢いのまま引かれて、気が付けば各務の腕の中に逆戻り。
「逃げるなんて許しませんよ。あなたはもう、僕のものなんですから」
「……っ、ぎゃー、恥ずかしいこと言わないでーーーっっ!!!」
「あはは。明里が最初に言ってくれた言葉よりは普通ですよ」
「いーーやーーーっ!! それ、なかったことにしてーーー!!!」
「あはははは」
そして私は、あまりの恥ずかしさに彼と両想いになれたことに気付かないまま、各務の彼女になっていた。
そんな事実に気付くのは、それから半日経った午後のこと。
彼から本当にキスをもらった、午後のこと。
こんな感じの小話が更新されていきます。
よろしければお付き合いくださいませ。