初洞窟で初戦闘
俺は前を行くレベッカさんの服の端をつかんで洞窟の中を進んでいる。
洞窟の通路は広くて大きい、よくこんな大きさの穴になったと思う。
先頭を歩いているのがリーダーのヴエルナさん、一番後ろを歩いているのが俺で、その前がレベッカさんだ。
洞窟に入ってからどの位過ぎたのか分からないが、皆の話をまとめると、洞窟は広くて長い、分岐が多いだそうだ。
そして、自分たちが進んだ通路はたかが知れていて、分岐を間違えると行った先に何があるか分からない。
今回の依頼は討伐クエだが、他にも依頼を受けているのか、分岐を進んで最奥まで行かなければならないらしい。
分岐して行った先が行き止まりになっていればいいらしいが、今のところ行き止まりがないらしい。
洞窟の中を歩いていると、倒した魔物がそのままになっている。
魔物を初めてみたぞ、死んでいると強そうに見えないな。
これが街や村など人の住む所に近ければ魔物を燃やして処理しなければならないけど、洞窟の中なのでこのままにして、クエの報告の為に耳や牙等の特徴のある部位を持ち帰るようだ。
「あのさ~、服放してくれないかな歩きづらいのよ」
「そうだったんですか、ごめんなさい」
謝って素直に、掴んでいた洋服の端を離した。
俺の足取りは軽い、思っていたほど通路は歩きづらくない。テレビの探検ものだと歩きづらい所ばかりが映っていたようだ、縦穴とか、ボコボコと岩が落ちていない。
「怖いなら、手を繋ぐ?」
「いえ、怖くないけど初めてだから、怖い振りしないといけないと思って」
まだ生きている魔物を見ていないんだ、怖がり様がないよ。
「・・・・・」
レベッカさんは反応に困って無言になってしまった。
「行った事のない所まで、だいぶ掛かるんですか?」
「そうね、半分ぐらい来たかしら」
もう半分か、戦闘しながらだとあまり進めないんだな。
松明を持って歩いているのは、ヴエルナさんと俺だ。
最後尾で分岐点の度に行かない方の通路を見ているが、今のところ行かない通路の方に魔物を見つける事は出来てない。安全のための確認と、早く魔物が見たいのもある。
洞窟の奥に進むにつれて倒された魔物の数が多くなってきている。
レベッカさんに魔物同士で戦わないのか聞いたら。
「基本戦わない。戦ってくれてればこの世界の魔物も減るのに」
そうだよな、洞窟の魔物が増えるけど減らないのは魔物同士で戦わないからだよな。
もしかして、何回か分岐した先の行き止まりに行く着くのは、とてつもなく大変なんじゃないのかな。
この洞窟の中を全部知ってる人がいるのかな、知ってる人が何日で行けると分かっていても、魔物が多くて予定通りの日数で行けるとは限らないよな。もしかして、皆の受けて来た別のクエは洞窟の中を調べる為かな。
このままだと、持って来た水に食料が足りるかも分からないな。
最悪を考えた行動と慎重さが必要なクエだなこれは。
「ここで休憩する」
「「「「「はい」」」」」
「どうだユーリ、初めての洞窟は?」
「はい、今の所は歩きやすいので疲れないけど、魔物の数が多いと先に進むのが大変だなあと、最奥というか行き止まりがどの位先なのかが不安ですね」
「そうなんだよ、何処まで行けばその行き止まりになるのか、選ばなかった方に行ったら行き着けたのかとか考えちゃうんだよな」
「そうですよね」
「そうそう、リーダーのヴエルナの運が試されている」
マシュさんがうんうん頷いている。
「そして、今のところハズレの予感」
メグさんがズバリこの先の展開を予想する、ヴエルナさんは運が悪いのかな。
「このクエは恐ろしすぎるな」
マシュさんが俺と同じ事を感じた様だ。
ここで質問したいが止めておこう。何個の分岐点を通過して来たのかを聞くのは。
でも、内部で繋がっていれば、何処を通っても最奥に繋がってるとかだと楽なんだけどな。
「ユーリは度胸があるのかあまり変わらないな」
「そんな事ないですよ、用心してます」
「ほら、そんなところがさ~」
「そうなのよ、私の服を掴んでいたから怖いのかと思っていたら『怖い振りをしなければいけないと思って』ですって、もう驚いたわよ」
「すげえ、俺が八歳の時なんて確か近所のガキと遊んでいたな」
「私は家の手伝いをしていたわよ」
「俺も遊んでいたな」
「だいたい3歳から体力作りしてたユーリは変だよ」
「「「「そうだな」」」」
皆さん声が重なり、うんうん頷いている。
仕方ないのだ、若くして、知識があるんだから、俺には赤ちゃんだった時の苦しみが皆よりもあるんだ。
「いいじゃないですか、そのお陰でこうして皆さんと来れたんだから」
俺はこの日をどんなに待っていたか、生まれた日から8年長かった。日本の8歳の子供なら小学生だな、丁度、勉強に慣れて基本を学んでいる歳だ。
「まあ、そうだな」
「まだ、先は長い、そろそろ行くか」
「了解」
短い雑談の休息を終え先に進む、洞窟の中の探索は始まったばかりだ。
朝から歩き続けて、お昼を軽く済ませた。また歩き続けてやっとたどり着いた。しかし皆は良くここから拠点まで帰って来たな。
移動時間が多くてそれに戦闘があるから昨日はあまり進めてないんだな、だから洞窟の中から出ないで、この先は進もうと思ったんだな。
外が見えなくて、今何時頃か分からないけれど夕方近くになっているかも。
「俺は先を見てくる、皆はここで野営の準備してくれ」
ヴエルナさんがこの先の洞窟の内部を偵察しに行った。
ここは通路より広い楕円形の広場みたいになっている。中とか雑魚の小群がいそうな広さだ。
俺は持って来た木を2個の置ている石で挟んで立たせた、拠点の時の様に音の鳴る仕掛けを施す。これ名前あったよな、なんだっけ?
これで後ろから侵入して来たら音が鳴る。前方にも同じ様に仕掛ければ、少しは早く気が付けるよな。
「しかし、変な事知ってるよな」
俺の作業を見ていたカカルさんが感心している。
「そんな事ないですよ、物の組み合わせでなにか出来ないかと考えると、意外と変な事を思い付くし役に立ちます」
ヴエルナさんがコボルト2体を倒して帰って来た、その周りには他の魔物の気配はなかったそうだ。
「うわぁ~、気持ち悪いな」
グリュックの皆は前方で戦闘中。俺は後方の見張りと倒したコボルトの耳を切っている。ばっちい物を持つ時の様にして何とかナイフを動かす。
皆の基本戦闘方法は、剣士の二人が魔物の横か後方に移動して、前面に一人残り後衛職の二人は少し離れた所から攻撃をする。
チームワークが良いのかあまり時間を掛けずに倒す事が出来る。
戦闘が終わると俺が出番、部位を切り鞄に入れてると先に進む。
敵の数が多い時は前衛は敵の正面で戦い後衛が横に広がり攻撃する。
マシュさんの本気の戦闘は、流れる様に戦うタイプで手数が多い。
カカルさんは一撃一撃に渾身の力を乗せて戦うタイプだ。
ヴエルナさんはスピードタイプで敵の攻撃が届かない様にしている。
お昼を食べた後に、数回戦闘をして通路を進んでいると、前方にオーク4体が現れた。敵の後方に二人が回りこむ、前面はカカルさんで、少数の魔物の時の陣形だ。
「後ろにも魔物がいるぞ」
戦闘が始まった直後にヴエルナさんから報告が、洞窟の奥からこちらに魔物が来るのか、どうなんだ。
「こっちは任せろ」
最初に遭遇した魔物の前面にいるカカルさんが、ヴエルナさん達の後ろから来た魔物に専念しろと言った。
「ファイヤー」
レベッカさんの魔法攻撃だ、火の魔法がオークに当たった。
「シュパーン、シュパーン」
メグさんも横に広がって弓で攻撃だ、矢は吸い込まれる様にオークに命中した。
後衛の二人も今までと違い戦闘に集中してる。表情に余裕がない。ヴエルナさんとマシュさんが挟まれる形で更に来た魔物と対峙しているからだ。
挟まれたヴエルナさんとカカルさんは後ろが気になるのか、戦い辛そうだ。
先に現れた魔物が後ろから二人を襲う、このままだと挟まれた二人が危ない。
「こっちは何とかするから後ろに回り込め」
2人が挟まれて、危ない事に気が付いたカカルさんは、既に戻って来る事が出来ない二人に更に後ろに回って全ての魔物を挟み込んだ陣形にしろとカカルさんが指示を出した。
通路がオーク三体が通れる位の広さなので、カカルさんが囲まれない様に戦っている。
恐らくヴエルナさん達も苦戦しているはずだ。
遭遇した魔物の数が多すぎたのだ。
俺は静かに事の成り行きを見ていたが、レベッカさんのリュックを置く。
背負っていたリュックも地面に置き腰の剣の柄を握る。
皆から離れていた俺は、後ろを見て敵が来てない事を確認すると走り出す。
レベッカさんを追い抜き、その少し前にいるメグさんも抜いてオークと闘っているカカルさんの方に向かう。
追い抜かれた二人が驚きの声を上げたが、俺は気にしない。
カカルさんと三体のオークが戦っていたが、一体のオークがカカルさんの所からこちらに向かって来そうな行動を起こした。
俺がその一体に攻撃を仕掛ける。
うまく当たったが、かすり傷にもなってない。オークの動きに変化はない。
それを目の端でとらえていたカカルさんが怒鳴る。
「戻れ、じゃまだ」
俺は対峙したオークに突きを入れて牽制し、剣でオークの攻撃を止めて、カカルさんに叫ぶ。
「俺は大丈夫です。この一体を牽制してる間に何とかして下さい」
「わかった、無茶をするなよ」
状況判断が早かった、カカルさんからすぐに許可が出た。
「レベッカさん、メグさん、カカルさんの方を先にお願いします、何とか時間を稼ぎます」
「「了解」」
カカルさん達に俺の考えが通じたみたいで、オーク二体を前面に戦うカカルさん、後方から二人が攻撃する陣形になった。
俺が一体を引き受けた事で、カカルさん達は何とか崩れないで戦い続ける。
俺の場所から更に前にいるヴエルナさん達は見えないが、戦闘の音が聞こえてくる、この先で戦闘しているのが分かる。
「グォ~」
オークの動きに慣れてきた俺は、そろそろ本気で戦う事にする。
今までは、牽制する事に集中していたが、体格差がある事で致命傷になる攻撃が出来ないのに気が付いた。
上への攻撃は横や下と比べて力が更にいるのだ、ならば今の俺の体格なら足に攻撃するのが一番攻撃力がのる筈だ。
それに体力作りと草を刈って練習した剣術?が一番慣れた動きが出来る。
俺は一歩下がって、オークの動きに手中する。こちらに向かって来た時に一番細い足首に思いっきり剣を叩きこむ。
叩き込んでぶつかった瞬間から引く動作に移る。この動作をしないと敵に攻撃をくらいそうだし、動作が止まると次の動きに入れない。
次の動作は必要なかった。足が切れて倒れたオークが暴れてる。
倒れたオークの背中に剣を突き立てる。
動きが止まったけどオークは死んでくれた?
動き出したら嫌だからもう一度剣を突き立てる。
「死んだのなら、返事をして下さい。グォ~」
こいつ死んだな。
剣を抜きカカルさん達の方を見ると、止めが刺せない状態でカカルさんが戦っていて、レベッカさん達が攻撃しやすい様に動いている。
それならと俺は、カカルさんが動きやすい様に一体に攻撃を仕掛ける。
「一体引き受けます、後ヨロです」
「「「え」」」
俺がオークを倒したのが見えてなかったのか三人が驚く。
「早く倒してくださいね、疲れました」
一体倒して疲れたをアピールする俺。
俺が一体を引き付けると、今まで止めを刺せなかったカカルさんが一体を倒す。
メグさん達も俺が気が付かなかった一体を倒した、俺の前にいるオークを横から現れたカカルさんの突きがオークの体に刺さる。引き抜いた勢いで飛び退いたカカルさん、俺もその動作を真似てオークから離れる、そこに矢と魔法が飛んで来てオークを仕留めた。
全て倒し終わったが、マシュさんとヴエルナさんが近くにいない、後方に移動した様で、俺達との距離がだいぶ離れていた。
「疲れただろ休んでいいぞ」
急いで二人の方に走り出したカカルさんに追い付いたら、休んでいいと言われた。
まだ前の状況が分かってないのに優しく気遣ってくれる。
「すいません、疲れたは冗談です、急ぎましょう」
俺は危ない時でも冗談は言うのだ。
「ほらほら、急いだ急いだ」
メグさんがカカルさんをせかした。
「了解」
了解と言ったカカルさんを先頭に奥に向かった。
マシュさん達は敵の数が多いので、自分たちに引き付ける為に更に後ろに下がりながら戦ってくれたんだな。
俺は全力で走る。カカルさん達と差が開いても最後尾の敵にこちらに気付かせるためだ。
近づいて来た最後尾、こちらに気が付いてる魔物はいない。
俺は走って来た速度のままジャンプして蹴りを入れる。
俺の蹴りで数体の魔物がこちらに気が付くが、俺は蹴りの反動を利用して距離をとった後、カカルさん達の方に戻る。
俺の動きが見えていたのか、カカルさんは直ぐに魔物の攻撃に備えてその場で敵を待ってくれていた。
カカルさんの後方ではレベッカさんが走りながら魔法を飛ばしてる。
「ファイアー、ファイアー」
飛んでいくファイアーは呼び名は同じでも、飛んでいく魔法の見た目が違う、小さいから牽制様かな。
レベッカさんの横ではメグさんが足を止め弓を構えている。
俺に付いて来たのは三体で、既に一体をカカルさんが仕留めた。
オークの攻撃が俺を捉える瞬間には、手首を捻り体に剣の刃が無い面を添える様にして攻撃を受ける。剣の盾だ。
俺は飛ばされたが、触れている剣が攻撃を和らげてくれた。
俺とオークの間にカカルさんが入り攻撃を仕掛ける。
俺は立ち上がり「ちょい痛かったぞ」と言いながらカカルさんの横に並んだ。
「おい、大丈夫か?」
「痛かったけど、怪我はしてないです」
「行って下さい、ここはレベッカさん達に任せて」
俺が一体を牽制して二人が攻撃しやすい様にするのを見たカカルさんは笑顔だ。
「分かった、無茶はするなよ」
「了解です」
カカルさんは走って更に奥に向かった。奥には何体の魔物がいるのかな。
三人でオークに止めを刺して前方に向かう。
二人は息が上がっているが俺の後に続いて来る。さすがプロだ、歩いている時とは違う。
前方にカカルさんが見えてきた、距離が近くなって来た時にマシュさん達も見えた。
三人で5体のオークを挟んで戦っている。
俺も一体を引いて来てレベッカさん達に攻撃してもらう。
こちらの一体が倒し終わる前には四体のオークは倒されていた。
「終わった」
「ありがとな」
俺が安堵のため息を吐くと頭の上をポンポンいてカカルさんがお礼をいった。
ヴエルナさん達がこちらに来た。
「ええ~、どうしてユーリが剣を持っているんだ」
俺のの事を見たマッシュさんが驚いた声をあげた。
「どういうことだカカル」
問い詰める様にヴエルナさんがカカルさんに詰め寄った。
「オーク五体に苦戦していたら、ユーリが牽制し攻撃に参加してくれたんだ。そのお陰で早く駆け付ける事が出来た」
カカルさんは困った顔をして、最初に遭遇した時からの事をいなかった二人に説明した。
「凄かったんだから」
「そうそう、戦いやすい様に牽制してくれて大助かりだったよ」
「それでも子供が戦闘に参加するなんて危険じゃないか」
リーダーのヴエルナさんは俺が危険にさらされるのが心配なんだろ。
「すいません、勝手な判断で戦闘に参加して、でも、あのままだったら僕は死んでました」
俺は今回の戦闘について、思った事を言おう。
「皆が苦戦していて、あのまま死んだら嫌だし、皆がやられれば僕もここから帰れません。だから戦闘に参加しない選択がありませんでした。あのまま皆だけで戦っても勝てたのかもしれませんが、僕が参加する事で勝てる確率が上がるなら僕は怪我をしても参加します」
カカルさんがヴエルナさんの肩を叩いて。
「それにしても、凄い活躍だったんだぞ、それに最初に仕留めたの多分ユーリだぞ」
「なんだそれ、俺達は苦戦していたから、だいぶ後の方だぞ」
マシュさんが俺達と離れた後の事を報告してくれた。
「ヴエルナ、俺達はまず言わなければならない事があるよな」
カカルさんの言葉に皆が頷く。
「ありがとう、ユーリ」
お礼を言われるとは思っていなかった。
「こちらこそ、ありがとう」
ヴエルナさんは周りを見渡している、視線の先には倒したオーク。
「解体しないとな」
「必要な部位は体の中にあるの?」
「アハハ、食べる為に解体するんだよ」
笑って、オークを食べる言っているマシュさん、冗談?。
「このオーク食べれるの?」
「オークは食べれるし、美味しいんだよ」
俺は今まで戦っていたオークを見て魔物って食材として見ているのかと聞きたくなった。
「置いて来た荷物を取って来ます」
「まだ魔物がいるかもしれないから、俺も付いて行こう」
マシュさんと荷物を取りに戻る、初めての戦闘が終わった。