支払いは後払い
いつもの様に工房を探して生産依頼をしようとキョロキョロしていると、武器屋を発見してしまった。
「おやじ、名刀はあるか?」
「なに~、お前は誰だよ」
凄く怖い人だと認定、ヤクザ映画の怖い親分の様な形相だ。
「ここに名刀があるかな~、ないかな~。あ、お金ないんだまた来ます」
「お金持って来い」
あれで売れるのか、怖かった。2度と行かない鍛冶屋に確定しました。
看板発見。
後払いで頼んだら断られた。見た目子供だから余計に心配になるよな。
また断られた、このままではまずいな。
「後15日待つからそれまで全額用意しとけよ。借金は必ず返せ」
「それまでに必ず用意します。ありがとう」
ここから見える所でおじさんと若い男性が話しているのが聞こえた。
借金か大変だよね、借りたけど返せなくなる事をよく聞くな。
ヤクザより良さそうだな、あの借金取り。
探さないと木工工房はここ。看板を見上げて「あのおじさんのお店だ」
ドアを開け中を覗き見る。若い衆と親方、それに奥さんに子供。そんな感じに見える。
僕が覗き込んでると、男の子と目が合う。5歳ぐらいかな、あれぐらい年までなら可愛い。
6歳ぐらいからは冗談のパンチが痛い、子供は手加減をしてくれない。
近づいて来たので話しかけようとするがパンチがもろに入った。
油断していた、歳は関係ない。
「大丈夫ですか、ごめんなさい。まだ小さくて手加減を知らないのよ」
すいません、手加減は関係ないと思うのは僕だけですか。
「ほら謝って、ライト」
面白い名前だライト、明るい。明るい子に育って。いい名前だ。
「ごめん」
「まあいいです、責任は親が取るべきです」
「え、謝ったんですから許してください」
「謝ってすめば警察はいりません」
ふぅ、決まった。
「はぁ」
見かねた、さっきのおじさんが来た。
「謝ってるんだから許してくれ、出来る事ならするから」
「ペンと紙、取ってください」
聞こえてたのか、若者が持って来て僕に渡してくれた。
「ペンと紙、取ってください」
もう一度取りに行く若者。
渡されたペンと紙をおじさんに渡して「そこに知り合いの小物が作れる鍛冶屋さんと、知り合いのロールの売ってるお店を書いて下さい」
「どうして?」
「あとで教えます、僕も書かないといけないのでどちらが早いか競争です。では書いて下さい」
僕は急いだ、この説明書きは3回目だが書く事が多い。
「書きました」
「僕はまだです、後5分ほど掛かります。もう1枚紙を下さい」
一生懸命に書いていると紙が差し出され、受け取る。
「ありがとう」
図面も書く事にした。見本を作って見せるが、図面があれば確認する事も出来る。
「ふぅ~、書けた。僕の勝ちですね」
「はぁ~」
文字の数が多いんだから僕の勝ちだ。
「ところで親方又はここのお店のご主人はどなたですか?」
「私です」
僕の前にいる人、おじさんがやはり親方様だった。
「お願いがあります、この図面と説明書を読んで下さい」
事の成り行きを見守る皆、僕と親方を抜いて6人。
説明を読む親方様。お願いをするのだから様付きだ。
「これは何ですか、この図面の物を作るんですか?」
「出来ればこちらにお願いしたいのですが、お金が無いので後払いになります」
おじさんはもう一度図面を見て「いいですよ、このぐらいなら簡単です」
そう簡単なのだ1セットなら。
「えっと~、ちなみに~、一日頑張って何個出来そうですか?」
「え、一日中、作り続けるんですか?」
「はい、どの位生産出来るか確認したいんです」
おじさんは考えて「50セット位は出来ると思います」
「小さい方は数えなくていいです。材料に見える方だけで一日何セットできますか?」
「それなら150個ぐらいは出来ますよ手間が少ないですし」
なるほど、余裕を見て100個位かな。
「それでお願いなんですけど、1100セット作ってください。それも後払いで」
「1100セットで後払い。無理です、お金がありません」
「そうですよね、なかなか引き受けて貰えないんですよね」
そうだよな、いつもは先払いしてるからな。
今まで会話聞いていた男の子のお母さんが聞いてくる。
「その~、1セットで幾ら位、払って貰えるんですか?」
「ああ、そうですよね、大銅貨1枚・・・・」考え中
「そんなに貰えるんですか、あなた」
「そんなはずはない、銅貨5枚になれば良いほうだ」
人が考えてるのに。
「まあ、大銅貨1枚と銅貨5枚かな、自分で作ればタダだしな。でも面倒だしな」
「あの、銅貨5枚でいいです。いいでしょ、あなた」
「ああ、それでいい」
僕は考える。効率を良くしたい、自分無しで。
「もう一つお願いがあるんですけど、これの方が面倒かな」
「何ですか?」
「街の外の農家に全部納めて欲しいんですよ。その時に農家の人に置かせて貰えないか確認して、置かせて貰って下さい」
「そんな、1軒1軒なんて無理です」
「違いますよ、何個単位でもいいので、まとめて置いて貰いたいだけです。10軒の人がいいと言ってくれれば110セットづつになるし、全部置かせてもらえれば1軒ですみます」
「そうですか、沢山置かせて貰える場所を探せばいいんですね」
「そうです、東西南北全てで使うので、北250西250南250東250以上をどこかの農家にお願いして下さい。討伐依頼の道具ですと言えば大丈夫だと思います」
「分かりました、頑張って1100セット作ります」
「お願いします。お知り合い方も無茶を聞いてくれると思いますか?」
「私から頼みますよ、こんな大口なら喜びます。今から行くなら案内します」
「お願いします」
知り合いの小物屋さんと材料屋さんにお願いして貰った。
材料の準備は終わってので工房でお茶をご馳走して貰う。
「助かります、その借金があって。作った物の支払いをして貰えなかったんですよ」
「そんな事あるんですか?」
「あるんですけど、いつもは少額なんですよ。でも今回は材料費がとても掛かっていたので、払って貰えなくて材料屋に払えなかったんです」
そうなんだ、僕が払えなかったらまずいな、何か他に作戦はないのか。僕が迷惑を掛ける訳もいかない。
「小物の方の製作と明細書お願いします」
「あの小さい製作物ですね、特許用ですか?」
「そうです、出来たら登録したいと思っているので」
「君は、小さい子供なのにしっかりしているね」
子供に見えてあたり前だ。
「冒険者を目指しているので少しだけ悪知恵が働くんです」
「悪知恵か、子供らしいな」
新しい作戦を考えにギルドに行くか、メシルさんもいる。
「準備は10日ほど考えているので、それまでに頑張って作って下さい」
「頑張るさ、銅貨5枚だからな」
「ああ報酬ですか。銅貨15枚、びた1銅もまけませんから、では行きます」
「おい、使い方間違ってるぞ、そんなにいいのか」
答えませんよ、急いでるので。
掲示板前、手には小銅貨3枚。干し肉が約2日分は買えるかな。
オーク肉か、隠されたオーク肉の依頼、誰も受けてくれないの何十枚も用意してある。
最初は受けて貰えると思い何十枚。今ではただ毎年の恒例になった何十枚。同じ何十枚でも後の方は虚しいな。
「あらユーリ、どうしたの諦めてしまったの?」
「このオーク肉の依頼は、何体分でもいいんですか?」
「何体分でもいいけどいないのよね。この辺に」
「ところで、依頼書は何枚位あるんですか?」
メシルさんは見に行ってくれた。
「ユーリ、40枚ほどあったわよ」
「それ全部受けます」
「え、この辺にいないわよ」
「居る場所に遠出して来ます、シシルとルチルに何か伝えますか?」
「それでは、元気にしている、元気で過ごしてとお伝え下さい」
「分かりました、伝えます。ネズミ討伐ク依頼は遂行中で今は準備段階です。行ってきます」
「いいよ、うちの倉庫空いてるから、材料出来たら持って来なよ」
僕はお辞儀してお礼を言う。
「ありがとうございます、助かります」
「いいさ、少しでもネズミが減るんなら協力しないと依頼を出したのは俺なんだから」
「効果は凄くあります、それで隊長お願いがあります」
おじさんは僕を見て「隊長?」
「そうです、今から隊長です。そこで隊長にお願いがあります」
おじさんは「おらに」と呟いたので。
大きく頷いて「各農家に大樽を4個用意してほしいんです。今までの経験で皆さんがお持ちだと思います。それを自分の畑の四隅に置いて下さい。隊長は4個の大樽の準備と設置のお手伝を若い人に頼んで下さい。大事なのは、四隅に大樽を置く事を農家の皆さん全員が知る事です。方法は任せます。お礼を用意しますので頑張って下さい」
「分かった、四隅に大樽を置く事を広める。そして手伝いが必要な者には近所の者が手伝う様に広める。これでいいんだな」
「そうです、それで皆の畑の作物が守られます」
握手して作戦をお願いする。
同じ事の根回しをしてメルーンの親方に在庫を置いて貰える所は確保したので工房で邪魔になったら倉庫に置きに行って下さいとお願いした。おじさんは自分でしなくてすんだと喜んでだ。
根回しはおじさんにして貰う予定だったが、カルテドに向かうと夜になって入れないので、時間の余った僕がしたのだ。




