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ネズミからは逃げられない

カルテドの東の街道を爆走中だ。


旅の準備が出来ていた、僕は学園から帰ると「旅に出ます、探さないで下さい」とルチルに言ったら。


「忙しいので早く行って下さい」と言われる。夕方は忙しい宿の受付。


ギルドで急ぎのクエ、メルーンまで手紙を届ける仕事を受けた。


メルーンの手前にある村は通り過ぎた、夜なので入れないし先を急いでいる。


見えてきた、まだだいぶあるけど大きな街らしい。


ボラジュの街より広い街、そこに冒険が待っている。


朝にもなってない時間なので歩く事にした。


街から離れているのにもう農家がある、街まで農家が続いていればローランドよりも農地が多い。


街の西側に農地が少ないのかもしれないから比較できないけど、今のところ凄い広い範囲の農地に見える。


ジェシーはどうしてるかな?元気かな、今回の旅に一緒にこれなかったのは、移動が山脈地帯で徒歩じゃないと無理そう、最大の問題がお金だ。母さんに借りたラム酒の代金はオークの討伐クエとオーク肉で何とかなった。出世払いなので余分に払ったのはあたり前だ。


旅に出る時に可哀そうだと言って貰ったのが小銅貨5枚、干し肉が1.2日分買える。


感激して干し肉を買いに行くと、おまけして貰い3日分になった。


メルーンまで僕の足で半日、荷馬車だと6日ぐらい掛かるそうだ。


足を鍛えておいて良かった。ジェシーがいない今、自分の足が移動を短縮する手段だ。


荷馬車の荷物が重い時は、歩く速度より少し早いだけだ。時は金なり、時は冒険。


いい言葉だ、時があればお金が稼げる、時が無ければ冒険出来ない。僕に合ってる言葉だ。貧乏暇なしもいいな。


しかし、こんなに何を育てているんだ。都民は畑でどの様に育っているか知らないのだ。


だから僕も何にも知らない。トウモロコシにトマトぐらいしか見た事がない。


あのネズミ討伐で見た畑もよく分からなかった。


「トウモロコシとトマトのはずがない、寒さに弱いはずだ」


「あれ、その常識はこの世界でも通用するのか、寒い方が育つトマトもあるのか」


日が射してきた。やはり巨大な城壁。


今は戦争が無いけど昔はあったんだよな、城壁を魔物用に建てるはずがない。


一番怖いのは人間だからな。


「もう並んでいる、僕が着いた頃には空いているといいな」





少し時間が掛ったが問題なくメルーンに入れた。


門番の人に指でどの方角にギルドがあるか教えて貰った。


街の中の建物とかはどこも変わらないな、知っていて親近感があるか、知らないので違う雰囲気に感じられるだけなの違いしかない。


大きい街はどこも同じだ、このギルドの中は同じデザインなのでここだけを見れば何処に居るか分からない。


「すいません、急ぎの手紙を持って来ました」


「あら、すいませんね。この手紙急いでませんよ、ギルドの提示報告ですね。珍しいわね、冒険者に頼むなんて」


僕がお金が無いと言ったので、まあ冒険者に頼んであげるか・・・・だったんだな。


ギルドカードを渡して報酬を貰う。小銅貨3枚・・・いつでもいいので寄合馬車がこの位で運んでいるんだろうな。


「ありがとうございます」


お礼を言って掲示板前に立つ。


オークのクエでオーク肉も持って来る。


このオーク肉のクエ、沢山張られている。


僕はギルド職員のお姉さんに質問しに向かう。


「職員のお姉さん、質問があります」


作業の手を止めてこちら来てくれた。


「始めまして、メルーンの冒険ギルド受付担当のメシルです。どんな事をお聞きしたいのですか?」


やけに丁寧だなこのお姉さん、メシル・・・似た様な名前を知っているなシシル。


探りを入れてみるか。


「シシル、シシル、シシルチョコレート」


「私の妹です、知っているんですか?」


嬉しそうなメシルさん。


「いえ、今のはシシルチョコレートの歌です」


「そうですか」


「さあこの石、ルチル、ルチルクォーツに手をかざして占ってみましょう」


「ルチルも妹です」


この瞬間、2人の姉を発見しました。


「今占っていますので、見えます、2人はカルテドの宿屋兼酒場で働いてます」


お姉さんの顔を見て「あなたに似ている、2人は楽しそうに美味しい食べ物を食べてます。朝からハンバーグを食べてます。贅沢だ」


「そうです、カルテドの宿屋に姉妹が働いてます。凄い石ですね、私には見えないけど」


真面目なところがシシルだ。


「そんな凄い力を持っていませんが、質問があります。掲示板にオーク肉のクエが多いのは何故ですか?」


「依頼が多いからです」


真面目だ。シシルより面倒だ。


「その依頼は同じ人からの依頼ですか?」


「お教え出来ません、守秘義務がありますから」


ほら、シシルより真面目で面倒だ。


「もし家族に聞かれたらどうしますか、少しは教えてくれますか?」


「まあ当たり障りのない事なら」


少し困ってきたメシルさん。


僕はメシルさんに顔を近づけて、手招きする。


メシルさんの顔が近づいたので小声で「シシルとルチルは僕の家で働いてます、ここに来る前に2人にベットを作ってあげました。何故か材料は僕持ちでした」


メシルさんも小声で「まあ、あなたの家なの。妹達がお世話になっています。元気ですか?」


「元気です、今は酒場のボスと宿屋のボスになっています」


「そうですか、良かった」


「そこで質問です。あのクエですが、何であんなに有るんですか?」


「もう秘密ですよ、ここの領主様からの依頼なんです、毎年この時期に依頼されるんですけど、この辺にオークの生息地域が無いので、遂行される事はあまりありませんし、受けてくれる冒険者も今はいません」


なるほど、オーク肉がこの時期に必要だが近くオークはいない。ダメもとで毎年クエの依頼を出しているんだな。


「あの、領主様のお名前は?」


僕は学習している、領主様の名前ぐらい憶えないといけない。カルテドとローランドしか知らないけど。


「ブラウニング伯爵様です」


まずい、でも確認しないといけないよな。ほら、佐藤、鈴木、高橋よくいるよな、ブラウニングも多いかも知れない。


「ブラウニング伯爵様には、その~お嬢様でエミリーという名の子供がいませんか?」


「います、確かカルテドの学園に通ってるはずです」


聞かない方がよかったのだろうか、これは難しい。


オーク肉は手に入らない可能性があるから受けても意味がない。


この街で悪い事はしないようにしよう。迷惑になる。


「掲示板にオーク以外のクエが無いんですけど、どうしてですか?」


「この街の騎士団が街の近隣の安全の為に日々見回りをしているのです。街の周辺に魔物が少ないので討伐クエも少ないです。ここから遠い所のクエならあるんですけど、遠くなので受けてくれる者がいないので貼ってないんです」


そうか、遠いのか。それだと目的の場所に向かいづらくなるな。


僕はお金が稼げないよ、クエが無い所があるなんて想像もしていなかった。


この時間に冒険者がいないのはそのせいなんだな。


受付の横にある紙の束、あれ全部が遠くのクエなのかな。


「そこの紙の束は、遠くの討伐クエなんですか?」


メシルさんは1枚取って紙を見ながら「このクエも討伐クエなんですけど、やり手がいません。それに冒険者もあまりいない街なので、おそらく遂行される事はないと思われます」


渡された1枚の依頼書を見る。


「仲達様が策はなしと言われたクエがここにそれも無数にある。伯爵様ここで逃げたら学園に行けませんよね。受けるしか、受けるしかない」


「君大丈夫、何言ってるのか分からないんだけど」


「それでネズミ討伐クエの依頼はどの位あるんですか?」


メシルさんは振り返って、先ほど作業していた机を見る。


机の上には紙の束の山が2つある。


「1000枚ぐらいはあるかも知れません、数えていませんが・・・」


数えないよな1枚も遂行されると思ってないんだから、恐るべき数の依頼だ。


「メシルさん、農家からの依頼でネズミの討伐クエを出していない農家はありますか?」


メシルさんは振り返って「ほぼ依頼されてると思います。農民の間でローランドの農家でネズミが出なくなって、作物の被害が改善されたと噂になりまして、ここ数年ネズミの被害が凄いらしいので農家は依頼を申し込んだ。それでほぼ全ての農家が依頼した。依頼されてない農家もあるかも知れませんけど、被害を考えると依頼した方が得策だと思います。遂行されれば」


噂か、誰だよローランドでそんなことしたのは、一遍だなこれは。


「受けましょう、ネズミ討伐クエを全て完了します、シシルと僕の為に」


「え、シシルと?」


「はい、僕とシシルが結婚すればあなたは僕のお義姉さん。ここでメシルさんに恩を売っとくのは得策です。束を数えますので出して下さい」


一遍かいい響きだ。


メシルさんが僕をジーと見ながら束を渡してくれた。


「テーブルで数えます」


テーブルで数えていると、メシルさんが向かいに座る。


「シシルとはいつ結婚するの?」


まずい、真面目な人に冗談は通じない。


「すいません、僕はユーリと言います。結婚の話はなかった事にして下さい」


メシルさんが何か考えてる。


「ルチルと結婚したいの?」


どうしてそうなるんだ。


「シシルとルチルは友達の様な家族の様な関係です。結婚は考えてません。メシルさんが2人の姉なので冗談を言ってみただけなんです」


「まあ、そうなんですか。良かった」


あれ、笑顔で良かったと言われると僕は傷つきますよ。


「では、数えるの手伝って下さい」


「はい、いいわよ」


雰囲気が変わったけどどうして。


「僕の方には、612枚ありました」


「私の方には、432枚あったわ」


「合わせると1044か、とほほ・・・なるほど」素晴らしいダジャレだ。


一遍と素晴らしいダジャレか、僕以外に受けてはいけないクエだな。


旅立つか。


依頼の説明を見る。いつもどおりの何匹倒してもいいクエか、報酬は1匹小銅貨3枚・・・・ローランドと同じなのか、それとも間違い。


「あの報酬の1匹小銅貨3枚は間違いありませんか?」


「大丈夫ですよ。最初は小銅貨5枚だったんですけど、ギルマスが討伐後に金額が多くなりすぎて払えない、払い渋る人がいたら困ると小銅貨3枚にしたんです。農家の皆さんは知らないと思いますけど、ギルマスの独断です」


「偉いギルマスです。いい人だな。お礼を言っといて下さい。僕行きます、準備があるので」


「ちょっと、えっと。ユーリそんなに受けて大丈夫なの?」


「完璧に出来るか分かりませんが、頑張ります。少し時間が掛るかも知れませんけどメシルさんの為に頑張りますよ」


「私の為に?」


「そうです、この束が無くなれば気分スッキリですよ」


「そうね、毎日減らない紙の束が無くなればスッキリするわね」


「それじゃね~、また来ます」




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