3年生の合宿
今クラスは自習中で僕はいつもの様に窓を開け魔法の練習中だ。
「ふう~」深呼吸して無詠唱で練習。
雪が降らない。この世界に雪はあるのだろうか、生まれたから12年と半年生きてきたが雪を見た事が無い。周りの人に雪の事を聞いたが分かる人がいない、言葉を間違えているのか雪を知らない地域なのかどちらかだろう。
呼ばれれば南門に集合して大森林に行く。最近ではゴブリン、コボルト、オークは数が多い時以外倒さない様にしている。全ての魔物を討伐しているわけではなく2年生と1年生が合宿出来やすい状態にしている。ただオーク見つけると諦めない者たちが30名ほどいる。その30名は僕が作ったオーク肉の料理を食べた事がある生徒だ。
合宿までにオークが絶滅してしまう可能性がある。
このクラスになってから授業がないのでクラスメイトと話す機会はほぼない。
僕があまりにも情報に通じてないのを見かねた男子学生が説明に来た時に話すぐらいだ、クラスの生徒1名の名前も知らない。雑談には加われないが元々共通の話題が無い。
1人で魔法の練習をしている方が楽だ。
この頃は誰も使えない魔法が使えるはずだと決めつけ見た事のないイメージを考えてる。
今は竜巻の様な水柱が校庭で暴れまわっているイメージをしている。
「ユーリ君、今年の合宿は食べ物の持ち込みを必ずしないといけない、今までの逆だ。現地での調達はしてはいけないそうだ。魔物も危険だと感じた時以外攻撃してはいけないそうだ」
「ありがとう、いつも助かっています」
「僕達は貴族の子供は情報通でないといけないからそれなりに努力してるんだ。その情報を上手く使うのも僕達がこの学園で学ぶ事なんだ。それじゃあ」
僕はお辞儀して、先生の採用条件は説明が短いで決定だと思う。
自習の期間が終わった。戦闘で疲れた者がいるかもしれないと1日休みで、その次の日が合宿だ。
休みを利用して市場に干し肉を買いに行く10日分だ。
「おばちゃん、干し肉10日分ください」
「干し肉以外も食べなよ、子供はバランスよく食べないと大きくならないよ」
「まあ、そうなんだろうけど、冒険には干し肉だよ」
「まあいいさ、ほらおまけしといたよ」
「ありがとう、また来るね」
おばさんにお礼を言ってお菓子のお店に向かう。
「久しぶり、元気にしてた」
「ユーリ、忙しすぎて大変なの」
「良かったね、沢山売れてるの?」
「違うのよ、本当に忙しすぎて手が足りないのよ」
あれ、2人は疲れている。
「何か手伝う?」
2人は同時に「役所に行って来て」
役所にまだ何か手続きがあるのかな。
渡された籠の中にパリパリが沢山入っている。
「これはパリパリだよね、これをどうするの?」
「役所の女の人でヤーシャさんて人に大量注文されたの、私が行くて言ったんだけど売り子の私がいないとダメだから代わりに行って来て」
「お願いね、ユーリ手が足りないの」
「分かりました、行ってきます」
ヤーシャさんに届けてお店に戻り、もうすぐ旅に出ると伝えて家に帰った。
明日は合宿だ。
合宿初日の大森林、3年生は先生の説明を聞く。
「自由行動」
約束の短い説明。事前に教えて貰っているので、これからどうするか考える。
自分の荷物を持って歩き出す、結構広い川の河原で周りを見る。
岩場の大きい岩に座って干し肉をかじる。
河原の付近には結構な数の生徒がいる。ここを今夜の野営に選んだのか、お昼を食べるに河原に来ているのかだろう。
最大のピンチだ。何をしたらいいのか分からない。
自由だが7日間も何をしたらいいのか思いつかない。
僕は荷物を置いて走り出す、やる事を決めた。
走り出したが、周りを見れば蔓は沢山ある。
「凄いぞ、普段は森で魔物と戦う事だけしか考えてなかったけど、色々できそうだ」
蔓をどんどん拾い、荷物の置いてある岩場の大岩に置く。
まだまだ、蔓を拾ってこようと思い、リュックの中の小さい鞄を出してその場に置く。
リュックを持って良さそうな蔓を詰めていく。
一杯になったので戻る。
蔓の外の皮を名刀ナイフで剥いでいく。
おじいさん、昔教えて貰った事が役にたっています。
どんどん皮をはぎ中の繊維を出していく。
「おい俺にもやらせろ、平民」
いきなり声をかけられビックリしたが、懐かしい僕を呼ぶ声に笑いがこぼれそうだ。
「いいですけど、僕が何をしているか分かりますか?」
スコット子息は考えたが分からないので「教えろ、平民」
「僕はロープを作ろうと蔓の中の繊維を出してるんです、繊維を水につけて柔らかくして編んで出来たのがロープです。沢山作りたいので手伝ってもらえますか?」
「暇だから、この合宿は恐ろしい。何もない所で7日間もどう過ごせばいいというのだ。強い魔物と戦えと言われた方が楽だ」
僕も頷く「そうなんです、暇が苦手な僕達に最大の試練として7日間を、何もないここで何かしろなんて。それで子供なら一度は憧れる秘密基地を作ろうかと、7日間もあるので」
「秘密基地か、なかなかいい響きだな。よし最後まで手伝おう、その基地づくりに」
珍しい組み合わせで作業をしているとポール子息とカタル子息が来て「僕達も入れて下さい」と申し出てきた。2人は声をかけてきた時には元気がなかったがやる事が出来て今は蔓の皮を一生懸命に剥いでいる。
「ユーリ君、私も仲間に入れて下さい」
見た事はあるが誰だか分からなかったが、ポール子息がすぐに「では、この繊維を水につける作業をお願いします。リリー様」
リリー令嬢、リリー嬢、呼んだ事ないな。
「ロールケーキ美味しかったです」
思い出した、フレディ子息の婚約者のリリー嬢だ。
「お口に合って良かったです、フレディ子息が2個下さいと赤面した顔で言ったのでビックリしたんです」
「まあ、私も見たかったです」
「僕の事を何か話してないだろうな、ユーリ」
現れました、フレディ子息。少し横向きなのはリリー様の方を見づらいからなのか。
それなら恋愛の神と言われた事のある僕が手助けをしよう。
「フレディ子息、出来ましたら、リリー嬢に頼んだ事をお手伝いをしてほしいのです。この繊維は意外と重いのでお願いできますか?」
「仕方ない、君がそこまで言うのなら手伝おう」
2人は川に繊維を柔らかくしに行った。
恋愛の神の勝利の瞬間だった。
それからも手伝いたいと申し出てきたみなさんには蔓を拾う、皮を剥ぐ、繊維を柔らかくする作業をお願いした。
周りを見渡すと全クラスの生徒がロープ作りをしている様に見える。
彼らはいい職人になるだろう、7日間もあれば・・・・。
出来たロープで例のあれを設置した。
僕の提案にフレディ子息が安全は大事だと設置責任者として周りに仕掛けて音がなるか確認した。
みんなが寝静まった夜、全力で大洞窟を目指す。
カルテドの南の大森林、カルテドの西の街道を少し行った所にある脇道は南方向にある大洞窟に続いている。大森林を西に進めば大洞窟につく。途中にラトシス村がある、あの後生息地が発見されて魔物が討伐されたので今は危険が無いはずだ。
村から離れた所を走る、見張りの人に迷惑をかけるわけにはいかない。
大洞窟に着いた。今回は予定外なのオークを倒してすぐに大森林に帰る。
広い大洞窟、あまり時間を掛けたくないので今まで行った事のない通路に向かう。
「名刀お姉さんの出番だ、だいぶ慣れたな。今の僕ならもしかして両手に名刀お姉さんが出来るかもしれない」
油断大敵、行きなれてない通路をのんびりと歩く。呼吸を整え準備運動に名刀お姉さんで数回素振り。
僕の準備が終わるのを待ってくれたいたのか、魔物が数体現れた。ワイルドベア4体だ。
のんびり歩きながら近づく、ワイルドベアはこちらに向かってくる。
剣の届く位置に来たので攻撃、一太刀でベアを倒した。軽くステップして体勢を整えて次々と倒していく。
上達していた、ステップで態勢を整えるのが上手くなっている。相手の動きをよく見てスプリットステップこれだ。
その上の片し足のステップも出来るが魔物相手に練習はよくない。急がば回れだ。
しかしこの後とんでもない事に気が付く。
「この道ベアしか出ません、今回はお肉。オーク肉が目的だ~」
叫んでも来てくれないので入口に戻り、シュラさんに続く通路でオークを倒す事にした。
オークに遭遇、「なんで、場所によって魔物が違うんだ。同じ洞窟の中なのに」
僕はグリュックのみんなに言いたい、この大洞窟の地図を作りなさいと、しかし彼らは最初に来たとき以外に大洞窟の内部の解明のクエを受けなくなった。
いい事を思いついたがやめておこう。3年生の合宿を大洞窟にすればいいと考えたが、僕が何回死ねば責任を取れるか分からない。あの恐ろしい魔法軍団がそんなに存在するはずがない。
馬鹿なことは考えないで帰ろう、もうリュックは一杯だ。
噛みごたえのある干し肉を食べていると、やけにみんな元気なのが見てとれる。
やることが出来てよく働く学生達。近くにいた先生たちがいない、奴らめ街に帰ったのか。
生徒情報だと大森林のどこかにいるらしいが、朝だけ現れるとかありそうだ。
ここから見える所にいる生徒はみんな温まるんですで食事をしている。
何個売れたんだろう、ローランドでも売り切れていたみたいなので凄い数になるはずだ。
家がお金持ちになったと聞いた事が無いし、お金は何に使っているんだろう。
僕のお金は貴族のお昼とお店でほぼなくなった。材料を買い占めしたのにも使ったがそれは2人の為になるし無駄ではない。
お昼を食べ終わった者からロープ作りを始める。
僕はみんなに任せて朝に借りて来た斧で木を切り倒す。
細い木を次々に切り倒す、枝を切り細い丸太の出来上がりだ。
日ごろ鍛えたこの体、スキル木こりを使い結構な本数を短時間で切る事が出来た。
秘密基地には何千本と使うはずだ、ロープもみんなの協力で沢山出来ている。
今も蔓を拾い歩いている男子生徒が何人も僕の近くを通って行った。
「や~、とう。や~、とう」
僕は声を出して頑張ってるのをアピールする。
「とりゃ~、どっこいしょ」
「おれ~、ぐき~」
かけ声が変になって来たのでやめる。
後ろを見た、僕は細い木を切り倒すと前の木を切り倒しに前進していたので後ろを振り返るのは切り始めてから初めて後ろを見た。大森林の面影誰かの手によって変わっていた。
みんなにお願いして河原近くに運んでもらった。乾燥した木を探し河原に持って行く。
僕はカタル子息を責任者に任命して木を組んで貰う事にした。
僕は乾燥した木を河原に、カタル子息は他の男子生徒とその木を組んでいく。
準備が整ったのが夕方前、まだ日が落ちてない時間。僕は即席のまな板にオーク肉を載せてひき肉を作る。
大洞窟から取ったきたオーク肉、全部を名刀ナイフでひき肉にするのに時間がかかりもうすぐ日が沈む。
「コネコネコネコネコネコネ」
「その擬音は声に出さないといけないのか平民」
「気分が乗らないんですよ、時間もないし」
「それは何をしているのだ、見るからに汚いぞ」
それがどれだけ美味しくなるか分かってないな。
「そうなんですよ、この汚く見えるのを食べるのが好きなのが平民なんです」
少し考えて「俺は頼まれても食わないぞ、絶対に」
「僕は頼みませんよ、食べたい人に食べて貰います」
下準備の出来たオーク肉を小さいボールにする。
30個ぐらい出来たので。
「みなさん、お疲れ様です。オーク肉を使った料理をお配りします。食べたい人は温まるんですを持って来てください。令嬢のみなさんはその辺にいる元気のある子息に温まるんですを渡して取って来る様に言って下さい。子息は温まるんですの電源を入れて並んでください。つまみは真ん中でお願いします」
僕の説明でオーク肉の料理が食べれると子息に渡す令嬢達。来た人から2個づつ載せていく。
また丸くして同じ事を繰り返す。全員にいきわたった様だ。
「最初の人達はフォークで裏返して焼いて下さい」
ハンバーグを載せる時に一番に来たのはエミリー嬢だ、次も予想通りでアンバー嬢、スカーレット嬢、ポール子息は令嬢に譲ったのだろう。
取りに来てないのが、スコット子息で僕はお皿に載せて「焼いて頂けますか、僕は温まるんですを持って来てないので」とお願いした。
エミリー嬢のハンバーグが焼けるのに少し時間が掛るとみて、キャンプファイヤーに手加減して火を付けて貰う。
少し寒い大森林に温かそうに燃えるキャンプファイヤー。
焼けてる人から食べて貰うのだが、みなさんが自分で分かるはずも無いので僕が見て回った。
最後のスコット子息の前に来て「お疲れ様でした、騙されたと思って食べて下さい」
お辞儀して大岩の上に戻る、美味しい干し肉だ。いつかオーク肉で作ってみよう。
ここから見えないが、令嬢達が何か歌ってる様だ。
この世界に生まれてから初めての歌だった。
思い出してしまった。父親のお母さん、僕のおばあちゃんは旅行が好きで何度も僕とおばあちゃんで旅行に行ったらしい町内会のバス旅行、貸し切りだ。定番のカラオケ、僕は音痴だが歌うのが好きだったらしい、マイクを放さない子供が歌うアニメソング。最初は可愛いと言われていたらしいが、帰りはマイクを玩具に変えられたがそのまま熱唱したらしい。
素晴らしい大人たちだったんだろう、行きと帰りで8時間も僕の歌を聞いてくれたんだから。
しかしこの世界に歌があり、歌えるぐらい広まっているんだな。
コンサートホールとかあるのかな。
平民の間にも歌はあるのだろうか。でも僕は歌わない、恐らく音痴のままだ。
キャンプファイヤーが消えてみんなは疲れたのか寝息が聞こえてくる。
僕も疲れた・・・・明日も頑張ろう。




