受けます、わたし
3年生になる前の休みを利用して遠出をしている僕達。
前回の休みはシュラさんに会いたいと言い出したエミリー嬢の意見に「私も行きたいです」と令嬢2人にポール子息の「僕も行きたい」で、5人で大洞窟に行った。
今回はエミリー嬢が「私、冒険の依頼を受けた事がございません、一度経験してみたいです」と言い出した。まあいつものパターンで、「私もご一緒します」「私もその冒険の依頼ですか、受けてみたいです」「ユーリ、旅は面白いと聞いたけど」
ポール子息の話を聞いたエミリー嬢が、それならと。
「まあ旅をして何処かの街で冒険の依頼を受けるのが楽しみです」とおっしゃった。
ここで決定した、何処かに行き依頼を受ける事が。
カルテドでも受けたのに、ポール子息の発言で旅の予定が入ってしまって、今は馬車で移動中。
エミリー嬢のお父さんのブラウニング伯爵がそれならと、移動に時間をかけない様にする為に、速い馬と馬車を用意してくれた。
南から街に入り大きな屋敷の前で馬車は止まった。
門が開いて馬車が玄関前のスロープを上がって大きな扉の前で止まる。
「みなさん着きました、どうぞ降りてください」
最後に僕が降りて自分の荷物を持つ。
「では、僕は宿に行きますので、明日の朝にギルド前に集合でいいですか?」
「はい、予定通りギルド前に集合しましょう」
僕は歩き出す、ここから離れたいから、貴族の屋敷は落ちつかない。
後ろから足音が聞こえてくる。ポール子息だ。
ポール子息も男性なので令嬢の屋敷にお世話になる訳にはいかない。
アンバー嬢は是非とも泊って下さいと言ってくれたが、子供だけのお泊りはよくない。
変な噂がアンバー嬢や他の令嬢にもつかないとは言えない。それに落ち着かない。
「ポール子息、本当に僕と同じ宿でいいんですか?」
「僕も初めての旅だし、友達のいる宿の方が安心できる」
僕とポール子息はアンバー嬢の屋敷から猫の宿に向かう。
途中でスライサーの事が気になったので、工房に寄ってみたら沢山売れていてどんどん作っているからと言われ安心した。
鍛冶屋にも寄って、頼んでいた物がどうなったか聞いてみたら既に配達した後だった。
寄り道をしたがポール子息は文句を言わず付いて来てくれた。
「ここが僕の親戚の家で宿屋の猫の宿です」
「面白い名前を付けてるんだね」
中に入ると知らない女の人が受付にいる。あれソラちゃんは首か~。
僕は笑顔で「一番いい部屋を無料でお願いします」と言った。
女の人は僕の言った事が不思議なのか止まってしまった。
「空いてますか?」
「空いてはいますけど、え、と」
「その子、私の甥だから気にしないで、ノエル」
女の人はノエルさんか。
「テレサさん、遊びに来ました。友達のポール子息です」
「どうも、ユーリの友達のポールです。よろしくお願いします」
「テレサです、部屋は空いていますので、ご案内します」
「自分達で行けるからいいです。ポール子息、行きましょう」
「はい、失礼します」
部屋に入ると珍しいのかポール子息がキョロキョロして周りを見る。
「ユーリの家もここと変わらないのか?」
「そうです、部屋の大きさは泊る人数で変わるので、2人ならこの位の広さになります」
立つているポール子息を見て。
「座る時はベットの上になります」
僕を見てベットに座るポール子息がお腹を押さえたので。
「夕ご飯を食べに下に行きませんか?」
「そうか、そんな時間か」
「ユーリ、美味しかった。ユーリの家の者は作るのが上手いのだな」
「そうかもしれません、お店の売り上げにもつながりますし、美味しいと笑顔になれますから」
「僕が食べてる時も笑顔かな」
僕はポール子息を見て笑いながら。
「いつも笑顔ですよ」
食堂には今は2人だけだ。
「ポール子息は旅をしたことがあるんですか?」
「ないよ、うちは貴族でも領土のない男爵だからカルテドからあまり出ないんだ」
「貴族にも色々ありますね」
「そうかもしれないな、領土を治めるには大変なご苦労があると思う。この街だと毎年ワームが出て大変らしい、今年は凄い数のワームが出たと冬の社交界で話題になっていた。王都ローランドでは作物の不作と子供の誘拐事件。誘拐事件はほぼ解決したらしいが、各街の領主様は大変だとつくづく思うよ」
「そうですね」
今聞いた街以外の街や村にも何か問題があってそれを領主様が解決してるんだな。
「ユーリ、食べ終わったら片付けてね」
テレサさんが来て2人分の食器をお願いと言って食堂を後にした。
「ポール子息、僕は食器を片し叔父さんに話があるので、先に部屋に行っていて下さい」
「分かった、先に寝ていたら気にしないで寝てくれ」
「はい」
ポール子息は疲れているのかな。
厨房に食器を持つて行くと叔父さんは明日の朝の仕込みをしていた。
「ごちそうさまでした、ポール子息が美味しいと言ってました」
「そうか」
「叔父さんにレシピをお教えしようと思いましたが忙しそうですね」
僕の言葉にすぐに反応して目の前に立つ叔父さん。
このまま話していいんだよな。
「僕のお父さんも知っている料理でビーフシチューにしゃぶしゃぶ、後ハンバーグ・・・」
叔父さんが知らないだろう料理を話していく。叔父さんは真剣に聞いていて僕が話終わると包丁の柄の部分を僕に向けて頭を下げた。
この瞬間に僕の徹夜が決まった。
「ソラちゃんおはよう」
「ユーリ、おはよう」
昨日見かけなかったソラちゃんが食堂で朝食を食べてる。
「この人は、ポール子息。ポール君と読んであげてね」
ポール子息は、頭をポリポリかき「初めましてポールです。数日間こちらの猫の宿に泊まります」
「ポール君、おはよう」
「おはようございます。ソラちゃん」
ポール子息に席についてもらい、厨房に2人分の朝食を取りに行く。
「テレサさん、おはよう」
「おはよう」
手に2人分を持ち、厨房に叔父さんがいないので聞いてみる。
「叔父さんは、まだ起きてないの?」
「昼前に起こしてほしいと言っていたわ、今は寝てるわよ」
ずるいぞ、僕は1時間しか寝れなかったのに何時間寝るつもりだ。
テーブルに朝食を置き食べ始める。
「ソラちゃんは、昼間何してるの?」
「街の探検、昨日は市場に行ったの」
ソラちゃんに遊ぶ時間が出来たのか。それなら。
「ここに銅貨5枚があります、これで市場で買い物をしてきて下さい」
「何を買えばいいの?」
「ソラちゃんが買いたい物を買って下さい。銅貨5枚でちゃんとお買い物が出来たらまたお買い物を頼むので、頑張って下さい」
「は~い、頑張って買い物してくる」
「ねえ、買い物て何よ?」
テレサさんに少し会話が聞こえたみたいだ。
「ソラちゃんと僕の秘密」
「秘密なの」
後から食べ始めた僕とポール子息はソラちゃんよりも早く食べ終わって、ギルドに向かった。
ギルドの前に立派な馬車、令嬢のみなさんは先に着いてるみたいだ。
「だから早く行こうと言ってんだ」
ポール子息がギルドに早く行こうと言ったが、僕がまだ大丈夫ですよとのんびりしていた。
「みなさん、早く来たようですね」
ポール子息に注意されたが遅刻はしてないはず・・・
中に入ると軽装の3人の令嬢が受付にいた。
「「おはようございます」」僕の声と重なるポール子息の挨拶。
「まあ遅いですわよ、ユーリ」
遅かったのかな。
「ユーリ、ポール様、おはようございます」
エミリー嬢は少し怒り気味なのかな。
「私が依頼を確保しておきました」
なるほど、受けて早く行きたいと。
「エミリー嬢が確保してくれていたクエストを受けましょう、皆いいですか?」
「「「はい」」」
エミリー嬢以外の皆が返事をしたので、受ける事に決定。
「ではエミリー嬢、依頼書をそこの職員さんに渡して下さい」
「お願いします」
職員のおじさんが依頼書を受け取り。
「みなさん、ギルドカードを提出して下さい」
何故かいつもより丁寧な職員さん。
みんなはギルドカードを渡して処理をしてもらう。
「さあ、依頼を受けましたわ。目的地に行きましょう」
目的地それは崖の下のオークの生息地。
僕は全員のカードを受け取ると職員のおじさんが「くれぐれも怪我のない様に気をつけて下さい」と言われた。
「ありがとうございます」
お礼を言って外に。
みんなは馬車に乗っていて、「ユーリ、早く乗って下さい」とスカーレット嬢に言われる。
「あのみなさん、魔法の攻撃力が強すぎるので足とか首とかを狙ってもらえませんか、食べるお肉が減りますよ」
4人の魔法は、オークの殆どの場所を切り裂いたり、燃やしたり、凍らしたり、サンダーはどんな効果が肉に表れるのかな。
「まあ、それは困ります。オーク肉はとても美味しく美肌効果がありますから、みなさんユーリの意見に従いましょう」
「そうです美肌効果があるなら少し手加減をしますわ」
「食べる部分が凍るとどうなるのかしら」
「風魔法のアンバー嬢は足を狙って下さい。歩けなくなりますから。ポール子息の氷魔法は解体が出来なくなったり、解体するのに溶かすと肉の旨味がなくなりますから、やはり足か、首から上、耳は切るのでダメです、サンダーは分かりません。エミリー嬢はゴブリン、コボルトを全力で狙ってください」
「私にはオークを狙うなと言うのですか、ユーリ」
「エミリー嬢は、とても素晴らしい火魔法が使えますが、みんな燃えてしますので、討伐部位とお肉がなくなってしまっています」
「そうですか、残念ですわ。もう少し強いオークはいませんの?」
「どうでしょうか、いても同じ事になると思いますので、ここは我慢してゴブリンとか倒してみませんか」
「分かりました、みなさん後はお願いします」
「あのみなさん、詠唱はなくてもいいのですが、無言で戦うのはやめませんか?怖いです」
そうなのだ、歩く殺傷マシンのみんなは無言で見えた魔物をどんどん倒していく。
解体している時は近くにいて雑談をしているが、解体が終わると雑談をやめて歩く殺傷マシンに戻る。
「ユーリ、集中してないと危ないですよ」
「そうです、話しながら戦うとお肉の部分に当たってしまいます」
「ユーリ、お肉は美味しくなければいけません」
「僕は、ユーリが解体しやすい様に余分なところを凍らせるので、忙しいんだ」
みんなは、お肉の部分をより多くする為に集中するため、話している暇がないと言ってるんだな。
まあ、いいか。みんなの為にここに来ているのだから。
しかし、みんな強くなりすぎだよ。魔法軍の幹部の様な攻撃力だよ。
真面目に倒している姿は面白いけど。
今日は日帰りなので、荷物を持っているのは僕だけだ。
リュックに挟まれた僕を見て笑ってるみんな。
「リュックも一杯になりましたので、帰りましょう」
「分かりました、では皆さん帰りましょう」
「登るのが大変そうですね」
「下から見ると登れそうにありませんよね」
いつものパターンだなこれは。
「お嫌でなければおんぶして登りましょうか?」
「まあ、それはいい案ですわね。ユーリなら早く登ってくれるでしょう」
新たに決定。おんぶで早く登る。
僕は横にいる、ポール子息を見ると。
「僕には無理だよ、ユーリ」
そうだな、魔法男子のポール子息では、おんぶで登れない。




