美味しい食事
「そろそろ、行くぞ」
「はい、詰め終わりました」
野営明けの朝の食事が終わった。使って道具などを入れたリュックを背負う。これで出発する準備が整った。
「よく1人で見張りが出来たな、俺なら途中で寝ちゃうよ」
「暇でしたが色々考える事があって、何とかなりました」
そう、考え事をしていていたから起きていられたけど、暇で困った。
「そうか、助かったよ」
みんなの準備が出来たので、レベッカさんの荷物を手に持って歩き出す。
昨日と同じで俺は最後尾だ、その少し前に歩いているレベッカさんに追いついて横に並ぶ。
「ありがとう、今日もよろしく」
「荷物任されました」
今のところ魔物に遭遇していないので戦闘にはなっていない。この機会に、魔法使いのレベッカさんに魔法の事を聞いてみよう。
「魔法の事で聞きたい事があるんですけどいいですか?」
「うん、私で分かる事なら教えるよ」
「その魔法はどんな感じに発動してるんですか?」
「魔法の発動はイメージによるものなの。イメージが上手くいくと魔力が体内から放出されるのよ」
「詠唱は決まった文になってるんですか?」
「決まってないわね。分かりやすい様にファイヤーと唱えたり、頭の中でイメージする為に詠唱してコツをつかむの、詠唱しないと何をしているのか分からないから、告知してから魔法を撃つ人が多いのよ」
「魔法は誰でも使えるのですか?」
「誰でも使えると研究してる人は言ってるの、それは誰でも魔力があって、何かの属性を必ず1個は持ってる、だから、誰でも使えると言うのよね、でも。実際はそれほど使える人は多くないのよ」
魔法はイメージで発動できて、詠唱はコツをつかむのに唱えるけど無くてもいいのか、それで、誰でも使える可能性がある、なら、俺も魔法が使えるかもしれないのか、凄いな。
「ユーリは戦闘するならどの職がいいの?」
「剣士がいいですね。カッコいいし冒険者って感じで」
やはり剣士だろう、異世界だから魔法がいいような感じだけど、運動神経はいいし体力作りもしているから、いつか剣を買いたいな。
「男は剣士を選ぶのよね」
レベッカさんと話していたら、前方でその剣士達3人が大岩に座っていた、メグさんは大岩の横に立っていた。
「来たか、ここでお昼にするぞ」
リーダーのヴエルナさんが大岩から飛び降りた。
「良い感じのペースで来れたな」
カカルさんも大岩から飛び降りた。
そんなに時間が経ったのか、会話をしながらだど、時間の経過が分からないな。
お昼は簡単に干し肉とパンと水だ。夜の野営場所に早めに着ければのんびり出来るので、お昼はあまり時間を掛けないで出発する事になった。
「もう近いんですか?」
「もうすぐ見えてくるよ」
マッシュさんの指した方向に視線を向ける。あの辺の事かな、そうすると、だいぶ近くまで来る事が出来たんだな。
先頭のヴエルナさん達が洞窟に付いたようだ、最後尾で歩いている俺も5分もしないで付けるだろう。レベッカさんは昨日よりも今日は疲れていない様だ。
洞窟の横に拠点を張るようだ、。ギルドの依頼は洞窟の中の魔物を討伐するして、倒した魔物の部位をギルドに収めると依頼が完了するらしい。
拠点の場所に荷物を置いて、この辺の周りと洞窟の入り口付近の見回りに行くそうだ。
皆が見回りに行くと、拠点を中心にした円になる様にロープを張った。ロープには音の鳴る振り子の板を取り付けた、通りそうな場所のロープに赤い布を結んだ。これでロープが張られているのが分かるだろう。
「何かで見たのを真似たけど、これでいいんだよな」
拠点に戻ると、釜戸を作る事にした。何日もいる予定なので大きめの釜戸を作ろう。
近くに落ちている石を拾い集めて並べて行く、高さと大きさはこの位でいいな、鍋等が載るように平行にする事を忘れないで釜戸を作る事が出来た。斜めだと危ないし、沸騰すればお湯がこぼれる可能性がある。
拠点の準備が出来たので、近くにあると教えて貰った川に水を汲みに行こう。
革袋に水を汲みながら見た川は、流れは緩やかで水深は大人の腰のあたり位で深くはない。
水を汲み終わって、拠点に戻るとメグさんにレベッカさんがいた、釜戸の木に火を付けてもらう。
焚火に火が付くとお湯を沸かすのに鍋を載せる。
そろそろ食事の準備をするかな。
「ヴエルナさんの荷物から食材出します」
二人に声を掛けて、リュックの中からお肉の包みを出す。ナイフも有ったのでそれもお借りする。
返事が無いので、視線を向けると二人は敷物の上で寝ていた。
疲れているのだろう、音を立てない様に静かに準備しよう。
柔らかく煮込みたいので、下ごしらっをした肉を鍋に入れて低い温度でじっくりと煮込む。
1時間ぐらい煮込むと良い感じの柔らかさになったので、野菜も入れる。
味付けは少し薄味にしよう、塩とソースを少なめに入れて味が馴染むように鍋を回す。
「あまりかき回すと肉も野菜も崩れるからな気を付けよう」
野菜と肉に使ったナイフを水洗い、パンを薄切りにすれば料理は完成だ。
一回しか使っていない皮むき器を思い出す。この人数の料理では使わなくてもいいけど、食堂なら皮むき器が無いと大変だな。
三人が帰って来るまでにスープの汁が無くなると困るので、火を弱火にして釜戸用の薪を探しに行こう。
「大自然だな、これなら乾燥した焚火に適している枝が沢山有るな」
周りに落ちている乾燥した枝を両手が一杯になる量を探す、見つけた枝は一か所に山積みにしていく。
「これだけあれば、今日のところは大丈夫だよな」
山積みになった枝を両手が下になる様に持つ。拠点に向かっているとロープが見えた。
張ったロープをまたいで、拠点を見ると釜戸の火が見えた。人影が増えているので、3人とも戻って来てるのかも。
「お、戻って来た」
ヴエルナさんは手に持っていた剣を腰に戻すと釜戸の周りに敷いてある敷物の上に座った。
寝ていたレベッカさん達が起きている。
「いい匂いだな、ユーリが作ったんだってな」
マシュさんが鍋に顔を近付けると、料理の匂いを嗅いだ。良い匂いがしたのだろう、笑顔で俺に話し掛けて来た。
「はい、僕の仕事なので、食べますか?」
僕と俺の使い分けはいつまで続くんだ、いつか僕と言うのになれる日が来るのかな。
「腹が減った~」
カカルさんがお腹を押さえている、子供のような仕草だ。
「これだけいい匂いがすれば、食べたくなるよね」
メグさんが、皆のお皿を出してくれた。
俺の敷いた敷物が6枚、自分の荷物が有る所に座ってくれている。
皆は座ってるのでお皿に添えて配って回る。俺も自分のお皿を持って敷物に座るとそれぞれが食事の挨拶をして食べ始める。
「いただきます」
俺も皆に続いて食べ始める。
「「「「「美味しい」」」」」
俺以外の皆の食事の感想の声が揃った。
「こんなもんか」
俺は出来る限り美味しくなるようにしたが、もっと美味しくなっていると思っていた、やっぱり父さんはプロだな。同じ味を出す事は出来ないんだな。
「ええ~、美味しいじゃないか」
驚いた顔のカカルさんが俺に視線を向けた。
「もっと美味しく出来ていると思っていたんです」
「こんなに美味しいのに何言ってるんだ」
マッシュさんがシチューを美味しそうに食べながら料理を褒めてくれる。
「凄く美味しいのにまだ美味しくなるのか~、食ってみてえな」
もっと美味しい物が食べたいとヴエルナさんも言っているが、調味料が足りない。プロの腕にも足していない。
「ユーリは料理が出来るの?」
メグさんは食べる手を止めて俺に聞いてきた。
「僕の家は、冒険宿兼酒場なんです。だから、料理の下ごしらえの手伝いをしていたんです」
「だからなのね、なんか食事の準備の手際がいいのわ」
レベッカさんは何回も頷いて感心しているようだ。
「パンも丁度いい厚さに切れてるよな」
パンの厚さ・・・・・・それは、好みだよね、料理の腕に関係ないよ。
喜んで貰えた食事が終わると、各自が見回って来た洞窟の様子を報告する事になった。
「俺が見てまわった西の方には魔物が生息しているが、気配は近くにはなかった」
なるほど、気配が分かるのが冒険者か。
「東も南も魔物が生息してそうな所はなかったわ」
メグさんとレベッカさんは一緒に見てまわったのか。
「マシュと入口付近と少し中に入ってみたが魔物はいなかったな」
カカルさんも魔物と遭遇しなかった様だ。
洞窟の近くの外には魔物の生息地がない様で、西の方向の魔物に注意していれば大丈夫なようだ。
今日の見張りは男性の三人がしてくれるようだ、女性の二人は疲れているだろうから、疲れが取れた後日にする事になった。
ヴエルナさんは初日の見張りをしなかったから、あまり疲れてないと言っていた。
「ユーリ、もう、寝ていいぞ」
三人で交代して見張りをするから、する事が終わっているのなら、もう寝ていいそうだ。
流石に歩き旅で徹夜すれば疲れる。片付けを手早く済ませて寝よう。
初めてのクエで徹夜した冒険者はいるのかな~。考えてるうちに俺は眠りについた。
皆が起きると、昨日の残りのシチューを温めて朝食に。
「いただきます」
疲れもとれてスッキリ快適だ。
「「美味しい」」
ついつい感想がもれるらしい。
食事が終わって後片付けをしていると、俺の荷物のリュック・・・中から荷物を出すと手に持ちヴエルナさん達は洞窟に向かって行った。
俺は拠点で留守番だ、魔物に注意しろと予備の剣を貸してくれた。
さて、仕事をしよう。食事を食べれば洗い物だ、きれいに食べ尽くされた鍋に使ったお皿をいれる。昨日確認した川に鍋を持って洗いに行こう。
「しかし、こんなに楽な仕事でいいのかな」
お皿の入ったお鍋は軽し、料理をしているだけ・・・クエのお供で来たはずなのに、拠点でお留守番だ。
川に着くと周りの様子を見る、昨日と何も変わっていない。魔物はこの近くにいないんだよな。食器が洗い終わったら、水浴びをしよう。
気持ちいいがな、お風呂にはいってみたいな。温泉は何処かにあるのかな。
「お風呂はお金持ちの贅沢だ、お金が掛かる。いつか温泉を見付けたらとろけるまで入りたい、タダだよな」
拠点にも戻ろう、俺は急いで拠点に戻って来た。良かった、火は消えていなかった。自分で付けれないと大変なんだな。
ああ、俺は気が付いてしまった、皆に付いて行けないと暇なんだ、もうする事が無いよ。
俺に気を使ってくれて留守番なのか、初めから留守番なのか・・・暇なのは変わらないのか。
そうだ、剣を借りたんだから、素振りでもして剣に慣れよう。
両手剣の短めなのかな、子供には重たそうに見えるんだけど・・・・・・そんなに重たくないな、どうすればいいんだろう、剣術とかがあるんだろうけど、まだ聞いた事が無いな。
「剣を使っているところを見たいな、帰って来たら打ち合いをして貰おう」
暇なので体力作りをするぞ。
冒険者の体力作りなんだからと、背中に剣を背負えるように剣に紐を結ぶ、たすき掛けの様にすれば県が落ちない。忍者の真似だけどね。
背負った状態で木登りをすれば立派な体力作りだ。
「どんどん、登るぞ」
今のところ戦闘は視野に入れてないので、逃げる練習と隠れる練習をする。
この世界の木登りは初めてだ。前世の子供の頃には木に登って違う木にジャンプして移動したな。
何回も登って降りてを繰り返したが、登って来れない魔物、攻撃が届かない魔物にしか効果が無いのに気が付いた。
「練習は面白いけど、魔物の種類を知らないと対処の仕方が考えつかないな」
背の高い魔物だったら、木に登っても無駄だ。
皆が帰って来るには早いかもしれないけど、拠点に戻って食事の用意をしよう。疲れた皆を待たせるわけにはいかないからね。
薄く切った肉に塩を振りかけ鍋で焼く、パンを薄く切り、焼けた肉を乗せてパンを折る。中身の落ちにくいサンドイッチの出来上がりだ。
皆が帰って来た、出来たサンドイッチをお皿に載せて配る。先に出来ていた野菜スープ、具は少し大きめにして、食べるスープにした。
皆にはカップを突き出して貰い、その状態でスープを注ぐ。この方が早く食事が始められる。
折れたパンを手にした皆は、何これ見たいな表情をしている。横から見たり、開けてみたりしている。どうやら、サンドイッチもパンに何か載せて食べた事がない様だ。
「これなら具が落ちないな」
「こんな食べ方あったんだな」
「美味しい」
「スープがさっぱりしいて、美味しいよ」
初めて食べたサンドイッチの感想を皆が言っている。
「ユーリ、冒険者じゃなくてもやっていけそうだな」
ヴエルナさんがとんでもない事を言い出した。
「先ずは、冒険者になってから言ってよ」
俺は冒険者になりたいんだとアピールする。
「そうよね、これから冒険者になろうとしてる人に言う事じゃないわね」
そうそう、メグさんの言う通りだ。
食事をしながら洞窟の中の様子を教えてくれた、お昼の休憩が終わるとグリュックの皆は洞窟に戻って行った。