初ポーター
ギルドで聞いた酒場はここだな。ドアを開けて中に入ると我が家とそう変わらない酒場、広さも同じ位だ。カウンターでお酒をグラスに注いでいるのはマスターかな、この中に探している冒険者のグループがいるか聞いてみよう。
「すいません、このお店にグリュックの人達は居ませんか?」
「あいつらか、あそこ、一番奥テーブルにいるぞ」
教えて貰ったお礼を言って、奥のテーブルに向かう。
「グリュックの皆さんですか?」
金髪のまあまあイケメン。
「そうだけど、何だい」
「クエを受けまして、こちらにグリュックの皆さんがいると聞いて来ました」
ここにいる冒険者の皆さんの視線が僕に向く、痛い、痛いです。
「受けてくれるのはありがたいけど、君いくつ?」
「八歳です」
年を聞かれたぞ、つまらない冗談を考えている場合じゃないな。
「ちょっと待ってくれ、皆と話すから」
「はい」
話し合いを聞くのも悪いと思ったので、カウンターのマスターに空いてる席を使っていいか聞こう。
「ここで少し待たせて下さい」
「わかった」
ぶっきらぼうなのがたまらなくカッコいい、口数の少ない、マスターには憧れるよ。なりたいわけではないけど、知り合いに欲しいよな、行き付けの酒場の知り合いが。
「どうする、小さい子供が来ちゃったけど」
「誰でもいいからって、これでいいと言ってた奴がいたな」
「そうね、子供が来る可能性もあったのよね」
「そうよ、大体年齢制限は付けないと言ったのリーダーよ」
「戦闘はさせない、荷物が持てればいいからとみんなで決めたしな」
「決まりだ、俺達はポーターが必要であの子が受けてくれる」
「じゃ予定通り、今から向かうぞ」
「あの子は何も持って来てないんじゃないのかな?」
「聞いてみるか」
「おお~い、君来てくれ」
呼ぶ声が聞こえたので、マスターにお礼を言ってグリュックの皆の所に行く。話は聞こえていたけど、それは言わないのが約束だ。
「今からカルテドの南東にある大洞窟に向かうが、君は何も持って来てないのか?」
「はい、登録してすぐにクエを受けたので荷物は何もありません。ダメですか?」
「「「「「・・・・・」」」」」
皆の沈黙に、最初から着替えを持って来てればよかったと思った。
「すいません、僕帰りますね」
報酬から引くから市場で着替えを買いなとリーダーの男性に言われた、俺は服を1着だけ買った。
背負っているリュックは軽減付きらしく荷物の重さが軽くなる、凄い物があるんだな。リュックは頭より少し出ていて、僕の体よりも大きいけど重くない。リュックの中に入れた荷物の多さからするとこんなに軽いはずがないのに軽い・・・・・・俺も欲しいな軽減付の入れ物が。
グリュックの皆もリュックを背負っているが中身は軽めの着替えとかの衣類だ。
東門から出俺達は、東に向かう街道を歩いて目的の洞窟に向かう。カルテドからは、2日掛かると教えて貰った。
グリュックのリーダーで剣士のヴエルナさん、剣士のカカルさん、剣士のマシュさん、弓使いのメグさん、魔法使いのレベッカさん、男性3人女性2人の5人組の冒険者だ。
カルテドを拠点にしていて、それぞれ賃貸の宿に住んでいるらしい。
お風呂が付いてないので、たまにお風呂に行っているそうだ。うらやましい。
旅の間は川で水浴びをするとの事で、今回も洞窟の近くに川が在るので、そこを利用する。俺が水魔法で浴びれないのかと聞いてみたら、攻撃魔法なのでダメージがあるからと笑われた。
僕の横を歩いているのは魔法使いのレベッカさんだ、どうやら、体力が無いようで、一番最後尾まで落ちて来た。俺よりも体力がないな。
レベッカさんの視線は地面に、時折、聞こえてる来るのは・・・・・・疲れただ。
母さんに女性には優しくしろと心得を教えられている。
1・・年齢を聞くな
2・・体重を聞くな
3・・見た目の感想も選んで言え
4・・胸元を見るな
5・・荷物を持て
6・・聞き役に徹しろ
7・・取り合えず優しくしなさい
ふむ、7は母さんが俺にしてほしい事のような気がする、3は俺には難しいな、表現力が無い。
今できる事は、この中の5だな、よし、レベッカさんの荷物を俺が持とう。
「宜しければ、お荷物をお持ちしますけど」
「いいの、そんなに持ってるのに?」
「いいですよ、このリュックは軽いので体力作りにもなりません、もう少し荷物が欲しいと思っていたんです」
「ユーリは、力持ちだね」
俺に荷物を渡して楽になったのか、前を向ける様になったレベッカさんの顔は笑顔です。
「子供の時から冒険者になるために鍛えてますから」
「え、今も子供だけどいつから鍛えてるの?」
「3歳の夏でしょうか、確か、汗を流すのに水浴びをしたんですが、涼しくなかった」
「無茶な三歳児だね」
「そうかもしれませんが、両親は喜んでくれてましたよ。病気もしないので」
レベッカさんと話していると周りが草原の街道から南の方にそれた道、街道のような地面が石ではない土の道を進む、その分かれ道でメグさんは待っていくれた。
土の道に入った俺達のだいぶ先に剣士の3人が歩いている。待っていたメグさんがレベッカはいつも遅いと言って背中を押した。
しかし、その行動は、メグさんも疲れるしレベッカさんは早歩きをする事になるのでやっぱり疲れる。
「メグさん、背中を押したらレベッカさんは早く歩けるけど余計に疲れます。メグさんも疲れるのでここはレベッカさんの速度に合わせましょう」
「そうなのか、頑張れレベッカ」
「がんばってるわよ」
俺達のだいぶ先を歩いていた筈の3人が手を振っている、立ち止まって待っているようだ。
「ここで野営をする、各自準備してくれ」
リーダーのヴエルナさんの指示で釜戸を作る事になった。
焚き火用の釜戸を作るのに石を拾いそれを運ぶ。あまり遠くに行くなと注意されているので、近い所で良さそうな大きさの石を探す。
面白くなって来たな、冒険者になった気分だ。
近場に有った石の釜戸が完成した、こんな感じでいいんだよな。指示を出して欲しいが、ここには誰もいないので、焚き火用に乾いた木を拾い集めよう。
「大自然、魔物がいてもいなくても大自然」
街の近くは畑が沢山あって、生えている木が少ないけど、この辺は、その畑からも離れているので、沢山生えている木の下には薪として使える枝が落ちている。
俺の目の前では火魔法で付けられた焚火が燃えている、初めて見た魔法が焚火の火起こしだった。
魔法は攻撃魔法ばかりなのだろうから、人にぶつけたらダメだという事だろう。
「どうよ、初めての野営は?」
メグさんが飲んでいるスープのカップから口を離して聞いてきた。
俺は周りを見て、遠くが見えないんだなと思う。
「街の外に出たのが初めてなんですが、こんなに暗いと思わなかったです」
「そうだよね、ここでは何にもないからね」
「しかし、ユーリは体力がありそうだな」
リーダのヴエルナさんは僕に視線を向けて感心している。それは仕方ない、街の中で出来るのは体力作りだけしかない。
「そうなのよ、三歳の時から体力作りしてたんだって」
レベッカさんが自分の事の様に僕の事を教える。
「マジ、すげえな。確かに疲れてる様には見えないな」
マシュさんがうんうんと頷いて僕を見る、スープのカップからは口を離さない様だ
「登録した日にクエ受けて遠征て、八歳の子供がする事か」
カカルさんが変な八歳の子供の俺をジロジロと見ている。
「そのおかげで、こうして俺達と来れたんだからな」
ヴエルナさんが上手い事、話をまとめた。
マシュさんはスープをチビチビ飲んでいる。どうやら、猫舌だな。
全員の食事が終わると寝る事になった、見張りは俺だけだ。
自分から申し出た、明日も歩くだけなら俺が一日位徹夜しても大丈夫だろうと思った。それに・・・・・・意外と暇なのだ、少しぐらい疲れても何ともないだろう。
明日の夜は、到着した洞窟の近くで野営の予定だ、グリュックの皆は明日以降の方がいいだろう。歩く事が意外と大変そうなので、疲れを遅らせる事が出来る。
野営の見張りは暇だ、自分で言い出して暇を作るとは俺もバカだ。起きてるのは問題ないが暇だ。
焚火の火が消えない様に木を入れる。
あれ、もしかして父さん達に依頼受けた事、言ってきた方が良かったんじゃないのかな。
今更帰れないし、まあ最初のくだりで旅にでるって話をしたから大丈夫だろう。うんきっと大丈夫だ。
こんなに静かで周りが暗くて何も見えない、それに魔物を警戒しながらよく寝れるな、冒険者は図太くないと出来ない職業なんだろうな。
そうだ前世の事でも思い出そう。確か小学校で野菜の食えない友達が校庭からクラスの中を覗いてたな。
誰かが掃除の道具を入れてるロッカーの中のバケツに雑巾と牛乳を入れてそれが授業中に匂って異臭騒ぎになった。
理科の実験でアイスクリーム作ったけど、食べたのかな覚えていないな。
家庭科の授業でゆで卵を使う料理を作ったけど、俺達男子はマーカーで絵を描いたので、卵は全部使えなかった、女子は普通に食べれたのを覚えてる。
体育の時間のプールが好きだった。家から履いてきて来て、パンツを忘れたな。女子にも忘れた者はいたのかな、いないか。
それからも前世の事を思い出したが、面白い事しか覚えてなくて高校生になったあたりからは、断片的にしか覚えていなかった。
この異世界の事、地球の事、色々と考える事があるけれど、この異世界の事を知っていこう、それしかない。