王都ローランド
「母さん、王都に行ってきます」
僕が王都のパーティーに行くのを知っている母さんの反応は薄い。
「危ない事はしない、お土産は沢山買って来る事以上です。忘れないように」
「わかりました、必ず買ってきます」
学園のみんなには何も話してきてない。極秘なのだ。
僕は前日にジェシーをポール子息の家から連れて来ていたので、宿屋裏に向かいジェシーに話しかける。
「久しぶりの遠出だよ、今回はのんびり行こうと思ってるんだ」
ジェシーを連れて西門を出る。
「ユーリ、帰って来たばかりなのにまた旅に出るのか?」
あれ、僕はいつ頃帰って来たのかな。
そうか、旅から帰って来てすぐにシュラさんの所に行って、学園の武術大会が行われて、それだけしか経ってないのか。
学園が始まってまだ1週間も経っていない。
それなのにもう旅に出る。冒険者になった気分だ。
馴染みの門番さんに「行ってくる」と言ってジェシーを走らせる。
そうなのだ僕はのんびりが苦手なのだ。
そして、ジェシーは僕の友達で僕の気持ちが分かる優秀な馬なのだ。
ジェシー、君はまた速くなったんだね。
ガーランドに夕方には着いて、今はジェシーのブラッシング中。
こんなに早くカルテドを出て王都に着いたらパーティまで何処で何をしていればいいのだろう。
約1ヶ月後の予定が、25日位になるだけだよね。
確かテレビでご利用は計画的にだったかな、あれは何を計画的にだったのかな。
何をご利用するんだ、僕がよく行ったのが図書館だった。
この世界に図書館はあるはずないか・・・
調べ物は何処に行けばいいんだ、僕の嫌いな役所だろうか。
王都に着いてから誰かに聞いてみるかな。
「ジェシー今日はありがとう、のんびり休んでね」
僕はドアを開け酒場に入る。
「遅いよ、ユーリ」
「すいません、今から頑張ります」
前回ガーランドに来た時にお世話になった酒場の手伝いに駆り出されている。
酒場の女将さんが馬を連れた子供がまた来てるとお客さんに言われて、街の中を探して歩いてる僕に手伝いに来たのねと連れてこられた。
まあいい、貧乏暇なしだ。
「ビール4杯お持ちしました、空いてるお皿下げます」
この時、奥義を発動する。全テーブルの空いてる皿を持てるだけ持つ。
この技のお陰で効率よくお皿を回収、落とさない様に洗い場に持って行く。
次の奥義を発動、左手にお皿を4枚載せて右手は1枚のお皿のみ、右手で1枚づつ配っていく。
通常2枚しか持たない様だが高級レストランではテーブル全員に同時に出す。
担当がテーブルごとに決まっているからこの奥義が使えないと3往復しないと全員に行き渡らない。
奥義の連発で今夜の忙しさを緩和した僕は、手が疲れていた。
まだ子供の僕には、手が小さい弱点があり左手のバランスが取りづらかったのだ。
「ユーリ、あんなに一度に運ばなくてもいいのに腕疲れてない?」
「疲れてはいますが、左手を鍛えるのにちょうど良かったです」
「あまり無理はダメよ、落とさない様にしてね」
「分かりました」
他の人と協力して団体客に飲み物とおつまみを配る。実は団体客の方が楽なのだ。
最初からオーダーが決まっていたり、盛り合わせなどを最初に用意して後から追加が入るので後半になるまでは大皿ですむ。
「ユーリが居ると何故か忙しさが緩和されるのよね」
「頑張ってます、ただ飯にただ泊がかかってますから」
ニヤリと笑う女将さん。
仕事が終わりのんびりと夜食を頂く。
「それで王都に行って何するのよ?」
「極秘なんですが、パーティに呼ばれてるんです」
「パーティ、いつ呼ばれてるのよ?」
「25日後ですね」
「25日後?」
「そうです」
「馬で行くのよね」
「はい、ジェシーで行きます」
「2日位あれば着くよね」
「はい、着きますね」
「まあ、早く着けば街の観光と色々できるからいいじゃないですか」
女将さんに酒場の従業員が早くついてもあの街は大きいから見るのに時間が掛かると言う。
「確かに広いわね、迷子の方が心配か」
「ご馳走様でした。明日早いので、僕もう寝ます」
「ユーリ、ありがとう。寝てるから挨拶は要らないよ。気を付けてお行き」
「ありがとう」
僕は、馬小屋で寝る為に向かう。
「あの子分かってるのかな、急がなくてもいいのに。朝早く出るんだ」
「そこが、ユーリなのよ」
「ねえジェシー、君の足おかしいよ。あそこに見えるのは王都のローランドだよ。2日はかかるはずなのになんでガーランドから出て夕方に着くのかな」
そうなのだ。日が昇り始めた頃にガーランドを出発した。
次の日のお昼から夕方頃までに着く予定だったのに当日に着いたのだ。
「もしかして、馬は物凄く速いのかな。その上ジェシーが特別速い・・・」
街道から続く道の先に南門が見える。街道の両脇には畑が永遠とあるみたいだ。
王都の周りは畑が凄い広さあるんだろうな、王都に住む人が食べるだけの食材を確保しないといけないからな。
これだけ広いと、あのマシンがあればと思う。無人耕運機だ。
衛星が無いから無人は無理でも耕運機があれば、この広大な畑も生産効率が上がりそうだ。
よく考えると、機械なしで耕してるこの世界凄いな。貧乏暇なしだ。これは失礼だな。
通行書を出して順番がくるのを待つ。
畑を守るのに魔物の討伐は街の兵隊さんがするんだろうな、絶えず見回りに行ってそうだな。
王都の食糧事情はどうなってるんだろうな、人口が多いから食べ物の物価は他の街と比べてべらぼうに高そうだ。
「次、そこの君」
僕の順番だ。侯爵様に用意して貰った通行書を見せる。
「入ってよし、街の中は騎士並びに軍部に所属してない者は馬に乗る事は禁止されている。乗らない様にしてください」
「分かりました」
門から中に入るとそこは別世界、今までの街が凄く小さく感じる。
一軒一軒の建物の高さが高い。4階建てとかが普通でここから見える範囲に、7階建ての建物がある。
そして、ここから見える城が物凄い。街の中心切り立った崖の様な上に城壁が建っていてその城壁の高さが高く、城壁の上の部分から見えるお城の大きさと高さが凄い。
お城を基準に街を覚えた方が分かりやすいかも。
この広いローランドのどこかに侯爵様の屋敷があるが、城の近くなんだろうな。
身分が高い貴族ほど城に近い場所に屋敷があるらしい。
僕はお城のある方に行く事にした。前に来た時が夜でよかった。
昼間来たら圧倒されて地図通りに進めたか分からない。
道行く人に道を聞いて着いた屋敷の前。カルテドの屋敷?と違い屋敷に見える。
「すいません、侯爵様の屋敷に入る許可書です。名前はユーリです」
門番さんに許可書を渡す。
「確認してきます、少々お待ちを」
すぐに対応してくれた門番さんは走って屋敷に向かった。
侯爵様はまだ来てないはずだ、パーティの前には屋敷に来るけどカルテドでまだ職務があると言っていた。
門番さんが走って戻って来て門を開けてくれる。
「お早いお着きで屋敷の者も驚いていました。厩に案内した方がいいですか?」
なんとお客の事を考えた対応なのだろう。
「ありがとうございます、お願いします」
「しかし、見事な馬ですね。とても速そうだ」
「ジェシーといいまして、今日の朝早くにガーランドを出発したんですが夕方には着きました」
「おお、そんなに早く着いたんですか、いい馬をお持ちだ」
「僕も、このジェシーはとてもいい馬だと思ってます」
門番さんは厩を指さして「大事にしないといけませんね」と言ってくれた。
「厩がとても立派ですね」
「侯爵様の自慢の馬がいますから。ジェシーを預けておけばこちらで面倒は見ます」
「それは助かります」
ジェシーを預け、屋敷の部屋に荷物を置かせてもらい街に出る事にする。
屋敷に泊ってもいいと許可を頂いているが、侯爵様が来る頃まで街の宿屋に泊ると伝えた。
僕はある作戦がある。このローランドは王都なので広すぎる、これを利用した作戦が。
好きな様に街で過ごす、ここ大事。次に宿を決めない、ここも大事。
この作戦は、簡単だ好きに過ごすには予定を入れない。宿を決めると宿を探す事になるだろう。
それなら、夜になって予約した宿を探すより飛び込み又はその辺で過ごすでいいはずだ。
なので夜になるまでは宿の事は考えない、自由だ~。
こんなに大きい街に来たら、男なら必ず行きたいと思うところがあるそこに向かおう。
「おやじ名刀は出来たか?」
「・・・・私の事ですか?」
おやじがいない武器屋があっていいのだろうか・・・
「おやじさんはいませんか?」
「何年も前に父は亡くなったのでいませんが」
「お悔やみを申し上げます」
「ありがとう、父の知り合いですか?」
まずいぞ、話が変な方向に向かっている。
「いえ知りません、こんなに立派な武器屋さんならそれは素晴らしい名刀があるのではないかと立ち寄りました」
「はあ、そうですか。父の最後に打った剣ならあそこに飾ってあります」
僕は、その飾ってある剣の前に行った。
そこには見事な一振りの剣が飾られていた。
剣に詳しくないが、両手剣で長さが僕のミスリルの剣よりも長く重さも相当あるのが見て分かる。
輝きが凄い、ここまで綺麗に磨かれている剣を見た事がない。
「凄いでしょ、父さんが恐らくこれよりも良い物が作れないと言っていたのよ」
「まさしく名刀ですね」
うんうん頷く僕。買ってしまいましょう。
「おいくらですか?」
「さあ、分かりません。ここまで良い物だと買う方が値段を決めた方がいいかもしれません」
なるほど、良い物は買い手の評価が大事だと。
「すいません、この剣は最低でもどの位の値が付くと思いますか?」
ずるい作戦に出た、良い物だが値段の付け方が分からない。ここはプロの価値観に頼ろう。
「私だったら、金貨で10枚でしょうか・・・・安すぎるかな」
僕はビックリする、金額にも驚いたがこの街でも買う人がいない様な金額だ。
「高くて買えない・・・」
「安くはしないわよ、良い物は安く売らないのが職人なんだから」
それはそうだろうが、しかし売れないのもいけないよな。
「すいません、他も見ていいですか?」
「どうぞ」
僕は、あまり大きくない両手剣を見てこのぐらいの大きさが欲しいなと思い聞いてみる事にした。
「この両手剣と同じ位の長さで、名刀はありませんか?」
お姉さんはクスと笑いある剣を指さした。
僕はお姉さんが指した剣を見る。
確かにこれも名刀と呼んでもいいかも知れない。
「その名刀を下さい。今月の終わりに取りに来ます」
「いいけど、お金はあるの?」
「直ぐに下ろしてきます。いくらですか?」
お姉さんは考え込む、この店は値札が付いてない。
今まさにの剣と僕の運命が武器屋のお姉さんにかかっている。
「そうね、大銀貨3枚でいいですか?」
なぜ、いいですか?なんだろう。
「買います」即決だ。基本、僕は値切らない、買えれば買うこれでいいのだ。
「あら、いいの?」
「予約にしてください、すぐに下ろしてきます」
「ギルドカードを持ってるならすぐに払えるわよ」
さすが王都だ。便利だな、今まで干し肉を買うのに下ろしに行き、野菜を買うのに下ろしに行き。
何回もギルドに下ろしに行っていたのがそのまま払える。
感動はこの位にしてカードを渡す。
「お願いします」
「はい、支払いは終わりました。ありがとうございました」
「では、また来ます」
僕はドアに向かい街の探索に戻ろうとしたら呼び止められた。
「剣を忘れてるわよ」
「あ、そうか、僕がカルテドに帰る時に取りに来ます。それまでよろしく」
「わかったわ、君が・・名前は何と言うの?私はカルテよ」
「僕はユーリです」




