武術大会は
「ユーリ、職員室に来るように」
「いつですか?」
「帰りに来てくれるか」
「分かりました」
今日は授業がないので、先生の後に付いて行く。
クラスのみんなは、何かしたのかあいつみたいな顔をしていた。
なんだろう、登校初日に呼ばれるなんて思い当たる事がない。
「おい、ユーリ通り過ぎてるぞ」
本当だ、しかし声をかけるの遅くないですか先生、既に違う部屋の前に来てるよ。
「それで僕に何の用があるんですか?」
「待ってくれ学園長がくるから」
学園長直々のお話とは。
「ユーリ君、はいどうぞ」
学園長は、僕に剣を渡す?
「あの、この剣は何でしょうかよく分からないんですけど」
おっほんと咳払いをして話し出す学園長。
「実は武術大会を開催するにあたって君が強すぎるので、大会には出れないけど、その剣をあげようと呼んだんだ。クラスで選手を決める時にも君が出れない事を伝えなければならない。了承してくれるかね」
なるほど、それで呼ばれたのか。
「分かりました、先生にお任せします」
「ありがとう、ロー先生、後は任せます」
学園長は話し終わるとすぐに居なくなった。
「ユーリ、後は任せた」
え・・・・ええ~。何でそこで僕任せなの自分で辞退しろとそういう事なのか。
困ったぞ、辞退する理由なんて思いつくはずがない。
「推薦してくれた人には悪いのですが、僕は二刀流を極めている最中でして武術大会でも試してみたかったのですが、左が相手の剣を弾いて右で攻撃するので僕が断然有利になるので試合に出る事が出来ないんです。今年と来年の武術大会を辞退すると先生に申し出たんです。本当にすいません」
「この様にユーリから申し出があり了承しました」
先生達の説明が生徒より短いのが気にならなくなってきた。
今年の優勝者は3年生の女子生徒だった、準優勝者は3年の男子生徒。
準優勝者の男子生徒は決勝戦の前の試合、準決勝戦で激しい戦いで体力を使い果たして勝ち、次の日の決勝戦までに回復しなかったので負けた。
ラウンジでお昼を食べてるとポール子息が椅子を持って僕のテーブルに来た。
「どうしました、ポール子息」
「少し話したいと思って」
僕は、重箱から角煮をお皿に盛りポール子息に勧める。
「悪いな。ジェシーは元気に家の庭を毎日走ってるよ」
「そうですか、お世話になります」
「父さんも気に入っていて自らブラッシングしてるよ」
なに、貴族様か自ら働くとは流石ジェシーだ。
「男爵様にお礼を伝えてください」
「こちらこそ、更にオーク肉を貰えて母さんがユーリにお礼をと言ってた」
ポール子息も両親もオーク肉が大好きだよな。
「リュック、ありがとうございました」
「僕からすると貸すとオーク肉が貰えるみたいな感じになってきてるよ。だからどんどん借りてくれ」
「今年の休みにも貸してください」
あきれ顔のポール子息は僕にアハハと笑い話す。
「ユーリ、5日前まで旅に出ていたのにもう旅の事を考えてるのか」
「あれ、そうですね。まだ帰って来たばかりでした」
頭を掻いてそう言えば、帰って来てから5日だと思い出す。
「今度の旅では良い事はあったのかい」
「確認したわけではないのですが、ブラックドラゴンを見かけたんです」
「それは凄いな、大きさはどの位だったんだ」
「シュラさんと変わらない位だと思います。近づいていないのでその位だと」
「もしかしたら、全て生きてるのかもしれないな。ユーリが見た壁画のドラゴンは」
「そうだといいなあと思います。それと西の魔女の森に墓石が有ってそこに、リリカ・クライスここに眠る、友レッドドラゴンと過ごした地て書かれてたんです」
「凄いぞユーリ、リリカ・クライスは光の魔導士と呼ばれあの大災害を防いでこの世界を救った英雄なんだ」
「あの~、大災害とは何ですか?」
ポール子息は、凄く驚いた顔をした後で説明してくれてた。
「ユーリは、知らないのか。魔物のスタンビートがおきたんだ、各地は魔物と戦い小さい村はほぼ壊滅、大きな街でも被害は酷く誰もが何でこんな事が起きたんだと嘆いたそうだ。しかし、本当の災害はここから始まったんだ。魔物と戦っているさなか空から赤い光の飛来物が地上を目指して落ちてきた、どこからか飛んで来た魔導士リリカ・クライスはこの世界を全て覆う光の魔法で守ったんだ。全ての飛来物が無くなっても数日は光の魔法がこの世界を守っている様に見えた。と言う言い伝えがあるんだよ。確か書物にもなっているはずだよ」
おいおい、どれだけ凄い魔法なんだよ。魔法の使えない僕からするととてつもない、想像が出来ない話だな。
「ポール子息、その話にレッドドラゴンは出てくるのですか?」
「出てこないよ」
肝心のレッドドラゴンは出てこないのか。
「そんな凄い人のお墓が何で西の魔女の森にあるんですかね」
「さあ、それは分からくてあたり前だよ。リリカ・クライスは冒険者だったから、この世界を救った事以外あまり知られてないんだよ]
「ポール子息は、他のドラゴンの話を知りませんか?」
「僕が知ってる事はユーリよりも少ないよ、特にドラゴンの事は」
貴族の方が情報は多いけどドラゴンの事は分からないのか。
「おやじ、名刀が刃こぼれしたぞ」
「俺の名刀が刃こぼれするか」
僕はおじさんに初代名刀を渡す。
「おい、刃こぼれじゃないぞ。何をしたんだ」
「夜空に輝く金色の物体を突いてみたらこの通りになった」
輝く物体を差し出す。
「おお、凄いな。金塊か・・・お前剣でこの金塊を取ったのか?」
「いや、夜空に突きをお見舞いしたかな・・・」
「剣をそんな風に使うとはな・・・」
沈むおじさんにお願いする。
「名刀を甦らせてくれお願いだ。このキラキラした物体を譲ろう、どうだやってくれるか」
「まあいいが、短くなるぞ。それでもいのか」
おじさんが直してくれると言っているので任せる事にする。
「では、思い出した時に取りに来る」
「・・・・・早く思い出せよな」
名刀が蘇る事が決定したので久しぶりにのんびりと市場の露店を見物する。
あれ、あそこにいるのはリカちゃん?
「リカちゃん何してるの?」
「見て分からないの野菜の売り子だよ、雇ってもらえたんだよ」
えへへへと笑い嬉しいのだろう、お母さん思いのリカちゃんは。
「それなら、何か買わないといけないな、出世払いでいいですか?」
「もう~、お金がある時に来てよ」
出世払いを断られ買い物する事が出来ない。
あまりお金を持ち歩かない僕は考える。
「お仕事頑張って、次は必ず買いに来るから」
「無理しなくていいからね」
リカちゃんにまた来ると告げて家に帰る。
「ただいま、シシル」
「お帰り、お客さんが来てるよ」
僕を訪ねてくるお客などいないはずだ。これは友達詐欺の始まりか?
誰か分からないお客に会いに酒場に向かう。
楽しそうに話している母さんのカウンター越しに女性の人がいる。
酒場の中に僕のお客らしい人はいない。
「母さん、僕にお客さんが来てるとシシルが言ってたんだけど何処に居るの?」
僕が母さんに話かけると母さんと話していた人がこちらを向いて。
「ユーリ、遅かったわね。だいぶ待ったのよ」
見た事あるけどどなた様かな。
僕が考えていると母さんが忘れてるはこの子と困り顔で教えてくれる。
「ほら役所のヤーシャさんよ」
役所は嫌いなのだ、難しい説明を分からない様に説明する場所だ。
「侯爵様がお呼びよ」
簡単な説明ありがとう。
「お久しぶりです、僕部屋に荷物を置いてきます」
「おお、ユーリ、久しぶりだな」
いつもの部屋で嬉しそうに話す侯爵様。
「はい、お久しぶりです。侯爵様はお元気そうで何よりです」
ソファを勧められて座る。
「本日は、僕に何か御用でしょうか?」
「いや、お礼だ。さるお方が回復したのだ。ユーリが追加で持って来た血液が役に立ったのだ。この事に関わった者は皆、最初の薬だけで回復すると考えていたのだが、効き目は保証されていたが病気の方が強すぎたのか効果が見られなかったんだ。急いで血液が必要になったが、私が後日ユーリから貰った血液を届けていたのがよかった。直ぐに薬を作る事が出来た」
「役に立ってよかったですね」
「それで、王都で回復祝賀パーティが開催される。それに招待されたんだよ」
「おめでとうございます、侯爵様は公爵様になるんですか?」
「ユーリ、君が招待されてるんだ。それに貴族の身分が簡単に変わる事はない」
「そうなんですか・・・あれ、僕がパーティに招待?」
私の話を聞いていないのかと呆れる侯爵様。
「約1ヵ月後に行われるパーティに特別に招待されたユーリは王都の私の屋敷に泊まりパーティに出てくれ」
「その、お断りとか出来ませんか?学校もありますし、子供なのでそんな遠くに行くなんて迷子になりますよ絶対に」
「まず、断る事はできない。首と体が離れてもいいなら試してみるのもいいかもしれない。学園には私から話そう。迷子の事だが、王都に薬を買いに来た冒険者がいたらしくてそれも大丈夫だろう」
離れちゃうんだ僕の首、学園は休めるのか・・・1ヶ月休めるのかな。なんで知ってるんだろう?
「その、僕はどうやって行けばいいのですか?」
「それは、ユーリが好きなようにすればいい。パーティの3日前には着いていてもらいたい」
この瞬間にジェシーで行く事が決定した。
「侯爵様の屋敷に行くのに何か許可書とかは要るんですか?」
「全ての準備はラキトに任せてある、後で会う様に。セシルは元気に育っているぞ」
「もう話せるんですか?」
「おしゃべりで困っている、娘とはあんなに話すものなのかと。ユーリの小さい時はどうだった?」
「僕ですか、確か母の後を追いかけるのが好きでした。話すほうはそんなに早くなかったと思います」
「しかし、嬉しいものだな。可愛くて可愛くて、男の子がいいと思っていたが女の子もいいな」
すでに普通の親になっている侯爵様は会っていくかと聞いてくれたが、お断りした。
貴族の令嬢は小さい時から家族以外の男性にはあまりお会いにならないと聞いたことがあるので。
この後、学園ではどの様に過ごしているか、今の学園と自分が通った時の違いなどを話して屋敷を後にした。
僕が帰るのが早いのでラキトさんのお使いの人が準備した書類等を持ってきてくれた。
「ユーリ、後で職員室に来てくれ」
今日の授業も終わり帰る用意をしていたら、ロー先生に呼ばれた。
「分かりました」
呼ばれたので職員室に向かう。
「なんでしょう、ロー先生」
「行って来い」説明が無い。
「どこにでしょうか?」
「私も聞かされてないが行って来いと言えと上の者が」
「上ですか」
「上だな」
「分かりました、約1ヶ月ありますが、行ってきます」
「どこに?」
「極秘です」
「極秘か」
「極秘です」
ロー先生は事情が分かってないし、僕から話して言い事なのか分からないので言葉が短くなる。
「行ってきます」




