ギルドで登録
「ほら、簡単に皮がむけるよ」
母さんに俺が作った皮むき器を実際に使って見せている。
「凄いわ~、簡単に皮がむけるのね。母さんにもやらせて」
「はい、あまり力を入れると身が少し余分に削れるから気を付けてね」
母さんがテーブルのボールから芋を取り出して芋に皮むき器を当てて皮をむいた。
「わぁ~、簡単。ねえねえカシムこれ見てよ」
厨房で下ごしらえをしている父さんに、皮をむくところを見せる母さん。そうか、父さんの名前はカシムか・・・・・・たまに忘れてしまうんだよな。
「なんだそれは、やけに簡単にむけたな。俺にも貸してくれ」
母さんが父さんに渡すと皮のむけ具合を確認するように何回も芋の皮をむく父さんが頷いた。
「簡単にむけるぞ、これはどうしたんだ?」
「ユーリが作ったのよ、凄いでしょう」
「ああ、凄い。こんな簡単な作りで時間が掛からずに皮がむけるなんて、大変だった作業が楽になるな」
まあ、母さんと俺の作業が楽になるだけだけどね。
「それに、これ売れるんじゃないの」
母さんが、売れる事に気が付いた様だ。目の色が・・・・・・そこは変わらないな。表情が変わった、お金を狙う母さんの顔だ、いつもの顔とも言うな。
「そうだな、商館に早く登録しないと誰かに真似されるかもな」
両親の中で話が進むので、ほおっておこう。面倒は嫌いだし、現物があれば大丈夫だろう。
「ユーリ、これ商館に登録してもいいわよね?」
「いいけど、僕は行かないよ」
やけにいい笑顔をしているな母さん。
「いいわよ、母さんが行くから」
話がまとまって母さんが皮むき器の全部の手配をする事になった。登録だとかは大人のする事だ。
それにお金よりも暇を無くす方が大事だ。お金では暇が減らないのだ異世界では。
母さんが、商館や工房に製作の手配と製作費の交渉、商会に委託販売のお願いをするので、いない間は、宿の仕事が忙しくなった。
俺も母さんがいないので、忙しい日々が何日か続いた。暇が嫌いな俺は・・・・・・手伝った。
母さんが、皮むき器の色々な事が終わって、やっと日常に戻る事が出来た。
「ユーリ、皮むき器が売れ始めているのよ。それで父さんと話し合ったんだけど、お店の手伝いを他の人に頼もうと思うの、だからユーリは手伝わなくていいわよ」
父さん達は皮むき器が沢山売れると思ってんだろうな。
今までの日常では、手伝いの時間が多いので、他の仕事をする事が出来なかった。
一日3時間の空き時間で出来たのは、暇つぶしの街の散歩だった。
今まで両親に言えなかった、将来の仕事の話をついにする時が来て嬉しい。そしてこの世界の八歳の子供達がとても偉いなあと改めて思う。
「父さん、母さん旅に出ます。さようなら」
お辞儀して店を出ようとすると襟をつかまれて店から出れない。
「待ちなさい、まず説明しなさい」
母さんが怒っている。
「はい、旅に出るので探さないで下さい」
「だから、その冗談から入るのをやめて説明をして」
父さんは口を出さないが、母さんが担当者なので父さんの代わりに母さんが聞いてきます。
「かねてより、いつか子供は旅に出ると言っていたので、今がその時かと思い。旅に出ます」
「分かったから、どこに行くのか言いなさい」
母さんがおこモードから激おこモードに変わるとまずいので目的を話す事にした。
「えっと~、冒険ギルドに登録して何かクエをしてきます。初めてなので戦闘が無いクエで、もしかしたら泊まりになるかもしれませんが、クエが終わったら帰ってきます」
「冒険者になりたいの?」
母さんがお父さんを見て聞いてくる。
「はい、冒険者になります」
「分かった、冒険者になりなさい、大きくなるまでこの街を拠点にしてこの家に帰って来る事」
父さんは話のわかる男である。
「しょうがないわね、ユーリが言い出したら諦めないし、この家に帰って来るのよ」
「はい、分かりました、それでお金を銅貨1枚下さい」
「あら、何に使うの?」
「ギルドに登録するのに銅貨1枚の手数料が掛かります」
貰った銅貨1枚を手にギルドへ向かう。
話の分かる両親で良かったな。
ギルドに着いた俺は、笑顔で受付カウンターの前に立つ。ここに立ちたかったんだ、冗談は言いに来た事は有るけど、今日は違うのだ。
「あら、どうしたの掲示板は見に行かないの?」
「はい、登録お願いします」
「登録するの?」
「はい、おねがいします」
「名前と年齢をこの紙に書いてくれる」
この紙に名前と年齢を書いて渡せばいいのか、良かった、知っている文字だけで、他の文字は書けないから、これから大変だな。
「ユーリ、八歳で間違いありませんか?」
「間違いありません」
受付のお姉さんはの名前はキャサリンさん。
見せてくれたギルドカードには、Fランクの文字が左に大きく表示されてる。
キャサリンさんはランクの説明と大まかな依頼の説明をしてくれた。
各ランクにはその階級で完了した数で、次のランクに上がれる。ただ、同じ依頼ばかりだとランクが上がるのが遅れるかもしれない。
依頼にはランクがあって、自分のランクより上の依頼は受けれない。パーティを組んでいる場合は、一つ上まで受けれる。
ポーターの場合、戦闘に参加しない前提でどの依頼にも同行する事が出来る。
素材などのアイテム納品依頼にはランクは付いているが、戦闘が無い場合には、納品する事が出来る。
期限の付いた依頼、依頼者が同伴する依頼。主に同伴するは、護衛だな。
説明が終った。ギルドカードを渡された。これで依頼が受けれる。
暇つぶしに来ていたギルド、掲示板に張られた依頼書の前でギルドカードのランクを確認する。
「初心者のFランク、遂に手に入れたギルドカード、嬉しいな」
いつも見ていたので、どんな依頼があるのか分かっている。
意外に素材集めは難易度が高い。まず、知識がないと名前と素材が一致しない。どの辺で生えているか、行ってみても無い可能性もある。
討伐はFランクにもあるが街の外の村に出るネズミ、ウサギ等は簡単に感じるがネズミは1匹でも残っていると殖えて元に戻ってしまう。ウサギはいつ来るか分からない。討伐よりも捕獲の方が楽な依頼だ。依頼の内容に文句を言ってもしょうがない。
残るは、今一番俺がしたいと思っているこれだ。あえて依頼と呼び辛いのはポーターだからだ。
パーティ募集の方にもポーターはあるけど、パーティに入らないといけないと思っている。
よく読んでみても一時的に組もう的な募集をしてるように見えない。報酬も書かれていない、説明が少ないので会わないといけないんだろう、その際に違う街が拠点だと言われても困る。
元々決めていたポーターの依頼を選ぶと、はがした依頼書を持ってキャサリンさんのところに向かう。
キャサリンさんに依頼書を渡したら簡単な説明をしてくれた。
「本当にランクCのポーターの仕事でいいの?初めてなんだからもっと簡単なのにすればいいのに」
「いいんです、知識がなくて経験がない僕に出来るのはポーターしかありません」
「でも、戦闘があるから危険よ」
「大丈夫です。逃げ足は速いので」
そうなのだ、俺は小さい時、今も小さい子供だけど、三歳の時から井戸の周りを走っていた。この世界では走るのを速くするとか長距離を走るなんて誰も考えていない。でも、俺は鍛えてきた、体力作りは三歳からしている。
「分かったわ、自分の行動にはよく気を付けるのよ」
「はい、ありがとうございます」
良い人だったキャサリンさんに元気に戻って来ると言って、依頼主がいる酒場に向かった。