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温まるんですでしゃぶしゃぶ

ラウンジに向かう僕は知らない生徒から声をかけられる。


「君、名前はユーリかしら?」


この学園の女子生徒は僕の名前は知っているが、顔を知らないらしい。


僕もこの女子生徒は知らないけど。


「はい、僕はユーリです」


「あなたに話があります、こちらにいらして」


僕と女子生徒が話している廊下にはラウンジに行く生徒がクラスから出てきて邪魔になる。


女子生徒は、クラスから階段の先の廊下で話そうと移動する。


「僕にどんな用があるんですか?」


「私はシルビア・ボルボナ3年生よ、エミリー様に貴方に聞いた方がいいと伺いまして、貴方に会いにきました。温まるんですの販売先を教えてください」


なるほど、エミリー嬢から温まるんですの事を聞いて欲しくなり購入するのに販売店を知りたいと、シルビア嬢は言っているんだな。


「貴族街と言われている商会がある地域のオンデマ商会で温まるんですは扱われているそうです」


「そうですか、オンデマ商会ですね。ありがとう」


本当にシルビア嬢は12歳なのだろうか、前世の世界の女子はもっとテレビのアイドルの話とか漫画の話をしていたけど、シルビア嬢は政治の話をしてそうなぐらい落ち着いた雰囲気をかもし出している。


まあいい、確実に1個は売れそうなので、母さんは喜ぶだろう。




今日は鍋にしてみた。割り下を用意してしゃぶしゃぶだ。


野菜を少し入れといて、煮える前に肉をしゃぶしゃぶする。


一枚を取り「しゃぶしゃぶ」声に出ていた。


偽ポン酢だがこの世界ではこれがポン酢だ。


小皿に入れたポン酢と薬味それにしゃぶしゃぶを付けて食べる。


最高だ、こんなに簡単で美味しい食べ方をなんで今までしてこなかったんだろう。


この世界はシチューを食べる頻度が多いために、ほかの調理法を忘れてしまっていた。


鍋だって色々あるのになぜかシチューを作ってしまう。


野菜も美味しいぞ。野菜の種類がもっと欲しいな。苦い春菊も少しは食べたいけど市場で売ってるかわからない。


温まるんですは、最高だな。よく気が付いたと自分を褒めたい。鍋料理を昨日の夜に気が付いて急いで用意した。


しゃぶしゃぶ、しゃぶしゃぶ、野菜、しゃぶしゃぶ、野菜。


タレを足して鍋に野菜をいれる。しゃぶしゃぶ、美味しい。


「なあユーリ、不思議な食べ方だな」


いきなり声をかけられびっくりしたが、ポール子息だ。


「ああ、この食べ方はお肉が新鮮で美味しい部位の時に、少しだけお湯にくぐらせるとお肉の甘みとお肉が硬くならないのでとてもいい調理法なんです。くぐらせたら、このタレにつけて食べるんです」


「その食べ方は美味しいのか~、それでお肉は何を使ってるんだ?」


ポール子息は、お肉の時にするいつもの質問をした。


「オーク肉のロースの部分です」


やはり嬉しそうだ。まあ誘わないのはいけない事みたいな感じになっているから誘うか。


僕は席を立ってポール子息に席に座る様にすすめる。


「やり方をお教えしますので食べてみてください」


「いいのか、ユーリの分がなくならないか?」


「大丈夫ですよ、余分に食材は持ってきてるので」


ホークに刺してしゃぶしゃぶしてもらう、少し貴族的には上品ではないが自分でしてもらう。


「そうです、そのぐらい火が通ると後は、タレにつけて食べるだけです」


僕はタレの皿をポーク子息の近くに置き、タレを付けるように指示した。


ポール子息は変わった食べ方だなと言って食べ始める。


「美味しい、肉の旨味か甘く感じるな~」


次々に食べるポール子息、僕は、野菜を足し割り下を足す、タレも新しくして薬味を入れる。


オーク肉の予備を鞄から出そうとテーブルの横の下にある鞄を取ろうとした時、視界の隅に多数の靴が見えた。


僕とポール子息の後ろに男女4名の生徒が立っていた。


「あのポール子息、こちらの人達はお知り合いですか?」


食べるのに忙しいポール子息が、なんか言ったかみたいに僕を見る。


「こちらの人達は知り合いですか?」


やっと食べるのをやめ僕の後ろにいる人達を見た。


「僕のクラスでのチームのメンバーだ」


「そうですか」


ポール子息が食事に戻る。


オーク肉を出してテーブルの上に載せる。


やはりポール子息はオーク肉だと食べる事に夢中になる。


しかしよく食うよな、そんなに食べたら午後動きたくなくなるよ。


「あの~、ユーリ君、お話があります」


あれ、僕に用事なの、ポール子息に何か用があるのかと、こちらから話さなかったんだけど。


「はい、何でしょう」


目がウルウルしてるんだけど、苦手なんだよね女子の泣きそうな雰囲気は。


「私も食べたいです、その変わった食べ方の料理を」


ポール子息の女の子版でしょうか、食べたいと言った時は、ウルウルからジージーと目の表情が変わった。


どうすればいいのだ。既にしゃぶしゃぶは終わりを迎えようとしている。


それに僕とポール子息が使った鍋で見ず知らずの女子やその友達に食べて頂くわけにはいかない。


僕は確認しなければいけない事がある。


「みなさん全員が食べたいのでしょうか?」


頷くのが早いみなさん。


「「「「はい」」」」


やっぱり全員食べたいのか・・・


「分かりましたが、今日はご自分の食事を食べてください。作ってくれた方に悪いですし、この通りポール子息が全部食べてしまうでしょう。明日、みなさんに今日の料理をご用意します。それでよろしいですか?」


「「「「はい、明日が楽しみです」」」」


みなさんは帰って行った。必ず食べさせてねと念を押して。


「ポール子息、片付けていいですか。午後の模擬戦が見たいので」


満足したポール子息が食べた感想を言って戻って行った。


「美味しかったよ、こんな食べ方があるんだな」


しゃぶしゃぶは無くなったので、パンを食べて観戦に向かった。





今日も負けた。昨日よりも動きは良くなっていたが、連携がちぐはぐで、戦いづらかった。


うまくいかないくてもいい様な気がしてきた。


僕達は戦闘集団ではない、学生だ。みんながみんな騎士や魔術師を目指しているわけではない。


貴族なので領土を守る戦い方に参加しなくてはいけないかも知れないが、それは戦闘以外の事で守る人もいるという事だ。


それに楽しそうではない。仕方なくて参加している者もいるだろう。


まずは楽しまなくてはいけない、その先に厳しい現実があればいい。


平民の僕には責任がない。あっても家族に対してぐらいだ、貴族はそれよりも多くの責任がある。


しかし、今は今日のお昼の方が大事だ。


足取りは軽いが、荷物は重い。


昨日約束した、しゃぶしゃぶを5人前用意してきた。


どうせポール子息も食べると言いだすはずなので、チームのメーバー全員で食べればいい。


ポール子息とメンバーのいるテーブルに向かう。


みんなを見ると、自分の食べたい料理が食べれる事が分かって、嬉しさ全開の笑顔をしている。


ポール子息には勝手に食べて貰う。もう十分分かっているだろうから。


「今みなさんの前にあるのが調理魔道具の温まるんですです。その中にこの割り下を入れてください」


女子生徒の前の温まるんですに割り下を少し入れて続きをお願いする。


「入れ終わりましたか、火力調整つまみを右一杯に回してください、そこが最大火力になります。スイッチを押すと入れた水が温まります」


それぞれの所に行って確認する。ここまでは大丈夫みたいだ。


「お鍋に野菜を半分ぐらい入れて少し煮えるのを待ちます。野菜の硬さは自分の好みで食べてください」


みんなの野菜が煮えてきたので、そろそろしゃぶしゃぶだ。


女子生徒にホークを刺して少し回し、ホークから取れにくい様にして貰う。


「次にお肉をお鍋のお湯でしゃぶしゃぶします。しゃぶしゃぶと声に出して手を動かして下さい」


僕の指示にみんなは、「しゃぶしゃぶ」と言って手を動かす。


「もう一度声に出してしゃぶしゃぶ、今の様に2回ぐらいお湯の中をくぐらせたらタレに付けて食べて下さい」


みんなは、食べ始める。タレはポン酢に薬味。ゴマは飽きる。


前世の日本のしゃぶしゃぶのタレのゴマが美味しいと言ってる人は嘘つきだ。


まろやかで美味しい幾らでも食べれるとか言ってるけど3枚位食べるとポン酢で食べている。


それにゴマダレ自体は美味しいのだが、ゴマダレを食べてるだけでお肉の美味しさを味わっていない。


ゴマの味が強すぎるのだ。素材の味が分かるぐらい抑えたゴマダレを作って貰いたいものだ。


「美味しい、お肉が甘く感じる。タレがピリッとして更に美味しく感じる」


ポール子息の女性版の女子学生は頬に手を添えて幸せだみたいな顔をしている。


「野菜はタレに付けて食べるだけです。自分の食べたい物をどんどん食べましょう。お湯が少なくなってきたら割り下を足してください」


「は~い」


ポール子息よりいい子だ、食べていても人の話を聞いている。


「では、僕もお昼を食べてきます。食べ終わったらスイッチを押して温まるんですを止めてください」


「ありがとう、分かりました」




やっと自分のお昼だ。


今日はチーズフォンデュにしてみた。具はパンに野菜に肉の三種類定番だ。野菜は芋、トマト、ニンジン、キノコ3種類。肉は鶏肉のみ。


温まるんですにチーズと調味料を入れ温める。


パンをホークで刺して温まったチーズを絡める。


「美味しい、久しぶりだ。チーズを作っている人に感謝だな」


次は鶏肉を食べる。このチーズに鶏肉がよく合う。


「面白いな、よくこんな食べ方思い至ったよな。じいちゃんも常識にとらわれるなと言ってたな」


やばい、変な事を考えてしまう。アイデアは思い付きで作りたくなるがそれが悪い時がある。


そうなんだ、悪い人は悪い事に使う。


アイデアが悪い人に利用されない様な物じゃないといけないな。


匂いがもう少し少ないといいんだけど、まあいいか作戦遂行中だ。


母さんも少し売れてきたと喜んでいたな。どうせ寒くなれば人気商品になってるだろう。


「ユーリ、いい匂いがしますが、その食べ方は美味しいのですか?」


エミリー嬢は匂いに釣られてしまったようだ。


学園の生徒は皆、貴族の子息に令嬢だ。エミリー嬢の様に匂いに釣られてくるわけにはいかない。


エミリー嬢と僕が親しい友人になったのでこうして僕のテーブルまで来たが、友人でもない者は気になっても来づらい。


「僕は好きなのですが、チーズの苦手の人には美味しくないと思います」


「私はチーズが好きです」


いつものパターンですね。


「宜しければ、食べてみますか?」


「では、頂いてみたいと思います」


僕は、沢山持って来たフォークをエミリー嬢に渡して。


「好きな具を刺してチーズに絡めて召し上がってください。熱いので気お付けてください」


僕はホークを2つ取って、後ろにいる2人に渡す。


「どうぞ、アンバー嬢、スカーレット嬢、ご一緒にどうぞ」


「ありがとう、ユーリ」


2人も加わり3人の令嬢は楽しそうだ。楽しそうなのを見ると1年生の時にポール子息が僕の所に来なければ、この学年のみんなが楽しそうに食べる光景は見れなかったんだと思う。


みんなはポール子息に感謝しないといけないな僕も含めて。



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