自作の皮むき器
おじさんの作業台の上には鉄の板がある、細い板の長い部分の片方が鋭く削られて、刃の様で手で横にずらして触ったら切れてしまうだろう、この削られた鉄の板は気に取り付けてカンナとして使われるんだろうな。俺も考えている物に使えそうだ。
「おじさん、これ買います」
「いいけど、それだけだと使えないぞ」
「いいんです、それと回る砥石を貸して下さい」
作業台から、まだ削られていない鉄の板をおじさんは渡してくれた。
「奥の使ってないほうを使ってくれ」
「ありがとう」
踏板に足を乗せて前後に動かすと砥石が回るんだな。
踏むのは大変だけど、刃の形を見覚えのある形まで削っていこう。
鉄の板を薄くしてから、刃になる様に削っているとおじさんが、作業の様子を見ていて何をしているのか聞いて来たので『秘密です』と答えた。
「砥石を貸してくれてありがとうございます。この木材は捨てるんですか?」
刃の部分が完成した。作業台の横には小さい木材の入った木箱が有った。小さい木材はもう他の物い加工できない大きさに見える、でも、俺の作る物には使えそうだ。
「薪として使うが、欲しいなら持って行ってもいいぞ」
やった~、木材はタダで貰える。
「それで、この鉄の板はいくらでしたっけ?」
「そういえば、値段の話はしてなかったな、そこだけを売ったことが無いんだよな」
おじさん困り顔で考え込んだ、それなら俺が値段を決めよう。
「特別に大銅貨1枚にしてよ、お願いします」
「いいのか大銅貨1枚で、もっと安くてもいいぞ」
「いいんです、道具も使わせて頂いたので」
まあ、高くても便利さに比べればこのぐらいしても安いよな。それに安く買う事を考えてはいけない、この世界には大量生産は・・・・・・努力で成り立っているから。
銀貨1枚を渡すとおじさんは驚いたが、すぐにお釣りを渡してくれた。
わざと俺は言う。
「まだ買うものがあるが、うん大丈夫だ。木材も貰えたし」
「おお、そうだな。また買いに来てくれ」
「はい、おじさんありがとう」
「すいません、誰かいませんか?」
ここは木材を色々な形にしている工房で、お店の中で呼んでも誰にも聞こえていない様だ。
作業の邪魔をしない様に気が付くまで待つ事にしたけど、待つの嫌いだ。
2人の職人さんが作業に集中していて、気が付いてくれそうもない。どうしたらいのかな。
仕方ないか、俺は空いてる作業台に移動して持ち込んだ木材を勝手に加工する事にした。
木材が皮むき器の形になる様に加工していく、道具さえあれば何とかなるな。形は完成した、後は、歯を付ける為の二つの穴とヤスリで持ちやすく作業だ。
皮むき器の形を確認して、穴を開ける道具を探していると誰かが奥にあるドアから入って来た。
「君だれよ、ここで何してるの?」
「僕の名前はユーリです、みなさんを呼んだんだけど作業に忙しいのか気が付いてくれませんでした。邪魔しちゃ悪いし、怪我をされると悪いので静かに自分で作業をしてました」
「事情は分かったけど、勝手なことされると困るんだよね」
綺麗なお姉さんが少し怒り顔、怒り顔がカッコいいな。美人はいいな、怒ってもさまになる、チョット大人びてみた。
「ねえ聞いてる」
「すいません聞いていませんでした。ええと、困っていたのは僕です、読んでも答えてくれない、して欲し事があるのに相手にされない、子供だけど、お願いが有ってきているのに、まあ、それは良いでしょう、作業はほとんど終わって、この後の加工をお願いしたいんだけどダメですか?」
僕の話を聞いて、お姉さんの顔が営業スマイルになったぞ。
「そうね、私も店を空けてたのが悪いし、職人さんも気が付かないなら仕方ないか、そう悪気は無いのよ。それでこの形の何処を加工するの?」
お姉さんにほぼ完成している加工した木の先端部分を見せる。
「この先端の真ん中に、書く物貸して下さい・・・・・この大きさの穴を開けて下さい。それと全体をヤスリ掛けして持ち易いよにして下さい。お願い出来ますか?」
「なるほど、ほぼ完成してるのね。分かったわ。直ぐ出来るから待ってね」
「はい」
お姉さんは作業に集中していた職人さんに頼みに行ってくれた。
「直ぐに出来るわよ。料金なんだけどお金持ってるの?」
「持ってます。もともとお願いするつもりで来たので」
「それなら、大まけして銅貨1枚でいいわよ」
「ありがとう。大銅貨1枚しかないのですが、お釣り有りますか?」
「えっと~、大丈夫みたい、はい、銅貨9枚」
先にお釣りを渡されて、代金の大銅貨1枚をお姉さんに渡した。
「それであれは何に使うの?」
皮むき器の事を教える訳にはいかないので誤魔化すことにした。
「子供の遊び道具だと思って下さい。使い方は秘密です」
「秘密か、子供の時って秘密が好きだよね、特に男の子が」
「そうです、秘密は大好きです」
「そうそう、男の子は秘密基地とか秘密が好きなんだよね」
そうそう秘密基地が・・・・・・どこに在るんだ、この世界の秘密基地は、見てみたいな。
「はい、これでいいのかな?」
お姉さんと話していたら作業が終わった。お姉さんは職人さんから渡されると俺に渡してくれた。
「はい、良く出来てます。勝手に加工して、すいませんでした。ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそありがとう」
加工してくれた職人さんとお姉さんにお礼を言って、家に向かった。
お昼を食べた後に皮むき器を作るために色々な工房に行って、戻って来た俺は部屋で組み立てている。
木材は頑丈な木を使ったけど折れたら困るので、100均の大きさよりも大きく、細い部分をなるべく少なくした。
皮むき器が完成した。明日から便利な道具のお陰で皮むきが楽になる。
夕方の仕事の時間になった。
今日はお客が誰も来ない。宿泊客はいるけど、新規が来ないため暇だ。
しかし、その暇な時間で暇な時に何をするかを考える。
そうだ、皮むき器を自分で作ったが、頼んだ時の料金を聞いて来るのを忘れた。
まあいいか、まだ使ってみてもないんだから、うまく使えてら聞こう。
お風呂に入りたいけど、お金持ちの貴族様の屋敷か、お金を払って入るお風呂屋さんしかお風呂が無い。
ほとんどの人がタライに湯を入れて入るか濡れタオルで拭くだけなのだ。水浴びもあるけどね。
赤ちゃんの時は良かったな、小さいからお湯の量が少なくていいから、よく入れて貰った。沸かすのが大変なんだよな、特に薪だ。
今は、井戸の前で水浴びだ。冒険者とかも水浴びで済ませる人が多い。
女性の冒険者は、お風呂屋さんに行く人もいるけど、やっぱり、井戸の水で済ます人がほとんどで、女性用に簡単な衝立で囲ってある。
井戸の水は冷たいので桶に水を入れて置いて有る、少しでも冷たい井戸の水が常温になる様にだ。これは俺のアイデアだ、冷たいのは嫌だからだ。今ではおきゃさんの為に沢山の水の入ったおけが置てある。
酒場は今日もまあまあ混んでいた。よく来る常連さんが多いので助かっているので文句はないが、騒がしいのが嫌だ。あれも文句か。
自分の食事を食べていると母さんが厨房から手を振っている。
「何か用」
「注文が重なって運んでほしいのよお願い」
「分かった、あ、お釣り後で渡すから」
「はい、分かったわ、早くお願い」
次々に運んで行く俺は最後の料理をテーブルに載せて、常連客に聞いてみた。
「何かいい事でもあったの?こんなに頼んで」
「おお、聞いてくれ、討伐クエの時に少し貴重な素材が手に入って高く売れたんだ」
「それはおめでとう、何処まで行って来たの?」
「南の大森林さ、近場だがジャンボベアが出て、その毛皮が結構高く取引されている」
「ジャンボベアは強いの?」
「魔物はみな強いさ特にジャンボベアは大きいし、なかなか致命傷を与えられない。それに毛皮をダメにしたくないから戦いが長引く」
「戦い方にもいろいろありそうだね」
「まあそうだな、簡単なのはただ倒すだけでいい時だな」
冒険の話を聞けて満足した俺は、まだまだ混んでくる酒場を見て、今日は忙しくなると思った。手伝いをなるべくする、うるさいのは嫌だけど、両親の手伝いはしないといけない。異世界の子供は小さい時から手伝うのが当たり前のだから。
それに、色々と覚えたい。この世界は分からない事だらけだ。
話しを聞くのが好きな俺は、酔っ払いに絡まれないようにしながら冒険の話を聞くのが夜の手伝いの報酬だ。