武術大会
「では、この五人の中から3人を選びます。代表に選びたい一名の名前を書いて下さい」
今決めているのは武術大会の代表選手。トーナメント戦の出場選手3名をクラスから選ぶ。
フレディ子息、カール子息、リックス子息、ホープ子息、ユーリ、何故か僕の名前がある、5名の中の3人が選ばれる事になった。
推薦される事は名誉な事だが、フレディ子息13票、リックス子息6票、ユーリ4票、カール子息2票、ホープ子息2票。僕の4票はチーム票だ、僕はフレディ子息に入れた。
票の多いフレディ子息はシード選手になった。一回戦の勝者と二回戦で戦う。
「フレディ子息13票でシードです。リックス子息6票です。ユーリ4票です。以上で出場選手が決まりました。」
「ユーリ、頑張るのですよ」
「そうですよ、私達応援してます」
「ユーリ、強いところを見せて下さい」
「選ばれたからには、全力で勝ちに行けよ」
みんな、応援してくれるのは嬉しいが、推薦されてチームの4名が投票したら選ばれる確率が高くなるんだよ。これでもクラス代表と言えるのかな。
「まあ、頑張りますけど、魔法使えないと負ける様な気がします」
「ユーリは、説明を聞いてなかったんですね。この武術大会は魔法の使用を禁止している、武器による武術大会なんです。職員の皆さんが選手一人一人を魔法でガードして、攻撃が当たり致命傷と判断されると勝った事になります」
「それなら僕にも戦えますね」
「1日目の1回戦9試合が行われ、2日目は1回戦に勝った9人とシードの9人の2回戦が行われます。3日目の3回戦は、くじで対戦者を決めて、4試合が行われる。最初の試合で勝った選手と一人あまったシードの選手で5試合目が行われ、4人の選手が残る、4日目に準決勝戦、決勝戦の3試合で優勝が決まります」
「選手じゃない人はこの期間には、何をしてるんですか?」
「もちろん、クラスの代表選手の応援です」
「出なくて良かったと思ってる人はいないはずだぞ」
ポール子息は、そこで言っては本音に聞こえますよ。
それに、みんなは魔法の方が得意だから、選ばれても困るだけだろうけどね。
「魔法での大会は無いのですか?」
「魔法はいろいろ制限を付けなければならないので、強さがほぼ変わらなくなります、誰が魔法に長けてるか分かりません。それに、制限を付ければ、強い魔法を使える人は、ハンデを背負わされる事になるので、平等でもありませんから」
エミリー嬢は本当に情報に通じているな。あんなにおっとりしてるのに。
大会の1日目、第三試合が僕の試合で、今は観客席で大会が始まるのを待っている。
会場は校舎横に建っていたが、入ったことがなかった。
体育館と呼べばいいのか運動が出来るほどの広さはある。入口から見て両サイドが観客席になっていて、生徒全員が座っていても半分以上の席が空いている。
中央に学園長が来て話し始める。
「これより武術大会を始めます。先生方の魔法により安全は確保しているので、安心して試合をしてください。優勝者と準優勝者には、毎年同じ物ですが商品が用意されています。優勝目指して頑張ってください」
学園長の挨拶は短いな、入学式の時と同じだな。
「これより、第一試合を始めます。選手は中央に来てください」
進行も速いぞ、もう試合が始まる。
生徒二人が出て来た。装備は学園が用意してるので、体格の違いしか分からない。
中央で号令の合図を待つ選手に見覚えがない。クラスのにみんなしか知らない僕には、知らない人の方が多い。
貴族家の令嬢、子息のみなさんは、冬の社交界もありいろいろ知り合いが多そうだな。
「では、準備はいいですか?」
「「はい」」
「始め」
相手の出方を見ているのか対峙した二人は動かない。
前に移動して間合いをつめた選手が攻撃、それを避け攻撃をするが相手も避ける。
動き出した事で、入り乱れての乱戦になってる。
受けた攻撃を剣でいなし、反撃に移る。
両者の動きは、同じぐらいでどちらも決め手にかけている。
僅差で攻撃が当たりそこで勝者と判定された。
攻撃が当たった様に見えたがバリアが張られているのか攻撃を受けた選手は何事もなく中央に出てきてお辞儀をして会場を後にした。
どちらの選手が勝ったかを先生が告げて次の試合の選手が呼ばれた。
僕の相手は2年生だったが、開始早々に仕掛けて来た、攻撃を避けながら反撃した攻撃が当たり僕の勝ちになった。
「ユーリ、よくやりましたね」
「一瞬でしたね」
「私は、動き出したのは分かりましたが、いつユーリの攻撃が、当たったのか分かりませんでした」
「ユーリ、よくやったぞ、明日もこの調子でいけ」
第五試合でリックス子息が惜しくも負けた。
ゆったりとした進行で、お昼になる。
ラウンジでのんびりと雑談しながら食事を食べていると、金クラスと銀クラスで何か揉め事が起きてるようだ。
うちのチームはのほほんとしてるので、その揉め事も話題にならない。
「ユーリ、ちまたでオークを沢山倒した冒険者がいたそうなのよ」
「それは、この近くの場所なんですか?」
流石はエミリー嬢、情報通である。しかし嫌な流れだ。
「場所はどうでもいいのよ、問題はそんなに多くのオークを倒したのに、お土産にオークの肉が貰えてないことなのよ、わかるわよねユーリ」
やはり、お土産の話だったか。僕も令嬢に持ってこないとダメかなと思ったが、お肉がお土産て、この世界の貴族令嬢にしていい事なのか考えたら、なしでいいやだったんだよな。
ここは悪あがきをしてみよう。
「凄い冒険者がいるもんですね、僕もいつか旅をして、魔物の討伐や遺跡の探検、あとドラゴンに会いたいでね」
「でもね、私の知り合いで、オークの肉をお土産に貰った人がいるのよ。それなら、私も貰えるかもと期待するわよね」
ポール子息を見るとこちらに向いていた顔が反対に向いている。体も少し捻り気味。
どうすればいいのだ。母さんこんな時はどうすればいいですか、教訓にはありませんでした。
「次の旅の時には、特別な物をお土産としてお持ちする。なんと響きがいいんでしょうか、どう思いますかエミリー嬢」
「響きはどうでもいいわ、その特別を早く欲しいですわね」
話は決まったが、特別とは何だろう?今更特別を普通の物でごまかす事は出来そうにないぞ。
一瞬、優勝に貰える物でいいのではと思ったが、学園長が毎年同じと言ってるから珍しい物でもなさそうだ。
「そうですよね、では旅に出てきます」
「あのユーリ、休みの日にその特別を探してきてはいかがですか?エミリー様も喜ばれますよ」
アンバー嬢がとんでもない事を言ってるよ。それだと期限が早くなってる。
「そうです、エミリー様の為に頑張らないといけませんわ」
流れが変わらないよ。
そうだ、思いついたぞ、あそこに行こう。
午後からの第六試合では3年生の女性選手。女性の出場選手は6名で、今のところ初の女性選手の勝ち。
第七試合でも女性選手の勝ちで、2年生の唯一の女性選手だった。
「第八試合、始め」
今までも試合の中で一番長い試合だ。いまだに両者の激しい攻撃は続くが決定打がないのか先生の判定が出ない。
疲れの表れてきた選手に攻撃が当たり先生が勝者を伝えた。
第九試合は、先ほどの長い試合と違い早く決着がついた。
武術大会の一日目が終わった。
「準備はいいですか?・・・・始め」
僕の相手は2年生の男子選手で、シードの選手だ。
シードの人が強い人が選ばれてるか分からない。
背の高い相手にいつもの戦術で戦う。相手に一気に近づいてそこから体を沈めて足に速くて剣を滑らせる攻撃をする。
「勝者は1年銅のユーリ」
勝ちました。相手は沈んだ僕に攻撃を仕掛けたが僕の動きについてこれずに空振りした。その時には僕の攻撃は当たっていた。
最後の試合に僕のクラスのフレディ子息がシードとして試合にのぞみ、見事に勝った。
フレディ子息の剣術は相手の攻撃をいなしたり、ぎりぎりで避ける、相手のスキを突く攻撃で勝ちをとりにいく。
武術大会二日目が終わった。
「ユーリ、僕の分まで頑張ってくれよ」
「はい、フレディ子息の分も頑張ります」
ラウンジで食事を始めようと弁当を出して蓋を開け様としたところで、話しかけてきた。
フレディ子息は第四試合で二年生の女性選手に負けてしまった。
負けた当初は、負けて悔しそうにしていたが、今ではクラスの代表の中で勝ち残っている僕の応援をしてくれている。
第一試合で僕は勝っているが、第一試合で勝った僕が、午後唯一の試合でシードの選手と戦う。
本日のトーナメントの三回戦は最初にくじで対戦相手を決めた。
残った1名がシード選手として第一試合で勝った者と試合をする。
フレディ子息は後は任せたと言って自分のテーブルに戻っていった。
僕のチームの令嬢のみなさんが、僕の弁当の蓋の上にニンジン、ピーマン、椎茸をそれぞれ乗せる。
いつもは、僕があげる方なので、皆の行為に驚くが、蓋の上の食べ物はみなさんが嫌いな食べ物だ。
「ありがとうございます。これを食べて頑張ります」
みなさんがどんな気持ちでくれたのか分からないが有り難く貰っておく。
「そうです、ユーリ、この大会唯一の一日2試合に出場する選手として頑張らないといけません」
そうか、武術大会で一日に2回戦うのは、この日の第一試合で勝った選手の僕だけなんだ。
「しかし、角煮が美味しいな。僕の家のシェフも腕を上げたな」
一人だけ自分の世界を堪能している、ポール子息。
「午後が楽しみですね、エミリー様」
「踏ん張りどころですよ、ユーリ」
「疲れてはいませんかユーリ?」
僕の疲れを気づかってくれるスカーレット嬢は、嫌いな椎茸を僕にくれている。
ここは、頑張らないとな優勝の商品が何か?。あれ何をくれるか聞いてないよ。
今更皆に聞けないよな、それに商品を聞いてしまうとテンションが下がってしまう恐れがある。
ここは知らないままで、勝ってからのお楽しみだ。
「さあ、降参しなさい。今のうちに」
この人変です。まだ開始の合図も出てないのに何を言ってるんだ。
「僕はとてつもなく強い、怪我をする前に降参すれば痛い思いをしなくてすむぞ」
独り言だと思って聞き流そう。
「始め」
「この第一試合、よく見ておくのですよ」
「そうですよ、どちらか勝った方が決勝戦の相手です」
「流石に去年の準優勝者ですね、ここまで安定した戦い方をしてましたわ」
「ユーリ、この試合も大事だが、決勝戦がかかった試合があるんだから気を引き締めろよ」
みなさんが応援してくれてる頑張るぞ。
3年生同士の試合で、去年の準優勝者の動きがいい。相手の攻撃を最小限の動きでかわすし、剣の扱いに長けているのがよくわかる。
相手の選手も同じ様な動きだが、流石は準優勝者だ。
だんだんと相手が攻撃を返せないほどの速さで攻撃を振るい始める。相手は防御しかさせて貰えない。
相手の剣をはじきそのまま首に攻撃した。
怖いですね。先生が魔法で凌いでくれてるんだろうけど、首に攻撃された選手が可哀そうだな。
えっと、2年の女性の選手です。初めての女性との試合です。
僕は、防御に徹してます。ここまで勝ち上がって来たのだから動きや剣の扱いもうまいです。
剣を剣で防ぎ、間合いを開ける、この繰り返しです。
今のところ僕から攻撃は仕掛けてない。戦いづらいのだ女性だから。
母さんの教訓で女性には優しくしないといけない。
優しく勝つ方法が今のところ思いつかない。
この世界は変だよ。この年齢ならもしかして男女の力の差はそんなに無いのかもしれないが、学園の生徒は貴族の子息に令嬢だ、戦闘経験があったり訓練を日常に取り入れたりしてるはずだ。
男女の差は開くが、差が縮まるはずがないのに男女混合の試合なんておかしい。
まあ、魔物がいる世界で、それも戦闘があたり前なら男女がどうのこうのと言ってられないのかもな。
昨日の午後の試合はあっけなく終わった。
口だけで良くここまで来たと思わせる剣の扱いだった。
疲れてきた対戦相手の剣の柄の近くに思いっきり攻撃して持てないほどの衝撃を与える。
剣が下に落ち僕は、剣を心臓辺りで止める。
「勝者、ユーリ」
準優戦に勝って、決勝戦が決まったお祝いに僕の蓋の上にニンジン、ピーマン、椎茸、ナス。
ついにポール子息の嫌いな食べ物が載る。
「みなさん、ありがとう。明日も頑張ります」
「そうです、ついに最後の試合です」
「私達の応援のお陰でここまで来れましたね」
「そうですわね、明日の試合が楽しみですね」
「僕も、ユーリには勝ってほしいな」
「明日の試合は決勝戦しかないけど、終わると帰れるんですか?」
エミリー嬢をおホントと咳払いをして説明してくれる。
「もちろん、明日の決勝戦が終われば帰る事になるでしょう。しかし、特別の何かの期限もそろそろかと思います。そうでしょユーリ?」
「わかりました、エミリー嬢、アンバー嬢、スカーレット嬢の家の場所と訪問の許可をいただけませんか?お持ちしますので」
「まあ、お持ちして頂けるのですね」
「私、お教えしますわ、必ず持って来てくださいよ」
「私もお教えします」
三人の家を教えて貰っていると、ポール子息が「その前に明日の決勝戦だ」
そうだな、先ずは優勝しないといけない。




