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ポール子息の屋敷

カルテドの北門前、僕は順番待ちだ。


しかし、おばさんから干し肉を貰えてよかったよ。


帰る事ばかり考えて、食べ物の事を考えていなかったな。


「帰って来たぞ~」


久しぶりに見たエルザの宿、2か月位しか経っていないのに懐かしい。


「シシル、ただいま」


「お帰りユーリ、久しぶりね」


「うちの両親は何処に居るの?」


「忘れちゃったのお昼だから厨房だよ」


常連のおじさんが、食事をしているのが見えた。


「おお、ユーリ、帰ったのか」


「おじさん、子供のために早く帰りなよ」


「おいおい、帰って来るなりそれかよ、まだ昼だぞ」


常連と冗談を言い合う。久しぶりだなこの感じ。


「ユーリ、おかえり」


母さんが抱き着いてきた、珍しいな。


「ただいま、母さん」


「ユーリ、行くのはいいけど、旅は計画的に」


「学園が始まるまでに帰って来れたよ」


「そうなんだけど、侯爵様がラトシス村を救ってくれたお礼がしたいからと言って、ユーリを呼んでいたのよ」


「それいつ頃の事なの?」


「ユーリが走り出した、すぐ後かな、確か」


??????それ休みの初日だよね。


まあ過ぎた事はどうでもいいや、今は父さんの所に行こう。


「父さんの所に行くね」


厨房に居る父さんの前のキッチン台にお土産のオーク肉を置く。


「ただいま、父さん、お土産置いておくね」


忙しい父さんの挨拶は聞かないで、自分の部屋に荷物を置きに行く。


「母さん、出かけてきます」


「侯爵様のところね」


「違うところ~」






この屋敷か、ポール子息はいるのかな。


「すいません、こちらは、ラッド男爵様のお屋敷で間違いありませんか?」


門を挟んで門番の人に、この屋敷の持ち主を聞いた。


僕が話しかけると、話し掛けられた人の反対側の人が来た。


「ラッド男爵様の屋敷で間違いないが、君は誰かな?」


普通に対応して貰えた。


「僕はユーリと申しまして、ご子息のポール・ラッド子息とは学園で同じチームです。冬の休みの前にリュックをお借りしたので返しに来ました。学園で返してもよかったのですが、お土産のオーク肉が悪くなるといけませんので、ご自宅に伺いました。そのような事情なので取り次いで貰えませんか?」


「わかりました。ラッド男爵様に確認して来ます」





「こちらは、マーティス・ラッド男爵様です。子息のポール様はすぐにこちらに来ます」


この人がポール子息の父さんか凄く似てる親子だな。


「初めまして。学園で同じチームのユーリです。いつもお世話になってます」


「ポールこそお世話になっている、ありがとう。いろいろ聞いているよ」


親子関係は良好なんだ。僕は学園の事あまり両親に話さないな、聞いても「そうなの」で終わりそうだ。


「そうですか、どんなことをですか?」


「魔法のコツを教えて貰ったとか、貴族の令嬢とも仲良くて円満なチームだと、そう角煮を分けてくれる。他にも沢山言ってな」


「仲良く円満のきっかけはポール子息なんですよ。食事の時に、家では楽しく食事をするので僕とご一緒してもいいかと言われましたので、二人で食事をする様になったんですが、数日後にはチームの令嬢の皆さんも一緒に食べる事になったんです。さらにです、1年生全員が僕達の様にチームで食べる様になったんです。こんな事は初めてだと先生も言ってました。そのきっかけはポール子息のお陰なんです」


「そうか、ポールも役に立つ時があるのだな」


いろいろ話してるんだなポール子息と男爵様は。


「ユーリ、来てくれたのか」


部屋に入って来たポール子息は男爵様の隣に座った。


「お邪魔してます。ポール子息、リュックを貸して頂き、ありがとうございました。お土産にオーク肉をお持ちしました」


「本当か、ユーリ。それでどこにあるんだ」


そうか、ポール子息の座る椅子からは見えないよな。僕の椅子の後ろに置いてあるから。


僕は立ち上がって、リュックを取り真ん中のテーブルの横に置いた。


「凄いぞユーリ、この中全部がオーク肉なのか?」


次のリュックを取る為に後ろに向きながら。


「そうですよ、ポール子息の好きなオーク肉が入ってます」


2個目もその横に置くとポール子息は驚きの顔になり???。


「おいユーリ、2個目のリュックには何が入ってるんだ」


「リュックの中全部がオーク肉です」


僕は借りてた最後のリュックも置いたけど、崩れ落ちるようにテーブルの上に倒れた。


「すいません、3個目は家と知人のお土産にだったので入っていません」


「それはいいんだが、こんなに貰ってもいいのか?そのオーク肉を売ろうとは思わないのか」


ああそうか、ポール子息はオーク肉を高価で貴重だと言ってたから僕の事を考えてくれたのか。


「実は既に沢山、現地で売って来たんですよ。お土産は悪くなるといけないので、最後の方に倒したオークの肉をお持ちしたんです」


「それを聞いて安心したよ」


ポール子息は、息を吐くように安堵したようだ、そこまで心配してくれなくても思うけど、まあ、最初から仲良くしてくれているポール子息は凄く優しいからな。


「ユーリ、君は凄いな、ポールも自分で倒せれば食いたい放題なのにな」


ラッド男爵は楽しそうに笑って、ポール子息に視線を向けた。


やっぱり、男爵家ではオークは肉扱いかもしれないな。


「どうだろう、夕飯を食べていかないか、ポールもユーリがいれば楽しいだろ」


「食べていきなよ、ユーリ。オーク肉のお礼だよ」


二人に誘われて、食べていくことにする。





あれ、何かおかしくないかな?


僕、食事に誘われたのに自分で料理してるよ。


「ユーリ、僕は角煮が食べたい。家のシェフに教えて貰えないだろうか?」


「わかりました。僕なりで悪いですけどお教えします」


こんな感じで承諾したけど、シェフがオーク肉は高級食材なので失敗するわけにいかないと僕が全てをやる事になった。シェフは角煮以外にも作ってほしいと言ってきたので、定番のシチューにする。


この屋敷の厨房には調味料がいろいろあるので美味しいのが出来そうだ。


だが、作る量が多いのだ。一遍に作れば日持ちするからと、後は温めるだけで済むからと寸胴鍋で作らされている。一遍の響きは好きだな。


角煮が完成した。シチューはまだ弱火で煮込んでいる、ここまでさせられたら最高の味にしないと気が済まない。ロールケーキも作った、男爵夫人に食べて貰うのに。


今思う、リカちゃんの所にお土産を持って行っても男爵家には、2時頃に着いているのに夕飯に誘われたのは、僕に作らせる為ではないんだろうかと。でもいいか、オーク肉のシチューが食べれる。


料理が完成したが、夕飯まで時間があるので庭を見て回る事にした。


ポール子息は、勉強中らしい。貴族の礼儀作法を習っている。僕にもお誘いがあったがお断りした。


礼儀作法は大事だが、覚えても使う機会がないからだ。


男爵家の庭は、植木が綺麗に切り添えられていて手入れが行き届いている。


魔法の的らしき物があるので、試しに攻撃魔法を撃ってみる。


「我が手よりファイヤー」出ないな。


「我が手よりアイス」出ないな。


「我が手よりウインド」出ないな。


まだイメージが足りないのか。


その後もいろいろなイメージを考えて魔法を試すが駄目だった。


いつの間にかポール子息が来ていたが、邪魔をしない様に声をかけなかったらしいが、顔がニヤついていた。




「まあ、凄く美味しいわね、うちのシェフも腕を上げたのね」


「母さん、料理したのはユーリだよ」


「そうだぞ、うちのシェフがオーク肉で美味しく作れるはずがない」


断言した男爵様は、美味しそうに食べる。


僕は、家族の会話を邪魔しないように食べるのに集中してる。


「ユーリ、いつもより角煮が美味しいぞ」


「作り方は変えてないから、良い調味料が有ったのかもしれません」


みなさんが美味しいと何度も言いながら食べ、食後にロールケーキが出て来た。


「ねえポール、このケーキはもしかして人気のケーキかしら」


「ユーリが作ったから、全く同じ物ではないと思いますが、とても美味しいですよ」


僕も人気のロールケーキを食べた事ないんだよね。


メイドさんがみんなにケーキが載った皿を配ってまわる。


自分の前にもケーキが置かれたが、僕は今は食べれそうもないのでと辞退した。


「中がしっとりしていて、甘みが丁度いいわね。本当に美味しいわね」


楽しい食事が終わったので、帰る事にした。


「突然の訪問すいませんでした。ごちそうさまでした」


「ユーリ、オーク肉ありがとう。また学園で会おう」


「はい、学園で会いましょう」



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