敵のいない草原
朝、恒例のギルドのクエ更新時間、ギルド内にいる冒険者が我先にと掲示板の好条件のクエを探す。
20名ぐらいの人が掲示板を見ている。条件にあったクエが見つかった人から、紙を剥がして持っていく。
僕の番は皆がいなくなった後だ。のんびりとソロの僕でも出来るクエを探す。
この街の常連の冒険者にボウズと呼ばれている。
たまに声をかけてくれるのがうれしい。
ここ何日かソロで出来るクエを手当たりしだいに受けている。
期限がなければ何個も抱え込んでクエをこなしているので、受付のお姉さんも気にしなくなってきた。
一日に最高で16個のクエを完了させた。
この時は、素材が重複していたので沢山集めた。討伐クエも重複していたので一日の完了数が増えた。
討伐クエの数体のクエが何個も出ている時がある。
クエを受けてギルドを出て行く冒険者、今日は諦めて出て行く冒険者、出て行かないで話し込んでる冒険者。
掲示板の前から皆がいなくなってのんびりと見る。
オーク肉のクエ、じゃなくてオーク討伐クエだ。マシュさんはオークのクエをオーク肉のクエと読んでるのかな。
オークの討伐クエの数はあれ、数の記載がない。何体でもいいクエか、場所はマルネ村の西にある川を渡った地帯付近。
戦闘に慣れたきた僕なら、ソロでオークを倒せそうだ。それに美味しいお肉も食べれる。
これだ、これに決めた。一人で引ける荷車を借りれたらオーク肉を沢山持ってこれる。
受付に「このクエに行ってきます」と告げて走り出すと。
「大丈夫なの?」と受付のお姉さんにに言われたので「大丈夫です、沢山持ってきます」と言ってギルドを後にする。
「おばさん、荷車貸して下さい」
いつもお世話になっている干し肉屋のおばさんだ。
「あと、干し肉を10日分ください」
「干し肉は10日分、荷車は何に使うんだい?」
「肉、オーク肉を乗せてくる」
おばちゃんは、何か考えてる。
「よしオーク肉と交換なら貸すよ、それも一人で引ける一番大きいの貸すよ、どうだい悪い話ではないだろ」
おばさんは交渉上手なんだな。
「分かったよ、おばさん。楽しみに待っててよ」
「そうかい、それじゃおまけしとくよ15日分だ」
おおなんと気前のいい事だ、5日も増えたぞ
「ありがとう、頑張ってくるよ」
「楽しみにしてるよ」
おばちゃんに借りた荷車、一人用なのかな、荷台が大きいけど、大人なら一人用に見えるのかな。
西門を出て街道を荷車を引いて歩く。
街道の先の方で手を振ってる、おじさんが何か叫んでる
「お~い、ボウズ、お~い」
街道で待っていたおじさんは、農家のおじさんだ。
離れていても会話をしないといけない田舎の農家みたいに、僕も声を張りあげる。
「お~い、おじさん、お~い」
お互い相手を確認できたので、僕がおじさんの所に行くまでおじさんは手を振って待っていた。
「ボウズ、その荷車引いてどこに行くんだ」
「オーク肉を捕りにマルネ村の西に行くんだ」
「マルネ村の西か、草原のあるあたりか?オーク肉かいいな、美味しいんだろうな」
「それで僕に何か用事でもあったの?」
「そうだ、あの時のネズミを近所の子が数えたんだ、いくついたと思う?」
ええと、大樽に見た感じで50匹ぐらい浮いていたから沈んでるのも入れて、100匹いたとして、4箇所合わせて400匹ぐらいかな。
「400匹位いたのかな」
おじさんはニヤリと悪い顔になり数を言う。
「894匹だ、少々の誤差はあるかもしれないが約900てところだ」
「ええ、そんなにいるわけないじゃん。それ本当なの?」
どうだ驚いただろうと言って「3回も数えたそうだぞ」
農家の害虫の被害は死活問題だな。他に受けた2箇所の畑も、ここと同じ位いたのかな。自分で数えなくて良かった。
「それで、ネズミの討伐報酬をもっと払った方がいいのか聞きたくてな、ギルドに行こうか迷ってたんだが街道に来てみたら、ボウズが見えたんだ」
よく見えたよなあの距離で、僕はもっと近づいてからおじさんだと分かったのに。
「いいですよ、あの金額でギルドにも完了報告もしたし、数えるのも嫌だったんだから」
「そうだな、数えるのは俺も嫌だった」
「おじさん、僕行くね」
「ああ、ありがとう。気を付けろよ」
「わかった、ありがとう」
おじさんはネズミが沢山獲れて嬉しいんだろうな、あ、違うかな、被害が減るのが嬉しいんだよな。僕と同じで、ネズミを数えるのが嫌だったんだから。
マルネ村に着いた時には夜になっていたので、村に入れてもらえなかった。
見張りの人に聞いてみたら。
『夜はどこの街でも村でも入れないぞ。緊急の場合は出入り用の許可書を発行してる。外から来る者は基本は入れないよ』
そんな事知らなかったよ。誰も教えてくれなかったぞ。
入れないのなら目的の場所に行こう。ここからは遠くないとの事なので。
静かで快適な感じだが、魔物に気を付けないといけない。夜行性の魔物もいるだろうし街道からは外れない様に。
川が見えてきたな、橋を渡るとその先がオークがいるかもしれない地域だ。
こちら側で野宿だ。何処にすればいいんだ野営地。河原に下りて、周りの地形をよく見る。
砂利があって音が鳴れば、何かが来れば分かるので、ここを拠点にしよう。川幅が広い、川の深さもあるから、川からの危険も少なそうだ。
「この砂利が多くて広い場所を拠点にしよう」
寝る前に出来る事は、借りた荷車を橋の下に隠そう、明日の昼間も荷車を使う事はないだろう。
橋の下に行き、水はどこまで来るか確認してみると、水草は生えてない、苔も周りにない、水がここまで来た跡もない。よしこれなら荷車を置いておける。
荷車を隠して拠点に戻り、改めて周りを見て、ここなら魔物が出ても対応できるはずだ。
時間があれば、斜めにした板で雨除けを作りたいな、でも今は寝よう。
荷車を引いて来たから疲れたのかもしれないな。
干し肉を食べて元気に『一杯倒すぞ~』と言ってから恐らく4時間ぐらいたった今、草原で罠を製作中。
忍者が草を結んで転ばす罠をどんどん作っている。
落とし穴も作った。木の杭を打ってロープを結んで足を引っかける罠も作った。
でも魔物がいない。移動してここまで誘導して連れて来るのも面倒だ。
効果があるのか無いのか確認も出来ずにオークを探している。
暇です。この世界は広くて魔物を探すのが大変です。
「どんだけ、草原なんだよ」
歩きながら干し肉を食べて周りを見る。大洞窟なら魔物であふれてるのにこの草原で出会った魔物はまだいない。
街道の方を見ても誰も通らない。
南に進んでみたら、草原の先が崖で遠くまで見える。ここからならもしかしてオークを見つけられるかもしれない。
崖下を見ると、オークが見える。他にも魔物がいる。もしかしてこの下から向こうが生息地帯なんじゃないのかな。
オークの生息地は村の西の川を渡った地域だった。あれ説明に草原は出てきてないぞ。
どうして草原だと思ったんだろう。わからないが、まあいいか。
崖を降りるのに獣道らしき横道がある。人が一人通れるがその歩けそうな足場は傾いていて滑り落ちそうな感じに見える。
その先に滝がある。凄い水しぶきだ、僕が拠点にした川からここに流れて来ているんだな。
川で船に乗って何処にけるのか考えてたけど、もっとこの世界を知らないと危険だ。
でも、今はここを降りてオークを倒しに行かないと。
「怖いよ、落ちちゃうよ」
「足が片方しか乗らない」
「すべる、すべる」
「ああ、落ちたよ僕の干し肉が」
「あ、緩やかになってきた」
足元が不安な箇所を何とか攻略して、今は滝の近くまで来ている。見上げると降りてきた高さに唖然とする。
「上からだと怖くて何処まで深いか分からなかっけど、崖の上まで相当の距離があったんだ」
「この崖、今来た獣道じゃ上って帰れないよ、あとで探さないと」
下りた崖から崖伝いに歩いて来て、やっと川に着いたよ、はあ~。
滝つぼに川の水が落ちてくる。ここから滝の裏に洞窟があるのが見えるな、こちら側から洞窟に行けるし、川の反対側にも行ける様な人が通れる道がある。この道人が作ったのかな、それとも自然に出来た道なのかな。
「オークを倒すのは後でもいいか、洞窟の中が気になる」
滝の裏を歩き洞窟の近くまで来ると川の方を見ると。
「落ちてる水の量が多いから川の向こうが見えないや」
洞窟の入口が大きな、道も広い。どうするかな明かりが届いている所まで行ってみるか。
剣を抜き警戒して進む、明かりの届いている所で止まりその先は行き止まり。
なんだもう少し先が見えていれば、行き止まりが滝の入口からでも見えたな。
洞窟を発見した時は、何か冒険の始まりみたいでわくわくしてたのに行き止まりだなんて、ハア~。
「世の中そんなに甘くないか」
滝の洞窟を挟んで反対の川のほとりで、こちらの方の崖はどうなってるのかなと見上げると。
「降りてこれそうな道があるよ、怖い思いして降りて来たあそことは違うな、登る事も出来る様に見える」
今のところ、無駄なことをしてるな。罠作りに、現れそうもない草原で魔物を待つ、危ない思いをして降りた崖だ。
それに落とした干し肉、半分ぐらいなくなったよ。
今日は疲れたから拠点に戻って休もう、明日だ明日から頑張ろう。
「そうだ、今日は偵察をしていたんだ。この付近の安全確認と魔物の生息地帯、そして崖を安全に降りる方法をみつけたんだ」
干し肉をかじり。明日は必ずオーク倒す、それも沢山。頑張るぞ~。




